第35話 基地でリラックス

 東北基地のある場所は盛岡の南に位置する中央卸売市場跡地。

 そこは広い敷地があり基地にはもってこいだった。

 建物の上の階には食堂も兼ね備えていて、一階には車両を沢山収容できる所がある。


 今は入口に来ていた。


「中央基地からいらっしゃった武藤隊長ですね?」


「そうです。休ませて頂きたいのですが」


「ここまで大変な道のりであったと思います。良くいらっしゃいました! 歓迎します!」


 歓迎してくれて、門を開けてくれた。

 基地へと入ると安堵感がより一層増す。

 案内してくれた隊員がいた。


 礼を言って建物の中へと行き、基地長へと会いに行くことになった。


 ────コンコンッ


「はいれ!」


 少し高い声が聞こえる。

 扉を開けて中に入ると壮年の女性であった。

 敬礼をして挨拶をする。


「中央基地所属 刀剣部隊隊長 武藤刃であります!」


 他の三人も同様に挨拶をする。

 少し気になるのはこの基地長の顔を見たことがある気がするのだ。


「ご苦労様でした。険しい旅路だったでしょう。お怪我はありませんか?」


 優しい言葉に思わず目を丸くした。


「はっ! こちらの地雷隊員が腕を負傷しました!」


 雷斗がまくってみせると手を差し出して傷口に手を置く。


「エクスヒール」


 初めて見た高い治癒能力を持つとされる魔法。

 みるみるうちに傷が塞がり抜糸までしてくれた。

 その後、紡がれた言葉に一同は驚愕する。


「千紗、縫合がうまくなったわね。後は傷跡が残らないように工夫しなさい?」


「わかってますぅ。お母さんみんなの前で言わないでくれる?」


 口を尖らせて千紗が言う。

 基地にいるとは聞いていたが、まさか基地長とは。

 それで無人なのに治療部隊隊員として中央基地に派遣されていたのか。


 親心だったのだろう。

 中央基地は激戦区として知られている。

 そこで修行してこいとそういうことか。


「この基地では上官よ? 敬語で話しなさい?」


「はぁい」


 また嫌そうに返事をするとそっぽを向いた。

 こういうところをみるとまだまだ子供だな。


「ごめんなさいね。なってない娘で武藤隊長も大変でしょう?」


「いえ! できた隊員で助けられております!」


「ふふふっ。お世辞はいいのよ。足手纏いだったでしょ? 運転しかできないんだから。運動神経良くないし。不器用だし」


 それは少し言い過ぎなきがする。何より、千紗が物凄く不機嫌そうだ。


「そんなことはありません! 我々と心の支えとなっております!」


「ふふふっ。いい隊長さんみたいね。食堂でなんでも好きな物を食べて休んで。いつまでいるのか後で教えて頂戴」


「はっ!」


 許可が出たので、敬礼をして部屋から出て行く。

 千紗は「ぐぬぬぅ」と物凄く扉を睨み付けていた。

 しっかりとした好感のもてる基地長だと思ったが、親だとまた違った意見なんだろう。


 道行く隊員に食堂の場所を聞いて移動する。

 みんなそれぞれ好きな物を頼んでいた。


「刃さん、カツカレーすきなんすか?」


「あぁ。あとラーメンな」


「いるっすよね。同じ物しか食べない感じの人って」


 目を細くして雷斗を見てしまった。


(それはただの悪口じゃないかね?)


「あっ。刃さんの事じゃないっすよ?」


 そう言いながらも冷や汗が頬をつたっている。

 そんないい訳では誤魔化されんぞ。

 雷斗は生姜焼き定食を頼んでいる。


「いるよな。定食ばっかり頼む奴」


「栄養バランスがいいんすよ?」


 コイツも栄養オタクか。何で俺の周りの後輩たちはみんな栄養オタクなのか。俺がおかしいのかと思ってしまう。そんなわけはない。


「俺は食いたいもん食うんだ」


「それには私も賛成!」


 食堂に来ると千紗が急に元気になった。パスタ山盛りの皿を持って俺の隣に座る。


「ワタクシは雷斗に賛成ですわ」

 

 雷斗の隣に冬華が座る。持ってきたのはサラダ多めと五穀米と煮つけのセットのようなものだった。


 みんな思い思いの夕食に舌鼓を打ち、リラックスする。

 リラックスしているので、口もよく回る。


「そういえば、折角きたんだし、街を見て回りませんか?」


「んーしかしなぁ。任務中だし……」


「でもすぐに出発するわけじゃないですよね? 物資を補充してからいきますよね?」


 身を乗り出して千紗が訴えかけてくる。

 こうなると俺は弱いのを知っての犯行だろう。


「わぁったよ。三日くらいは休息日にしよう。ちゃんと身体を休めるんだぞ?」


「はぁい。やったぁ! 冬華、ショッピング行こう!」


「いいですわ。楽しみになってきましたわね」


 冬華もノリノリだ。出発してからここまで魔物を警戒して楽しみなことなんてなかったからな。

 たまにはそういうこともいいだろう。


「自分達はどうするっすか?」


「俺は鍛錬だ。もっと強くならないとな」


「なるほど。自分もお供するっす」


 雷斗はこういうストイックな所の成長はこの旅で身に付いたのではないだろうか。

 そう考えるとバランスのいい食事というのもストイック故なのかもしれない。

 自分の食事の考えなさは直した方がいいのかもしれないと少し反省した。


 反省しながらもお腹の空いていた俺はカツカレー完食後にラーメンも頂き、みんなから「どれだけ食べるのか」と笑われるのであった。

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