第37話 男たちの鍛錬
少しの休暇を貰った俺と雷斗は東北基地の訓練場に来ていた。
ここにきて何をするかというと組手だ。
「まずは軽くやろうか」
「はい!」
雷斗が返事と同時に左の突きを放ってくる。
少し身体を傾けて避けると俺も左の突きを放つ。
前後に身体を揺らしながらお互い突きを打ち合い身体を温めて行く。
「しっ!」
雷斗がギアを上げてきた。
下段蹴りを放ってきたのである。
バックステップで避けると、今度はこちらが左突き、続けて右突きと肉薄しながら放っていく。
「くっ!」
雷斗が苦し紛れのアッパーを放ってくる。それをのけ反りながら下がって避け、右の上段蹴りを放つ。
ガードできずに頭へくらってしまった。
軽く放った蹴りだったから大丈夫だろうと思ったが、少しよろけた。
「大丈夫か?」
「まだやれます!」
「慌てなくていいぞ。相手の動きをよく見た方がいい」
「はい!」
こうして十分ほど組手を行いいったん休憩する。
「はぁ。はぁ。はぁ。きついっすねぇ……はぁ。はぁ」
かなり息が上がっている。
遠距離魔法部隊も訓練はするのだが、ここまで肉体を使う訓練はしないから当然だ。
ただ、雷斗は前衛でも戦えるようになりたいと言っている。こんなものでは前衛を務めることはできない。だからこその鍛錬なんだが。
まぁ、正直一朝一夕でどうにかなるものでもない。こういった組手のようなものは経験も必要だしセンスも必要だ。刀剣部隊の訓練についていけなかった雷斗は努力しかない。
ここまで道中に多少は訓練しながら来ている為、最初よりはよくなっている。最初はこちらの攻撃に委縮して避ける事さえできなかった。
「大丈夫だ。すぐに体力はつかない。徐々に身体を作っていくんだ。焦ることはないぞ」
「うっす。自分はできるっす」
「そうだ。できる」
以前教えたことを実践しているようだ。昔からの言葉で『病は気から』という言葉がある。気の持ちようで体調を良くしようとしていたのだろう。
それと同じだ。自分が強いと思えば自然と強くなるものなのだ。ただ、奢ってはいけない。自分は強いから弱いものをいじめようというのは弱い人間のすることだ。
少し休憩していたら声を掛けられた。
「失礼します。訓練中すみません。自分は東北基地、刀剣部隊所属の隊員です。中央基地から来たとのことですが、御手合わせを願えませんか? 中央基地の実力を実感したいのです」
これは言葉では勉強したいと聞こえるが、裏では喧嘩を売られているのだろう。中央基地がどれほどなのかと。さっきの鍛錬をみて大したことはないだろうと思われたのかもしれない。
ガタイはそんなでもないが雰囲気で強者だという事が分かる。場数慣れしているようだ。俺よりは年上のようだ。
「あぁ。構いませんよ。雷斗。少し待っていてくれ」
「うっす」
雷斗は何でもないように返事をする。それほど信頼してくれているという事だろうか。
少し離れた所で東北基地の者達が回りを囲んでいた。その中心へと案内される。
(ふっ。俺を見世物にして自分の実力を示そうとしているのかな。それはそれはなめられたものだ)
「誰か開始の合図をしてくれないか?」
その男がそういうと近くにいた男が歩を進めて俺達の間に立った。互いを見合い少し離れる。
「組手開始ぃぃぃ!」
「ふっ!」
先に突きを放ち先手を打ってきたのはあちらの男だった。申し訳ないが、俺は時間をかけるつもりはない。
外へと受け流し顎に突きを放つ。
紙一重で避け、その傾きを利用して上段蹴りを放ってくる。いい攻撃だが、それは俺が良くやる戦法だ。
俺は腰を落として避けながらクルリと回転し、バックスピンキックを放つ。
────ズドンッッ
「ぐふっ!」
腹を抑えるとそのまま倒れてしまった。
(やべぇ。やりすぎたかな?)
「隊長! 大丈夫ですか!?」
その倒れた男は隊長だったようだ。
だから歴戦の戦士のような雰囲気を出していたのか。
「ぐっ! あぁ。大丈夫だ。まさか……ここまで実力差があるとは……」
「いやぁ、紙一重でしたよ。上段蹴りが予想できていなかったら崩されていたでしょう」
「あれを予想していたんですか?」
「実は、俺はあの攻撃よくやるんですよ。その為に身体を柔らかくしています」
あちらの隊長は目を丸くした。自分の得意な戦法だったのだろうか。
「いやはや、完敗だ。お前たちわかったか? これが中央基地の刀剣部隊隊長の実力だ。わかったら訓練に戻れ!」
「「「はっ!」」」
見ていた周りの隊員は敬礼をするとばらけて訓練を始めた。
隊長さんが頭を下げてきたので何事かと身構えてしまう。
「すみませんでした。実は中央基地の実力を知りたいと言い出しまして、さっきの組手を見ていたらいけるんじゃないかと言い出してきかなくてですなぁ。まったく若いもんときたら血の気が多くていけませんな」
「いえいえ。若い者は元気なのが取り柄だと思いますよ。実は、さっきの組手の相手は遠距離魔法部隊の者なんですよ。だからちょっと緩くやってました」
「あの若者は遠距離魔法部隊? あんなに組手ができるのに、凄いですな。やはり中央基地は優秀な人材が豊富だ」
隊長さんは壁に寄りかかると腹をさすっている。
「すみません。つい、いい攻撃が来たんで、力が入ってしまって……」
「いや、いいんです。鍛え方が甘いんです。もっと力を入れないとダメですな」
周りにいた刀剣部隊員はこちらをギョッとした目で見ている。
ご愁傷様だったね。
鍛錬はその日遅くまで続いた。
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