第11話 天賦の才③
戦いの火蓋は切られる。
まず真っ先に騎士モールスが地面を蹴った。
素早く俺の前に移動すると、軽く木剣を振る。
——速い。
さすがに現役の騎士だけあって、機動力は俺よりはるかに上だ。
子供相手に手加減くらいしろと言いたいが、手加減してもこれなんだろう。
だから俺は、文句など垂れずに振り下ろされた木剣を防ぐ——ようなことはしない。
横に避けてわずかに距離を離した。
「むっ……? 今のは反撃できましたぞ、ヴィルヘイム様」
「試合するのか説教するのかどっちかにしろ。それと、今の俺は分析中だ。いいからかかっこい」
正直、普通に剣を振りかぶっても騎士モールスには勝てない。地力が違いすぎる。
だが、俺には才能がある。ゆっくりとでも相手の動きを分析して捉えられれば、少しくらいは善戦できるだろう。
そのために、今はひたすら相手の攻撃を捌く。
「なるほど。それがあなたの戦い方とあれば、私は従うまでだ!」
再び地面を蹴ってモールスが近付く。
相変わらず速いが、一度見た動きなだけあって、二度目はより簡単に目で追えた。
一撃、二撃と相手の攻撃をかわす。
「ッ!? まさかもう私の動きを!?」
「さあな。どうだろうな」
くすりとカッコつけて俺は笑う。
内心では少しだけ焦っていた。
——三度の攻撃でガリガリと体力が削れた!
クソッ、と舌打ちする。
思いのほか、モールスの攻撃を避けるのに神経を研ぎ澄ましすぎている。
かなりギリギリの回避なので、体力がその都度一気に減っていく。
このままだと、あと何度打ち合いを演じられるか……。
「素晴らしい……本当にあなたには、天賦の才が!」
モールスが肉薄する。剣を振る速度がだんだん速くなっていた。
コイツ……楽しくなってきてるな?
当たったらこっちは大怪我するかもしれないのに、容赦なく剣をぶんぶんぶんぶん。
おかげでさらに高速で体力が減っていく。そろそろ俺も反撃に出ないとまずそうだ。
モールスが上段に剣を構えた。即座に俺は前に出る。
「ッ!」
モールスは慌てて剣を振り下ろす。だが、慌てたために剣の軌道が綺麗すぎた。
真っ直ぐに振り下ろされた剣を見て、俺はわずかに体をそらして——モールスの一撃を避けた。前進は止まらない。
「もらった——!」
そのまま勢いに身を任せて剣を振る。
当たり判定の広いなぎ払いを採用したが、モールスはこれを——防いだ。
カンッ! という乾いた音がなる。
モールスの奴……振り下ろした剣を即座に引き戻してやがった!
それでギリギリ間に合わせるのだから、身体能力の差はえげつないな。
そこからモールスは前に一歩踏み出し、剣を盾のように使って突進技を放った。
俺はあっけなく吹き飛ばされる。
地面を転がってダウン。たった一撃で敗北が決定した。
「くっ……やはりまだ勝てないか」
起き上がった俺は、愚痴をこぼしながらショックを受ける。
割といい線いってると思ったんだがな……。
そう思って顔を上げると、そこで違和感に気付く。
目の前のモールスを含めた周りの全員が——驚愕を浮かべていた。
首を傾げると、堰を切ったように叫び声が響いた。
「え……えええええ!?」
「ヴィルヘイム様ってあんなに強かったの?」
「素人目でもわかったぞ、まだ10歳なのにモールス様と……」
「しっかり戦えていたよな? 手加減してるとはいえ」
「かなりいい一撃が入りかけてたしな」
「その前の回避もなんだよ、あれ! ヤバすぎる!」
わいやわいや。
急に騒がしくなる中庭。
父も父で、
「まさか……あれほどの才能がヴィルヘイムにあったとは……予想を良い意味で裏切られたな」
などと、声を震わせながら言っていた。
今の勝負がそんなにすごいことなのか?
相手は手加減しているのだ、そりゃあいい勝負も演出できるだろう。
その上で負けているのだから、たいしたことはないと思ったが……。
「あっぱれですなぁ、ヴィルヘイム様!」
「モールス」
「もっと楽に勝てると思っていたのに、冷や汗をかきましたぞ! 最後のあれ、狙ってやったんですか?」
「当たり前だろ。あんな行動、奇跡的にこなせるか」
「凄すぎる! あなたには間違いなく才能がある! 鍛えれば確実に剣聖を超えられるでしょう! 天才剣士の誕生だ!」
「わああああああ!」
モールスのふざけた言葉に、周りの使用人たちが沸きあがる。
父までうんうんと頷いていた。
それより、どうでもいいから、
「——おい、モールス」
「え? なんですか、ヴィルヘイム様」
俺は木剣を持ったまま立ち上がる。それを構えて、モールスを睨んだ。
「称賛の言葉はいいから、さっさと次だ。俺は一度で終わるつもりはないぞ!」
「おお! 負けてもすぐに次に移れるとは大したものだ! ではでは、未来の剣聖のために、私もひと肌脱ぐとしましょう! どのような手も使ってでも、私から一本取るのです!」
モールスも同じように剣を構えてくれた。
周りではさらに歓声が強まっていく。
そんな中、俺の背後にいたパンドラが、くすくす笑いながら提案した。
「なんでも……ですか。でしたら、ちょうどいい。魔力を使ってみましょう、ヴィルヘイム様」
———————————
あとがき。
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