第36話 買い物中のガールズトーク

 壁の中では街並みが以前からの残ってい所も多く、中心街での買い物に来ていた千紗と冬華。

 ここからは千紗の目線でお伝えしよう。


「わぁ。懐かしい。この店まだあるんだぁ」


 高そうな店ではあったが、値段はいつも気にしない為中へ入る。

 ジスパーダから出ている給金は相当貰っている。

 こういう時に使わないと使う時がない。


「この服大人っぽいなぁ」


「刃さんが好きそうですわね?」


「やだぁ。なんで刃さんの話するのぉ?」


 少しドキッとしながらも冬華へは質問で返す。


「なんとなく見ていればわかりますわ」


 自分の気持ちが冬華に知られているのかと思うと気恥ずかしい。

 でも、自分の気持ちは伝える気がない。

 隊員同士になると色々と面倒臭そうだからだ。


 ここで私も反撃に出る。


「そういう冬華は、そっちの少しフリフリした方が雷斗の好みなんじゃない?」


「なぁ!? なんで雷斗の話をしますの!?」


 あまりにもわかりやすいリアクションに思わず吹き出してしまった。


「プッ! わかりやす過ぎでしょ! ははははっ!」

 

「な、何がおかしいんですの? べ、別にワタクシは何とも思ってませんわ」


「この前、雷斗が傷を負った時は心配そうで大変だったわね? 魔法銃持って入口で喚きながらオークに打ってたじゃない?」


 顔を赤くした冬華をみて可愛くなってしまう。

 そんな顔もするんだなと意外に思った。

 

(私はそんなはにかんだ顔したら気持ち悪いだろうなぁ)


「あれはみんなを守ろうと……」


「わかったわよ。そう言う事にしておきましょう」


 可愛いのでまた後でからかうことにした。

 洋服はもうする三十歳になる為、落ち着いた服を選ぶことにしているのだ。これからフリフリは私には似合わない。


 店を出て街を歩くと結構街は人でにぎわっていた。

 この日は丁度休日であった為、人が多いようだ。


「冬華はどこかよりたいところある?」


「ワタクシ、岩手で観光スポットみたいなところをみたいですわ」


 そういえば田舎の景色が好きだって言ってたっけ。

 そうなると、一時期基地候補になった昔のお城の跡地とかかなぁ。

 昔ながらのアーケードとかもあるけど。


 後は、カフェとかかなぁ。昔から多いし。


「わかった。じゃあ、大通り通ってその先に行きましょう」


 この辺のお店もほとんどが飲み屋になっちゃったのよねぇ。

 昔はもうちょっと服屋さんとかあったんだけどなぁ。

 カラオケとか懐かしいわねぇ。


「カラオケとか懐かしくない?」


「懐かしいですわね。ジスパーダに入る前は良く行ってましたわ」


「冬華って何歌うの? 民謡とか?」


 偏見だとはわかっていてもそう聞いてしまった。


「なんでですの? 普通にポップス歌いますわ」


「そりゃそうか。なんか最近の曲まで異世界化していて難しくない?」


「そんなことありませんわ。あれはクリエイティブですわ」


 私にはそのクリエイティブが難しいのよねぇ。

 もう仕込みをしている店もあるのか油の匂いが漂っている。

 ランチの仕込みかなぁ。


「ランチの準備ですわよね?」


「ふふふっ!」


「なんですわ?」


「同じこと考えてたからおかしくなっちゃった!」


 こうやってずっと一緒にいて楽な人ってなかなかいないのよねぇ。


「私達付き合っちゃう?」


「ワタクシ千紗はタイプじゃないのですわ。残念でしたわね」


「ざぁんねぇん。楽だからいいかと思ったのになぁ。あっ、あそこのカフェ行こう?」


「観光スポットじゃないんですの? まぁ、いいですわ」


 渋々と言った感じだけど私の提案についてきてくれたことを嬉しく思い、胸が温かくなる。

 

 自分にあまり仲のいい友達がいない。というか作ろうとしないのだ。ジスパーダに入ってから、友達がもし魔物に襲われでもしたら、冷静でいられるとは思えない。だから多くの友達を作らないようにしている。


 だからか、こういうカフェでお茶みたいなのも久しぶりだから胸が躍る。気付かない内にスキップしていた。


「そういうの天然でやるところが恐いですわ」


 急にそんなことを言い出した冬華を目を丸くして凝視する。

 店の中に入りコーヒーを注文すると席に座った。


「恐い?」


「なんかそういう可愛らしい所、男は好きになると思うのですわ。だから、恐いと言ったのですわ」


「そう……かな?」


 自分ではそうは思わないんだけど。変なやつだって思われるんだろうなって思ってる。


「あと、胸も割りと大きいですわ。ワタクシはそんなに大きくないから……」


「そんなに変わらないでしょ? そんなの気にするところ?」


「男は大きい方が好きなのですわ!」


 拳を握り締めて悔しそうにしている。


「小さいのが好きな人もいるわよ? それぞれよ。雷斗はこの前の温泉の時も興味ないって言ってたじゃない? なんか脈なしっぽくない? 刃さんもだけど」


「それはすごく悔しかったのですわ! ギャフンと言わせてやりたいのですわ!」


 運ばれてきたコーヒーを一口飲み眉をハの字にして言った。


「まぁまぁ。ケーキ食べましょ? 甘い物摂取して落ち着こう?」


「ふぬー! ふぬー! そうですわね!」


 鼻息を荒くして興奮しているようだ。だが、ケーキを食べると大人しくなった。


「まぁ。アイツらは諦めた方がよさそうよねぇ」


 テーブルに肘を付きながら、窓の外を眺める。

 恋人たちが手を組んで歩いている所が見えた。

 どこか遠いものを見るようにただ眺めていた。

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