2通目 異世界あるあるは本当なのかについて 1日目

『ねぇ、歌織ー。

そっちでなんか面白い話ないのー?』


僕の彼女は、転生して異世界にいる。

どうやら、彼女はとんでもなく素晴らしい才能を持っているようで、こうして世界を超えて通話する魔法を習得した。

そのおかげで、後追い自殺を考えた僕も、学校に行ける程度にはメンタルが回復した。

ありがとう、異世界転生を考えた人。

僕からすれば、直接会って、その靴がくったくたになるまで舐めまわしたいレベルの偉業だと思う。

そんなことを思いつつ、僕は話をねだる彼女に返す。


「勇希が喜ぶような話はなにもないよ。

久しぶりに学校に行ったけど、皆に変に気を遣わせた話くらいしか出来ないし」

『そう?…パパとママは大丈夫?

私が死んで、後追いとか…』

「それは無さそうだよ。

…遺品整理してたときに、ずっと泣いてたくらいで」


勇希の遺品整理は、僕も手伝った。

遺品の中には、僕がプレゼントしたものも当然あった。

そして、彼女が僕にプレゼントするつもりだっただろうものも、同じくらい出てきた。

話せてはいるけど、触れられない寂しさが胸に込み上げてくる。

僕がそんな気持ちに苛まれている中で、勇希は申し訳なさそうに笑った。


『あー…。親不孝な娘でごめんって言っといてよ』

「直接言えばいいじゃないか。その魔法で」

『大丈夫?異世界ものの知識とか碌にないから、幽霊とか幻覚とか思われない?』

「大丈夫だよ。僕もこうして、普通に話しているじゃないか」

『いや、歌織の場合は知識があるし…』


言って、断る理由ばかりを探す勇希。

僕は呆れたため息を吐き、水鏡を指で弾いた。


「話せるときに話しておいた方がいいってのは、もう十分わかってるだろ。お互いにさ」

『………』


勇希は少し考える素振りを見せ、「うん。そうだね」と軽く返す。

彼女も彼女で、こちらでまだまだしたいことがあったようだ。

異世界で生きていることがわかったのは嬉しいが、こちらに帰ってきてくれないものか。

そんなことを思いつつ、僕は彼女に問うた。


「そっちの暮らしはどうなの?

テンプレートに、中世ヨーロッパみたいな感じな暮らし?」

『ううん、全然。剣と魔法の世界ではあるけど、わりと発展してたよ。

電話だって置いてたし、車だってあるし』


馬車とかじゃないのか。

産業革命でも起きたばかりなのかな、と思いつつ、僕は質問を続けた。


「ふぅーん。…じゃあさ、モンスターの肉が美味いとかってホント?」

『それはマジだね。

フレアブルって牛がいるんだけど、そいつ火ィ吐くから舌が焼けててさ。

捕獲してその場でタンが食えるの。

ただ…、味噌とか醤油とか、発酵したモンが全然手に入んなくて。

あーあ。帰って味噌汁食べたい。

……ん?味噌汁って「食べる」って表現で合ってるっけ?』

「具なら食べる、汁なら飲むだね」

『………なんか違うの、それ?』

「好きに言えばいいんじゃない?極論、言葉なんて通じたらなんでもいいんだよ。

ほら、英語できないベテラン芸人さんの適当英語だって、ネイティブの人に通じてるし」

『そういうもんか』


仕留めてすぐに食べられるタンか…。

そういえば、勇希と焼肉に行ったことはなかったな。

…学生の身だし、焼肉に行くほどのお金なんてないんだけど。

どんな部位が好きかも知らないなぁ、と思っていると、勇希が「あ、そうだ」と思い出したように口を開いた。


『異世界で配信系とかも流行ってるじゃん?アレ、こっちにもあったよ。

流石にインターネット自体はないけど、地上波放送にコメント欄つけたみたいな感じのやつ』

「へぇ。聞かせてほしいな」

『んー…。でも、なんていうか、みんなバトルか飯テロもので数字稼いでんだよねー。量産型っていうのかな。

モンスターの生態とか、ペットの動画とかはないなー。

なんか、アリの巣に溶かしたアルミ突っ込む動画あったじゃん。

スプラッタなわりに、あんな感じの知識欲が満たされるような刺激が足りないんだよ、こっちのチャンネル』

「あー…。そういうの好きだもんね、勇希」

『もうちょっと倫理観ぶっ壊そうよー、異世界らしくさー。

酒!暴力!セッ○ス!!って感じで』

「その発言、わりとアブないね」


カマキリの腹を水に浸して、サナダムシをひり出す動画とか、ゴキブリを食う爬虫類の動画とかが好きだったっけか。

自分の恋人ながら、趣味が終わってる。

そんなことを思っていると。彼女の背後から、こん、こん、と音が聞こえた。


『あ、ごめん。仲間の子だ。

…見られちゃまずいし、今日はここまでにしとこっか』

「うん。また明日」

『また明日ねー』


ぶつんっ、と、テレビの電源が切れるように、水が霧散する。

明日はどんな話ができるだろうか。

…明日に備えて、なにか面白い話を何か探しておこう。

そんなことを思いつつ、僕はベッドに寝転んだ。

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