第8話 彼氏のレポート

 結局、何も無かった。朝まで待っていた私、時々見に行ったら私。完敗だ。


「うち朝ごはんパンだから」


「あんこ以外なら何でもいいぞ。出された物は残さず食べるからな」

 クリームパンだと言って、あんぱんを出してやった。


「このクリームパンの中は黒いな、もしかして黒胡麻か。新しいな」

 あんこ苦手じゃ無かったのかよ。


「先に出てね」


「何で一緒じゃ無い」


「付き合っているのバレるでしょ」


「それも確かにそうだな。では先に行くぞ」

 朝ごはんがまるで新婚みたいだと浮かれていた私は深刻な問題に直面することになる。


 そう胸を触ったレポートの存在だ。


「ただいまー」

 いやに静かだ。食器を扱う音は聞こえるので、お母さんが料理を作っていることは分かる。

 廊下を進んでダイニングでお父さんが厳しい顔をしている。

「こっちに来て座りなさい」


「せめて制服は脱ぎたいよ」


「いいから、お父さんの話を聞いてあげなさい」

 はーいと言って、廊下の手前のテーブルに座っていた。お父さんの定位置だ。


「これは何だ」

 ノートだった。よく見る数学とか英語で使うノート。表紙にはと、書いていた。


 きっと私の顔が赤くなったり、青くなったりしたことだろう。白くもなったかもしれない。


「それはその彼氏が」


「彼氏がいるのか!」


「ことはも年頃だからこういうこともあるわよお父さん。でもこういうのは隠して欲しいわよね」


「その遊びに来た時に忘れて帰ったの」


「私たちが家にいなかった時に男の子なんて、昨日かしら、明日の晩御飯はお赤飯にしましょう」


「どこまでいったんだ」


「お父さんそれはセクハラよ」


「このレポートは読んだのか?」


「よ、よんでないです」


「試しに見てみろ」


 ○月○日、初めてことはの胸に触る。手触りは制服ということもあり、下着の感触はありつつ柔らかい。比較対象とすれば、クニマスのエリちゃんのおっぱいマウスパッドの感触に近く………。と、大量の参考文献や下着に関しての研究。先行研究で女性はどのような時に下着を脱いでという分析をし、最後のページに「でも昨日触った胸は生の感覚がし、もっと触りたいと思ったが、湿布にしては熱い物を感じてひとまず離れた。この感覚は要検討の上、比較研究を進めたい」と、やっぱりアレは興奮していたんだ。だから慌てて部屋を出たんだ。


 分かって良かったけど、分かった場所と人間が最悪だった。

「ことはも年頃だからわかるけど、もう少しちゃんとやりなさいね。男の子連れ込んでもいいけど、こういう痕跡を残されるのは困るわね」

 まさかカズオ君がこんなの残しているなんて知らなかったのとも言えない地獄の様な空間。

 分かったという了承も、こんなことを書く変な彼氏だとも言えず、真っ青な顔のまま。ははは、としか言えなかった。

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