結果

「私は、負けたのですか」


 変身が解けて、人間の姿になったクロヌイは、地面に横たわっていた。


「あぁ、負けだ」


 利家は、槍を肩に担いで言う。


「でも、あれだな。うん、強かったぞ」


 勝家は、自分の顔を指で掻きながら言う。


「お、勝家に褒められるなんて、珍しいぞ。普段、人を褒めなさ過ぎて、本当に強い奴じゃないと、褒めないんだ。こいつ」


「うるさいぞ、利家」


「はは、人間の中でも、面白いやつはいるのですね」


「普段、どんな人間と接していたんだよ」


 クロヌイの発言に、利家は呆れながら言った。


「ひどいものですよ。容姿が人間と違うだけで、差別される。弱いと分かった瞬間、奴隷として誘拐され売買される。私の兄は、見世物小屋で見世物にされて、衰弱して死んだ」


 自然と手に力が入る。勇者と魔王の戦争は、人間から見れば、攻めて来た悪者から自分の土地を守った話だと、語り継がれていくのだろう。


 だが、史実は違う。最初の発端となったのは、魔族である貴族の一人が人間に誘拐されたことが始まりだ。そして、俺の兄であるレイが、その貴族を取り返すため、軍を勝手に動かし、人間領に攻めたのが、戦争のきっかけだった。


「私達は、ただ平和に暮らしたかった」


 兄のレイによる行動で、人間に不満を持っていた魔物や魔族の闘争心に火がついた。魔王である父の静止もかなわず、各地で人間領に向かって攻撃を始めてしまった。


「貴様が、敵の部隊を率いていた大将だな」


 その言葉と供に、信長と可茂が現れた。


「鉄砲隊を引き連れて来たのに、終わらせちゃったのかい」


 苦笑いを浮かべる可成の後ろには、大勢の鉄砲隊がいた。


「はは、悪い可成。俺と勝家が強すぎた」


「ふん!」


 勝家は、すさまじい鼻息で返事をし、堂々と胸を張る。


「可成、すまない。鉄砲隊を呼ぶように頼んでおいて、無駄足だった」


「いいんだ。戦が終わるほど、安心できるものは、ないからな」


「ありがとう」


 可成は、優しく笑い返事をした。


「信長は、あなたですか?」


 クロヌイは、負傷した体を起き上がらせて、信長の方を見る。


「そうだ」


「良い仲間に恵まれていますね」


「敵にそう言われたのは、お前が初めてだ。名は、なんという?」


「クロヌイです」


「クロヌイ。なんで、貴様は尾張に来た?」


「そうですか、ここにまで情報が来ていないのですね」


「情報だと?」


 信長は、難しい顔をして首を傾げる。


 情報って一体なんなのだ。まさか、魔王領で動きがあったのか?


「戦いに負けた身です。全部正直に話します」


 クロヌイは、姿勢をただして、俺達の方を見る。


「魔王の後継者争いは、終結しました」


「なに!?」


 俺は、つい声を荒げてしまった。


「リン、どうした?」


「いや、俺が日本に来る前は、後継者争いが激しいと噂で聞いていてな。そんなに、早く決着がつくと思わなかった」


「なるほど。それで、クロヌイよ。新しい魔王は、誰になったのだ?」


 もしかして、俺が行方不明になったのを、レイが怪しいと感じて、アルを幽閉か、追放をしたのか?


「新しい魔王は」


 元々は、王座に興味などなかったが、応援してくれた魔族や魔物達には、申し訳ないことをした。さすがに、自分が知らないとこで、魔王が決まっているとは思わなかった。


「先代魔王の次男アル様です」


「は?」


 今の、俺が聞き間違えたのか? 長男のレイじゃなくて、次男のアル?


「ほう、珍しい。長男が相続するのではなく、次男が相続したのか」


「平和的に解決してくれれば、私はここにまで来ていません」


「ん? どういうことだ?」


 信長は、それを聞いて首を傾げた。


「元々、魔王の後継者争いは、長男のレイ様、次男のアル様、そして三男のリン様、三つの派閥で対立していた」


「三男の名前がリンなのか、一緒だな」


 信長は、俺の方を見て言う。


「う、うん。同じだ」


 し、しまった。突然ここに飛ばされたから、偽名を使うことを忘れていた。やばい、これは疑われる要因になってしまう。


「あなたも、名前がリンなのですか」


「あ、あぁ」


 クロヌイは、俺の方を見る。ば、ばれたか?


「それで、後継者争いは、どうなったのだ?」


 信長は、再びクロヌイの方を見る。


「最初に離脱したのは、三男のリン様でした。リン様は、魔王城がある都市の郊外で、何者かに暗殺されたと聞いています」


 心が安堵に包まれる。俺は、暗殺されたことになっているのか。考えてみれば、俺が生きているって、魔王領のみんなにわかったとする。そうすれば、次男のアルに反発する者達が俺を対抗馬として担ぎあげるはずだ。アルにとっては、死んだことにした方が都合いいのか。


「三男が脱落した。残りは、長男と次男だな」


「そうです。長男のレイ様は、リン様の暗殺について、真っ先に次男のアル様を疑いました」


 さすが、レイ兄さんだ。頭が冴えている。


「真っ先に疑われるってことは、次男は欲深い性格をしているんだな?」


「はい。昔から金に執着し、王子時代の時も民に重税をかそうとしていたと聞きます」


 そんな騒ぎがあったな。確か、あの時は父上が、アルを怒鳴りつけて、重税を取り消したんだよな。


「だが、その話を聞くと、長男のレイが優勢に見える」


「貴族である魔族の私達も、この時は長男のレイ様が、魔王になるかと思っていました」


「だが、現実は違った」


「はい。次男のアル様は、金の力で司法を買収したのです」


 司法を買収だと? そんな話、過去に例がないぞ。


「法律を決める機関を買収したのか」


「はい。それで、次男のアル様は、法律を自分勝手に改ざんして、長男のレイ様を罪人にしたてあげました」


「ひどい話だな」


 信長は、同情するような表情で言った。


「そして、有罪になった長男のレイ様は、はりつけにされて、火刑で処刑されました」


 レイ兄さんが、死んだ? 嘘だろ。アルが、実の兄を手にかけたのか。


「それで、次男が王位に座ったと」


「そういうことです」


「その後、どうなった?」


「新しい魔王になったアル様は、敵対派閥に所属していた魔族や魔物を粛清しゅくせいし始めた」


「まぁ、そうなるか」


「私は、レイ様の派閥に入っていました。当然、私の命も狙われます」


「それで、ここに逃げて来たのか」


「そういうことです。慣れない転移魔法を使ったので、どこかわからないとこまで、飛んできてしまった」


「元から住んでいる者にとっては、大騒ぎだったぞ」


「申し訳ない。私以外にも、多くの魔族や魔物が、魔王領から脱走をしていると聞いています」


「魔王領は、混乱しているのか」


「私も、魔王領が今後どうなるかわからない」


 一刻でも早く、魔王領に帰りたいが、今帰っても捕まるだけか。


「情報提供を感謝する。だが、貴様は敵総大将だ。拘束させてもらう」


 信長は、そう言うと織田兵に命じて、クロヌイを拘束させた。


「この戦、織田家の勝ちだ!」


 信長は、そう叫ぶと刀を天に向けた。


「おおおおお!」


 織田兵達は、大きな歓声を地面が揺れるほどあげた。

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