第14話 夏祭りを楽しもう

 夏祭りである。

 俺と真鈴と友人たちは、グループで夏祭りに来ていた。

 俺は普段着で。他の奴らは着流しや浴衣を着ていた。真鈴も浴衣だ。可愛い。

 

「それでぇ、何処まですす――」

「こら! ちょっとこっち来なさい」


 俺たちの仲の進展具合を聞こうとした男友達が、女友達に引きずられていく。

 何か不味いことでもあったのだろうか。


「(あの二人の恋愛模様は外野が軽々と口を出しちゃダメなの! 二人とも頭がいいせいで気苦労が多いんだから! 恋愛ぐらいは伸び伸びさせてあげなくちゃ!)」

「(確かに。考えが足りんかった)」

「どうかしたのか?」

「いや、すまんかった。真夜星。俺の考えが足りんかった。がんばれよ!」

「何をだよ、明人。もう少し具体的に話してくれ」

「それは言えないなぁ」「言えないねぇ」


 何だこいつら……。と友人ながら思ってしまう。

 まあいいや。夏祭りを楽しむとしよう。


「まず何を食いに行く? 俺は綿菓子を食いたい」

「良いね。夏祭りって感じがするぜ」

「真鈴ちゃんは何が食べたい?」

「私はりんご飴かな」

「ふー! 夏祭りしてきたぜ!」


 謎に動詞化している明人を尻目に俺たちは、まず食い物を調達しに行くことが決定した。すでに花火大会の場所取りは終わっている。

 色々と持ち寄って、みんなで分けようということになった。

 

 というわけで出発進行だ! 目標は綿菓子とりんご飴! 俺と真鈴がコンビを組んで菓子を調達してくるぜ! 他にも気になるモノがあったら買ってきていいそうだ!


 友達と親友との夏祭りという人生で初めての経験によって、俺のテンションは自然に上がってしまう。

 真鈴と手をつないではぐれないようにしながら、俺たちは人混みの中をするすると進んでいく。


「(自分から手をつないでくれた……‼)」

「どうかしたか?」

「ううん! 何でもない!!」


 やけにうれしそうな真鈴を人の流れからそれとなくガードしながら、俺たちは進んでいく。


「わたがしっ、わたがし~」

「機嫌がいいね。そんなに楽しみなのかい?」

「ああ。夏祭りと言ったらわたがしだろう」

「なるほど。一理あるね」

「あのふわふわの甘味は、俺にとってカルチャーショックだった。子供の頃、両親が存命の頃に食べたきりだけどな。それでもあの空の雲を食べてみたいという幼児の願いを叶えるようなものは、はっきり言って俺は楽しみすぎて気が狂いそうなぐらいだ」

「それは大変だ」


 やっぱり好きな物を目の前にすると人間って早口になっちゃうよね。

 俺はそのことを自覚しながら、回る口を止めることができなかった。

 

「まず発想が凄いと思うんだよ。ザラメを熱して、砂糖を湯気状にしようっていう発想が」

「確かにそうだね」

「そしてそれをぐるぐると巻いていくんだぜ。あの渦巻く作業はきっと誰もがやってみたいと思うんだよ」

「私もそう思うね。ああして縁日を彩ってくれる人たちには感謝の念が絶えないよ」

「そうだろう! そして端にフワリと巻き付いたあの魅惑の甘い雲」


 俺は口の端を歪める。

 真鈴はずっとニコニコしていた。


「是が非にでも食したい!」

「着いたみたいだよ。これで食べれるね」


 何か子供の付き添いをしているおねえさんみたいな風格を漂わせつつある彼女を尻目に、俺は列に並ぶ。


「それじゃあ私はりんご飴を買ってくるよ。二人とも列に並んでいたら効率が悪いからね」

「おう。わかった」

「……」


 少女はつないだ手を見る。

 そしてゆっくりと握った手を手放した。

 ひどく名残惜しそうに。


「すぐに戻ってくるよ」

「なんかあったらすぐ電話で呼んでくれ。すぐに駆け付けるから」


 そう言うと少女は人混みに紛れていく。

 あるいは俺も一緒に行った方がいいだろうか。けれどあまり友人たちを待たせるのも悪いしな。

 彼女もそう思ったから、別行動をとったのだろう。

 というわけでおとなしく列に並んで待つ。すると順番が回ってきた。


「三つください」

「あいよ!」


 というわけで わたがしを 三つ てにいれた !

 テンション上がるなァ。テーマパークでチュロスを食べている時並みにテンションが上がるぜ。

 そうやって上機嫌になっていると、何処からかそのテンションに水を差す音が聞こえてきた。


 子供の泣き声だ。

 迷子だろうか。


「真夜星! 私も買ってきたよ」

「真鈴、これも持ってってくれ。迷子がいるみたいだから、俺は行くよ」

「分かった。行っておいで」


 彼女の言葉に背中を押されて、俺は泣き声の出所へと駆けていく。

 これは俺の性分だ。一生治らない類の。

 でも俺はこの性分が気に入っている。

 なので、こうして泣きじゃくる子供と目線の高さを合わせて、こう言ってやるのだ。


「大丈夫か?」


 と。



 □



 子供と手を繋ぎながら、俺は夏祭りの総合案内所に向かって歩いていく。


「それでね。お姉ちゃん迷子になっちゃたの!」

「そうか。それは大変だな」

「だから探しに行こうと思ったら、お財布落としちゃってね。それで……」

「ああ、泣くな泣くな。お金ならお兄ちゃんのを使えばイイさ。それよりお姉ちゃんも君を探しているだろうから案内所へと向かおう」

「わかった! ありがとうお兄ちゃん!」


 基本的に迷子の子供は、自分を迷子だとは考えないことが多い。

 謎だ。いや、自分を迷子だと認めてしまうと心細すぎて耐えられないからかもしれない。それなら納得だ。

 しかしこの人混みで直接、この子のお姉さんを探すのは得策ではない。

 なので俺は総合案内所に向かうことにした。この夏まつりにおいては、迷子センターの役割をしているのだ。


 いくら探しても子供が見つからないとなれば、そこに向かうだろうと考えた。

 ちなみに迷子の子供の名前は、健君というらしい。そして俺はそんな彼を肩車している。

 こうして高さを出せばお姉さんを見つけられる可能性が高まるからだ。俺の身長は無駄にデカいし。

 今のところこの試みはあまり効果は出ていない。

 そうして練り歩いている内に俺は遂に総合案内所に到達した。

 

「すいませーん。迷子の子供を連れてきたんですけど」

「おお、これはこれは、ありがとうございます!」

「名前を教えてくれるかな?」

「ボク、健!」


 元気よく自己紹介してくれたところで、事態は動いた。


「健!」

 

 痛切なほど安堵が入り混じった声が総合案内所に響く。どうやらお姉さんもちょうどここに来ていたらしい。よかったよかった。


「貴方は……」

「見つかってよかったな。それじゃあ俺はこれで」

「待って!」


 お姉さんに呼び止められる。何だろうか。


「宗片さん、だよね」

「そうですけど、そういうあなたは?」

「私は折本美香です。あなたと同じ高校の」

「おお、これはこれは。弟さんが無事でよかったです」

「はい。本当にありがとうございます。宗片さんって優しいんですね」

「? 迷子の子供を送り届けるのは普通のことでは?」


 というか個人的に義務レベルのことだと思うのだ。迷子の手を引いてやるのは。

 子供というのは一度や二度は迷子になったことがあるという物だ。そんなときに頼れる大人がいたかどうかは、その子の一生を左右しかねない。世の中には悪い奴もごまんといるのだし。

 なので俺は迷子の子供を見つけた時は積極的に手を引いてやることにしているのだ

 

 そういう感じのことを説明していると、折本さんはくすりと笑った。


「本当はもっと怖い人だと思ってました。私たちのことを助けてくれたけど……」

「人を殺したから? まあ、確かに人殺しは怖いよね」


 かといって引き金を引かねばもっと大勢死んでいたのだ。俺は結局殺すことを選んだだろう。見殺しだけはあり得ないからな。


「そうじゃなくて、その後の」

「ああ……。それは、確かに」


 あれも一応もう二度とこのようなことが起こらないように、周囲への威嚇の意味を込めてやった事なのだが、そのせいで俺は周囲に怖がられていたらしい。当然の帰結か。ていうか、そんな奴を受け入れてくれる俺のクラスメイト凄くね?

 そうして改めてクラスの友人たちに感謝していると、俺は折本さんが微笑んでいることに気付いた。


「また学校で会いましょうね」

「何だったら、一緒に夏祭りを楽しみませんか? たくさんいたほうが安全だし、楽しいじゃないですか」

「良いんですか?」

「はい」


 というわけで折本さんも合流することになった。



――――


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