第10話 天賦の才②
パンドラに魔力の才能があると褒められたその日から、俺は愚直に剣術と魔法の訓練に励んだ。
午前中は父が連れてきた騎士団長のモールスにしごかれ、午後はひたすらパンドラにしごかれる。
そんな日々を一週間、二週間、三週間と過ごすうちに、剣術と魔法の腕はかなり上達したと思う。
やはりヴィルヘイムの才能は特別だ。
コイツは努力さえすればかなり光る才能を持っている。
その証拠に、
「いいですぞぉ、ヴィルヘイム様! その調子で腕がもげるまで振りましょう!」
と、目の前で騎士モールスが口うるさく指導してくる。
モールスの指導熱は、初日以降どんどん上昇していた。何度も何度も、「ヴィルヘイム様には天賦の才能があるやもしれない!」と言ってくるのだ。
褒められる分にはものすごく嬉しいし、モールスの気合の入った訓練メニューは地獄だが、その分、自分の成長を実感できるから楽しい。
まあ、声がデカいからあまり近くで叫ばないでくれるとなおいいな。
今も鼓膜がギンギン言ってる。
「腕、が! もげた、ら! ダメ、だろうが!」
繰り返し木剣を振りながら突っ込む。
こうして会話を挟むと、意識が分散されて体力に少しだけ余裕ができる——かもしれない。
だが、
「それくらいの勢いとノリで木剣を振るのです! ヴィルヘイム様は凄まじい速度で強くなっている! きっとできます! 千切れますとも!!」
騎士モールスと話してると頭が痛くなってくる。
声もそうだが、吐き出される台詞が脳筋すぎてヤバい。
コイツが騎士団の団長とか、ウチの騎士団終わってない? 大丈夫?
密かに自領の未来を憂うが、実力は本物っぽいので言われたことはこなす。
毎日のように限界を超えているんだ、今更メニューがどう増えようと関係ない。
俺は——ヴィルヘイムは、天才だからこなせる。
そう信じて最後まで剣を振った。
▼△▼
「ハァ……ハァ……ふう」
早朝の訓練も二時間ほどが経過する。
かなり過酷なメニューをこなした。休憩していいと言われたので、木剣を放り投げて地面に座る。
そこへ、騎士モールスが声をかけてきた。
「ヴィルヘイム様」
「モールスか。なんだ」
「ヴィルヘイム様は私の予想を超えるほどに素晴らしい才能を持っている。正直、あれだけ過酷なメニューをやれと言われたら、現役の騎士だって引くレベルですよ?」
「……あ? なんだと?」
お前……それを最初に言え!? 俺は平均よりやや上くらいの訓練内容だと思っていたからこそがむしゃらにこなしてきたんだぞ!?
まさかそれが、大人でも嫌がるレベルの内容だったとは……俺はお前に引いている。
「もちろん、大人と子供では体力や身体能力に差があるので、大人なら汗水垂らさずとも乗り越えることは可能でしょう。ですが、あなたはまだ10歳。あまりにも若すぎる……」
珍しくモールスが真面目な表情を作っていた。
俺はため息を吐きながら訊ねる。
「さっきから何が言いたい。俺に謝罪にしたいのか? それとも、俺を褒めているのか?」
「両方ですね。いや、褒めている、と表現するのが一番適切でしょう」
「なら当然のことだ。俺はコーネリウス家の嫡男だぞ? できないことはない」
——こともないけど、ヴィルヘイムくんは傲慢だからね……。
「ハハハ! さすがはコーネリウス公爵のご子息。立派ですな」
どこか遠くを見るモールス。
コイツは父の現役時代を知っている。何か思うところでもあるのだろう。
それから再び視線を戻し、モールスは言った。
「では、そろそろヴィルヘイム様の成長を実際に見てみましょう」
「……なに? 俺の成長だと?」
「ええ。休憩を挟み、午前最後の鍛錬は——私との一騎打ちです!」
▼△▼
急遽決まったモールスとの一騎打ち。
当然、今の俺が現役の騎士団長に勝てるはずがない。それは、見学のために訪れた使用人や父もわかっているだろう。
これはあくまで実力を測るための試練に過ぎない。
だから俺は、緊張なんてせずに挑むことになる。
——わけあるかああああああ!!
なんでいきなり模擬戦!? しかも観客が無駄に多い!
後ろでパンドラもくすくすとこの状況を笑っていた。
「ふふふ。これは頑張らないといけないみたいですねぇ、ヴィルヘイム様?」
「ぐぬぬ……」
これにはさすがのヴィルヘイムもぐぬぬだ。
しかし、別に勝つことが目的ではない。同時に、逃げることもできない。
であれば、俺のやるべきことはひとつ。少しでも己の才能を見せ付けて善戦する。それしかない!
「準備はよろしいですか、ヴィルヘイム様」
騎士モールスが木剣を手に俺の前に立つ。
こうしてこれから打ち合うかと思うと、普段の馬鹿さはともかく、とても大きな体に見える。
モールスを見上げて、俺はこくりと頷いた。
「問題ない。すぐに終わらせてやる。お前は精々、恥をかかない程度に努力すればいい」
「ははっ。そうですね。なるべく頑張らせていただきましょう!」
お互いに距離を離していく。
だいたい五メートルほど距離ができると、同時に足を止めて振り返った。真っ直ぐに視線が交差する。
「では、僭越しながら私が試合開始の合図をさせていただきます」
父の専属執事が、低く通った声を発する。
俺とモールスはもう木剣を構えていた。いつでも飛び出せるように鋭く相手を睨む。
そして、
「それでは……試合開始ッッ!!」
あっさりと、戦いの火蓋は切られた。
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