尋問

「リン様、こいつは、気絶させております。こいつから、情報を聞きましょう」


 ロイは、相変わらず速攻で倒しきっていた。前も、俺が見る前に倒しきっていたな。


「ロイ、出かした」


「せっかく、温泉に入ったのに、返り血が顔についてしまったじゃない。もう一回、温泉に入ろうかしら」


 カグヤは、そう言いながら、鏡で自分の顔を見る。


「ひろ、出ていいぞ」


 俺が、そう言うと、押し入れの扉が開く。


「お。終わったのか?」


 汎秀は、おそるおそる押し入れから、出て来る。


「終わりだぞ」


「さすがじゃな」


 おそらく、戦っているところを、押し入れの隙間から見ていたのだろう。汎秀の顔色が悪い。


「さて、気絶している奴を拘束して、叩き起こすか」


「そうしましょう」


 ロイは、手早く暗殺者を拘束する。


「おい、起きろ」


「……」


「完全に伸びているな。ロイ、どれだけの強さで、こいつを気絶させたんだ」


「みぞおちに一撃入れました」


「それなら、これぐらい伸びるか」


 戦闘において、俺より上のロイが放った一撃だ。ただの一撃ではない。


「ロイ、水を持ってきてくれるか?」


「はい」


 しばらくすると。ロイが水を持って来た。


「おい、起きろ」


 気絶している暗殺者に水をかける。


「うっ……!?」


「起きろ」


「なんで、俺は縛られて……そうか負けたのか」


 暗殺者は。俺達が、立っているのを見て、察したようだ。


「いろいろ聞きたいことがある。話してくれたら、解放を約束する」


「俺は、暗殺部隊と言っても、使い捨ての駒にすぎない。答えられるようなことは、ないぞ」


「そうか。あんた、熱田にいる暗殺者を知っているか?」


「熱田にいる暗殺者だと!?」


 暗殺者は、目を丸くして驚いた。


「どうやら、知っているみたいだな」


「あいつに会って、どうするつもりだ?」


「会ってから、決めるつもりだ。情報を話せ」


「同業者だが、詳しいことは知らない。特定の雇い主が存在しないから、情報が一切出回らない」


「フリーで、依頼を受けているってことか?」


「そういうことだ。金を渡せば、どんな人物の依頼でも暗殺を受ける奴だ」


「特定の雇用関係を結ばない暗殺者か。他に情報はあるのか?」


「素性も全くわからないが、伊賀から来たという情報がある」


「伊賀……ひろ、わかるか?」


 汎秀は、俺が呼んだのに気づくと、近づいて来た。


「伊賀は、治められる大名が存在しない土地だ。国人衆っていう、力のある豪族みたいのが、連合みたいのを作って伊賀を治めていると聞いている」


「そこの坊主、知識があるな。さては、織田家の一門か重臣の生まれってことだろう」


「な、なんで、お前にそんなことを、言わなければいけない」


「忠告しとく、坊主は帰った方が良い」


 暗殺者は不敵の笑みを浮かべた。


「おい、それはどういうことだ」


「熱田にいる暗殺者は、暗殺の本業とは別に、副業がある」


「副業?」


「賞金首狩りだ」


「それがなんで、ひろと関係がある」


「織田家は、当主から家臣に至るまで、みんな斎藤家が首に賞金をかけている。もし、親族か重臣の子供が熱田に来たとバレてみろ。やつは、子供を盾にして、賞金首の首をいただくだろう」


 そうなると、厄介なことが起きるな。汎秀を巻き込ませるにはいかない。一旦帰って、出直してくるか。


「リン」


 汎秀は、俺の袖を引っ張る。


「どうした?」


「熱田に行こう」


「良いのか?」


「元々、その暗殺者は明日仕事があるじゃろ?」


「闘技場の管理人が言うには、暗殺の依頼が、あるはずだ」


「仕事を投げ出してまで、俺を捕まえるはずはない」


 確かに、ひろが言っていることも一理ある。


「わかった。ただし、ひろに危険が出そうなときは、すぐに熱田から出て行く。政秀に任された俺の責任もあるからな」


「うむ、わかったのじゃ」


 汎秀の返事を聞いて、このまま熱田に向かうことにした。


「暗殺者、もう一つ聞きたいことがある」


「なんだ?」


長井道利ながいみちとしは、何者だ?」


「織田家の者なのに、道利様を知らないのか」


「俺は、最近、織田家に入ったばっかりでな。この辺のことは詳しくないんだ」


「道利様は、現在の斎藤家、前当主である斎藤義龍さいとうよしたつ様を当主にまで出世させた功労者だ」


「こ、功労者じゃないだろ」


 その言葉に、汎秀は反応した。


「ひろ、功労者じゃないってどういうことだ?」


「元々織田家と斎藤家は同盟関係だったのじゃ」


「そうなのか」


 これは、初耳だった。てっきり、ずっと昔から争っている敵かと思った。


「なのに、義龍って男は、自分の父親である斎藤道三さいとうどうざんを殺し、当主になったのじゃ。そして、織田家との同盟も切った」


「へへ、そんなこともあったな」


「それだけじゃない。義龍は、自分に当主の座が来るよう、実の兄弟を二人も殺しているのじゃ」


「懐かしい話だ」


 暗殺者のリアクションを見る限り、本当のことみたいだ。


「前当主って言っていたが、今は違うのか?」


「義龍は、病死して、今は息子の龍興たつおきが当主になっている」


「長井道利様は、今や龍興様の重臣。数々の暗殺を行い、龍興様を守っていらっしゃる」


 長井道利と斎藤龍興、この二人は倒さなければ、ならない相手のようだ。


「暗殺者、約束だ。もう帰ってもいいぞ。だが、武器は取り上げるけどな」


 暗殺者が持っている武器を回収して、縄をほどく。


「次こそは、お前の首をとってやる」


「綺麗にして、待ってやるよ」


「ちっ」


 暗殺者は、舌打ちをすると、窓から外に出て行き、姿を消した。


「とりあえずは、一件落着だな」


「そうですね」


「ねぇー、リンー」


 カグヤが、甘えた声で話しかけて来る。


「どうした?」


「もう一度、温泉に入って来ていい?」


「いいぞ」


「やったー!」


 カグヤは、喜んだと思ったら一目散に温泉へと向かった。


「俺等も、温泉で体を流しとくか」


「うん。それがいいのじゃ」


 汎秀の返事を聞き、ロイの方向を見ると、ロイも頷いた。


 その後、俺達は温泉に、もう一度温泉に入った。

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