再び

 温泉から出て、自分達の部屋に戻ろうとした時だった。


「ロイ、気づいているか?」


「はい、気づいております」


「リン、どうしたんだよ?」


 汎秀は、小声で話す俺とロイに話しかける。


「ひろ、落ち着いて聞いてくれ」


「だから、どうしたんだよ?」


「俺達、今つけられている」


「えっ」


 汎秀は、言葉を失った。ついて来ている人数は、さだかではないが、一人ではないだろう。


「リン様、どうしますか?」


「幸い、刀はある」


 しかし、人が多いとこで、戦うのは周りの人も危険だ。人気がない場所に誘い込むか。


「ここは、宿内だ。人気のない所を誘い込むとしても、どこか良い場所はあるのか?」


「リン、さっき通って分かったけど、改装工事で使われてない部屋があった」


「そこだ。ひろ、でかしたぞ」


 ここに来た時は、つけられた気配はしなかった。てことは、温泉から出た時に付けられたと考えて間違いないだろう。俺達が泊まっている部屋は、ばれていない。


「ひろ、改装工事をしている部屋まで案内してくれ」


「わかった」


「ロイも、それでいいよな?」


「はい。その方が賢明かと思います」


 汎秀の後をついていく。


 しばらく歩くと、空き室になっている部屋へ辿り着いた。


「ロイ、まだ、ついて来ているか?」


「はい、間違いなくついてきています」


「部屋の中に入るぞ。ひろは、部屋の中に入ったら、押し入れの中に隠れてくれ」


「わ、わかった」


 空き室の中に入り、広い部屋まで歩く。汎秀は、押し入れの中に隠れた。


 この辺なら、戦っても大丈夫だろう。追跡者を呼び出すか。


「おい、ついて来ているのは、わかっている。お前ら、何者だ」


 大声で声を出すと、黒装束の男が複数人、部屋の中に入って来た。


「お前らの服装、見たことある。戦場で会ったな」


 織田家と斎藤家の戦場で、信長を襲撃してきた黒装束の人達だ。


「やっぱり、そうだ。間違いない。信長と一緒にいた奴らだ」


 黒装束の一人が見たことがあるような口調で話す。あの時、最後に逃げた生き残りか。


「同胞がやられたと聞いたが、お前達の仕業だったか」


「お前等は、何者だ?」


「どうせ、お前は死ぬからな。冥土の土産として、名乗らせてもらう」


 黒装束の男は、刀を抜く。


「我らは、影と呼ばれている。長井道利ながいみちとし様の直属となる暗殺部隊だ」


 長井道利、斎藤家の家臣だろう。後で、その人物についても、聞いてみる必要がありそうだ。


「暗殺部隊ってことは、同業者に詳しいってことだよな?」


「なにを言っている?」


 熱田で探す人は、暗殺者だ。同じ同業者なら、熱田に潜伏している暗殺者について詳しいだろう。


「こっちの話だ。俺は、先に進まなければいけない理由がある。早くかかってこい」


「俺等を、なめるな!」


 暗殺者が、こちらに向かって走ってくる。


「攻撃速度が速いな」


 戦闘訓練を積んでいるんだろう。刀を扱う技術が高い。


「避けてばっかりだと、終わらないぞ」


「確かに、そうだな」


 俺は、刀で暗殺者の攻撃を止めて、蹴りを入れる。


「ぐわぁ!?」


 暗殺者は、刀を落とし、地面に倒れ込んだ。


「言い残すことはあるか?」


 俺は刀を振り上げた。


「なめるな!」


 暗殺者は、落とした刀を拾うと、そのまま俺に刀を突き立てようとする。


「遅い!」


 俺は、そう言うと暗殺者を斬り捨てた。


「あいつ油断しやがって、お前等! 全員でいくぞ!」


 黒装束の男が号令をかける。


「なに、楽しそうなことをしているの?」


 突如、女性の声が聞こえた。声が聞こえた方向は、玄関があるところだ。


「新手!?」


 暗殺者が、慌てて後ろにも身構える。


「部屋にいないと思ったら、こんなとこにいたのね」


 そう言って、現れたのは、なぎなたを持った、カグヤだった。


「カグヤ、よくここがわかったな」


「私は、妖怪よ。なにか、変な雰囲気を感じたら、わかるわよ」


 それは、妖怪だからではなく、カグヤの直感がすごいだけだと思う。


「殺す対象が一人増えたぐらい、依頼の遂行に影響はない」


 黒装束の男達は、刀を構えた。


「入浴後の運動ね。良いわ」


「次は、ロイも参加してくれ」


「お任せください」


 ロイも、刀を抜き構える。


「お前等、全員皆殺しにしろ!」


「は!」


 暗殺者との交戦が始まった。


 正面から二人、刀を構えて、走ってくる。


「まずは、お前からだ!」


 黒装束の男が振り下ろした攻撃を避けて、無防備になったところを斬り捨てた。


「なっ!」


「一人ずつで、戦うな。人数で押し切れ!」


「おう!」


 カグヤの方を見てみると、三人の暗殺者に囲まれていた。


「女子相手に、男三人がかり? 情けないわよ」


「女性相手でも、念には念をってやつだ。大人しくやられろ!」


 三人同時にカグヤに向かって斬りかかる。


「人数が多いからって、勝ったって油断しないこと」


「はっ!?」


 暗殺者達はカグヤに攻撃をする前に動きが止まった。闘技場で見せた、あの技だ。


「死者に抱かれなさい」


 暗殺者達の体に、無数のスケルトンが絡みついている。


「いつのまに!」


「言い残すことある?」


 カグヤは、そう言うとなぎなたを構える。


「や、やめろー!」


 暗殺者が必死に叫ぶのを横目に見て、カグヤは暗殺者を斬った。


「油断したな!」


 暗殺者の一人が、俺のことを斬ろうとする。


「隙だらけなのは、お前だ」


 俺は、攻撃を受け流して暗殺者を斬った。


「くそ……」


 暗殺者は、俺に斬られると、そう言い残し力尽きて倒れた。


「こんな、もんね」


 カグヤの声を聞き、周りを見てみると、立っている暗殺者は誰もいなかった。

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