第17話 彼氏とクリスマス

 どこで祝うか。それが問題だった。

 私のお小遣いでは高級レストランは無理だ。私の家ですると気まずくて楽しめない。


「カズオ君。お母さんの連絡先を教えて」


「むむ! これはあれですな? サプライズでしょ? 僕は口が固い方のでちゃんと驚いてあげるよ」


 この時点でサプライズの線は消滅した。


「いいから」


「お母さんに聞くね。うわ、返信早っ。いいって家族が揃うところに彼女だなんていいよね。家族全員集合って感じ」


 お母さんに聞かないといけない。変と噂のお父さんはクリスマスにいらっしゃいますか? と。

「いますけど、どうにかして追い出します。逆に私はいていいの?」


「それは申し訳ないので」


「早い時間にしましょう。あのアホ亭主も納得するでしょ」


「すみませんが」


「いいのよ。あれを生み出したのは私で、期待した私が悪い」


 招かれたカズオ君の家。


「初めまして新庄ことはと申します」


「そうか、ふむふむ。カズオの好みはこういう女の子か。これはノートに記録しないといけない」

 そうかそれは血筋なのか。


「あんまり余計な事すると追い出すわよ」

 慣れているお母さんはお父さんがいらないことを言い出す前に口にケーキを突っ込んだ。


「あーんも無しか。母さんもう少しムードというものを考えられないのか? クリスマスなんだが」


「そうだよ。これじゃお父さんが可哀想だと思わないのか」


「あとのお楽しみに向けての布石だと思いなさい。あとこういうことは女の子に言わせちゃダメ」


 真っ赤な顔でうつむくお母さんが気の毒で何も言えなかった。

「そうか。このムード作りも布石なのか。布石とは何かを調べた方が良さそうだね。父さんどういう意味かな?」


「僕も何を言っているのか分からないよ」

 お父さんは変な汗をかいている。

 やっと分かったのか。母さんの顔は赤くお父さんは冷や汗をかき、カズオ君は布石について調べている。


 これではまだうちでした方がマシだ。

 でも、うちでするよりもチキンもお寿司もケーキも美味しかった。


 お母さんは何とか空気の再構築も考えてくれたが、何を考えているかお父さんの顔は真っ青で、カズオ君は男女のクリスマスの過ごし方について調べている。


「じゃ、お父さん行きましょうか? ことはちゃんごゆっくりね」


「父さんは毎年女王様にお仕置きされながら、母さんに毎年の恨みや恥ずかしい秘密を言われるんだ」


「なんで知っているの?」


「父さんが教えてくれた」

 アホだな。息子に言っちゃうんだもん。


「さて、お腹いっぱいになったし、ベッドに行こうか試したいこともあるし」

 そんな展開が早すぎるよ、せめてお風呂に入ってからでしょ。


「どうしたの? 試そうよ。僕も初めてなんだ。どうなるか分からないけど」

 覚悟は決まった。どうなるか分からないのは私だってそうだ。


「じゃ、新しい漫画を買ったから二人で朝まで読もう」

 エッチな漫画なの? そういうことさせて楽しいんだ。


「おすすめはブルーベリーパンの香りと、ファイトライナーだよ」


「あのそれって」


「長編人気漫画集めたんだ。これを朝までに読み切れるかという挑戦をしようと思う。どっちも百巻超えだよ」


「馬鹿野郎」


「もう寝るの? 早いよ、夜はこれからだよ」


 昼前に帰って来たお母さんは漫画を大量に散らかしたカズオ君を見て一言。


「ごめんね」

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