第五話 人形の村~ラストリゾート~前編

二月半ば


事務所で人形達は刺激を求めていた


「ヒマね…つまらなすぎる」


「仕方ねぇだろ…事件なんて起きてねぇし」


「なら事件でも起こしてこようかしら?」


「止めてくれブッチャー」


だらだらと話していると

そこに一通の手紙が届いた


その手紙は青と白の美しい封筒だった


「ん?見た事ない封筒だな」


「随分不思議な模様ね」


「とりあえず開けてみるか」


そこには青い幾何学模様と共に

文字が書かれていた


「えーと、何な…ぐっ!」


文字を読もうとしたフィギュアが

突然膝をつく


「あら、貴方文字すら読めなくなったの?」


「いや違う…魔力が流れ込んで来た…」


「魔力?」


「へぇ…魔力…」


ブッチャーが手紙を拾いあげた瞬間

その場に崩れ落ちる


「ッ…!」


「どうやら相当な魔力の様ね…」


すると事務所の入り口から

グリムとヴォミットが入ってくる


「ただいま~夕飯の食材買ってきたよ~」

「ただいま戻りましたわ~あら?どうしたのですの?」


「あぁ、お前らか…その手紙読めるか?」


「えっ、手紙?これ?」


グリムが拾い上げ

ヴォミットと二人で読み始める


「よ、読めるけどやたらクラクラするなぁ…」

「わたくしは読めますわよ?」


「ならヴォミット、読んでくれ…」


「わかりましたわ、では読みますわよ」


――――――――


拝啓 何でも屋の皆様


これを読めているという事は

十分な魔力と実力をお持ちとみました

単刀直入に言います

我々を助けてください

内容は直接会って話します


地図を入れておきますので

赤い印の地点まで来てください

お待ちしております



―――――――――


封筒の中に手紙の他に

葉書程の地図が入っていた


「これか、ふむ…随分遠いな」


その地図の地点はほとんど人気の無い

山岳地帯だった


「とりあえず明日全員で行ってみましょ」

「よし、決まりだな」



次の日


「クソっ…なんて私まで…」


「切魔、文句言うな。何回目だ?」


「そーそー!ハイキングって考えれば楽なモンだよ!」


「そういうグリムはなんで歩きにくいピンヒールなんだよ」


「アタシはこれが一番歩きやすいし~!」


フィギュアがため息を付いているうちに

赤い印の付いた地点に着く


そこには樹々に囲まれた

白い建物が建っていた


所々手入れがされてないのか

壁や高い柵にツタが絡まっている


「ここは?」


「何かの工場にも見えるわね…」


「おねえさま~!これ!見てくださいまし!」


ヴォミットが指差した壁には

手紙と同じ青の幾何学模様が

描かれていた


「ぐっ!」


それを見たフィギュアが

膝から崩れ落ちる


「だっ、大丈夫?!」


グリムが肩を貸し

立ち上がる


「コイツ、手紙のより強力だそ!」


ふらふらになった

フィギュアをよそ目に

切魔が模様を覗き込む


「おい!それん見たら…!」


「ほう、古いが見事な防衛陣だな…」


「貴方平気なの?」


「あぁ、私の魔力を舐めて貰っちゃ困るな」


彼女はまじまじと

模様を観察していると



「やぁ、どうだい?僕の防衛陣は?」


背後から青と白の美しい人形が

声をかけてくる


「お、お前は?」


「紹介が遅れたね、僕はサイティス。君たちの依頼者だ」


軽く会釈をすると

フィギュアに近づく


「すまないね、ヒトを近づけさせない為に張ってるんだ。これを身につければすぐに治る」


そう言いながら

彼の首に青いペンダントを付ける


「はぁ…はぁ…だいぶ楽になった…」


グリムの肩から離れて

自力で立ち上がる


「そろそろ行こうか。案内するよ、僕達の国へ」


―――-

―――

――


白い建物の中を通り

しばらく歩くと

大きな白い扉へ辿り着く


「開けてくれ」


サイティスの声と共に

重い音を響かせながら開く


そこには白と青で彩られた

美しい街並みがあった


「凄い…」


あまりの街並みに

グリムが声を漏らす


「ようこそ!ラストリゾートへ!」


そこの住人は白い毛並みの

人形がほとんどだった

それぞれ顔や髪に

鮮やかな色のメイクをしていた


「おい…ほとんどオーダーメイドの人形じゃないか…」


「そうさ、オーダーメイドの人形は魔力が高いからね。防衛陣を突破してここまでくるのさ」


サイティスに案内され

白い街並みを歩き出す


住人達は 外から来た彼らに

興味を示しているのか

ジロジロと見ている


「そんなにわたし達が珍しいのかしら…」


「どちらかと言うとキミに興味があると思うよ」


そう言いながらサイティスは

ドールに目を向ける


「そう…」


「まぁ半身焼けた人形は珍しいからな…」


「いや、そういう事じゃない。もっと深い所さ」


「もっと深い所?どういう事だ?」


フィギュアが聞くとサイティスは

軽く笑ってはぐらかす


しばらく歩くと大きな建物が

見えてくる


「ここが僕の研究所だ」


「でっか!こんなとこに住んでんの?!」


「あぁ、他の人形も住んでる」


建物の中へ入り

生活スペースに通される

そこには白と赤の美しい人形が待っていた


「あっ!遅いよサイティス!」


「ごめんごめん、遅くなった」


「紹介しよう、彼女はペンティア。僕の助手であり親友だ」


「あっ、えっと…よろしく…」


少しオロオロしながら

自己紹介する


「さて、話をする前にドール、キミと話がしたい」


「わたしと?」


「いいですよねフィギュア?」


「あ、あぁいいぜ?」


「じゃあ行こう。すまない、残りの皆で軽く話でもしててくれ」



それを聞くとペンティアは

少し動揺した様に見えた




~研究所倉庫~


倉庫内に着くと

サイティスは窓に腰掛け

話し始める


「単刀直入に言おう。キミ…」




「MARIA(メイリア)の人形だろ?」



ドールは動揺した

今まで隠し通していた事を

いとも容易く暴かれたのだから



「なぜその事を?」


「僕もメイリアの人形だからさ、リリンキッシュ」


「…その名前は捨てたわ、プルート」


「知ってたみたいだね、姉さん」


微笑みながらサイティスは

話し続ける


「今、メイリアの人形は三人いる。僕とキミとペンティア…」


「人形商戦最高峰クラス、そして最強の名を冠した人形…ウラヌス、プルート、リリンキッシュ」


淡々とサイティスは話す


「その中でも最強にして最高の人形リリンキッシュ。生産数は僅か二人、しかも一人は実験中に亡くなり、もう一人は行方をくらました」


「僕はずっと探してた。」



「そして、やっと見つかった。やっと…」



サイティスはドールに近づき

彼女を抱きしめる



「寂しかった…ペンティアも聞いたらきっと喜んでくれる…」



「わたしは、昔のあの事故は許せない」


ドールは静かに話し始める


「わたしはあの会社を捨てた…いや、仲間を捨てて逃げた」



「あそこに人形に権利なんて無かった。あの日々を思い出すだけで死にたくなる」


「だから逃げ出した」


「でもそれこそ本当の地獄だった」


「仲間を見捨てた事が何よりの後悔だった」


「わたしは」



「やめて!!」




サイティスが叫ぶ



「もう…もういいの…全部、全部終わったんだよ…」



「僕は、わたしはキミを恨んでない!他の人形だってそうさ!皆キミが無事に出る事を祈ってた…」


「それに…皆のコアは今僕が直してる、これを見て…」


サイティスが棚のカーテンを開けると

そこには古ぼけたコアと

名前の書かれたラベルが

貼られていた


「これは…」


ドールは崩れ落ちた



サイティスはコアの一つを持ち

ドールの前に差し出す


「触れてみて、キミなら分かるよ」



ドールが触れると

そのコアは優しく青白く光った



「その光はキミに敵意を、恨みを持ってない証拠だよ」



ドールはコアを受け取り抱きしめた


彼女は何も言わなかった


そしてコアをそっと棚に戻した



「リリン…」



「その名前で呼ばれたくはないわ」



「……」


「でも、貴方とペンティアだけならいい」



「リリン…!」



「あと、わたしの仲間の前でも言わないで」



「分かったよ!リリン!」



「さぁ、戻りましょ。プルート」




二人が戻ると待っていたと言わんばかりに

二人に駆け寄る



「も~遅い!二人とも!」


「色々と話し込んでたんだ、ところで何を話してたんだ?」



「どうもこうもないよ!アレ見てよアレ!」



グリムが指差した先には

ヴォミットにべったりの

ペンティアの姿があった


「わぁ~!生き人形だぁ~!コアの出来た特級呪物!かわい~!スケッチさせて~」


「や、やめてぐだざいまじ…く、ぐるじい…」


「…ペンティア、離してあげて…」


サイティスが頭を抱えながら

そう言うと名残惜しそうにペンティアが

ヴォミットを手放す



「すまない…彼女は呪物が好きな芸術家なんだ、許して欲しい」



「まぁいいですわ、悪い人では無さそうですし」



「さて本題と言いたい所だが…今日は疲れただろう?話は明日しよう。今日はここに泊まるといい」



窓を見るといつの間にか夕焼けが

室内を照らしていた



「まだ時間はあるのか?手紙を見るに急用の様に見えたが」



「あぁ、幸いまだあと五日ある。ゆっくり作戦を練ろう」



サイティスが話し終えると

ペンティアがパンと手を叩く


「それじゃあ今日は歓迎会だね!ココでしか食べられない料理をご馳走するよ!」


「なら手伝うわ」

「あっ!アタシも手伝う!」



「騒がしくなりそうだ…」




中編へ続く

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Dollz_Workerz マリィメイヤー @MarieMeyer

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