第7話 幸せになれると願おう

深淵に侵食されながらも、縁は、祈が心配でどうしようもなかった。


だんだんと、意識が混濁する。目の前に暗闇が広がる。


「祈…!」


と、想った瞬間、目の前に光が灯り、深淵を押し返す。なぜか、篝の姿が目に浮かんでいた。そして、篝の姿が霧散すると、祈の姿がだんだんと見えてきた。


そこは、祈の部屋。


祈は嘆き、そして縄を手にした。縁の頭に、最悪な光景が浮かぶ。祈は、止まらない。


祈は、天井に縄をかけ、椅子に立った。そして、最悪な光景が再現される。


縁は、もう祈に触れることができないとわかっていた。それでも、夢中で、祈を抱きしめ、必死に祈の嘆きに言葉をなげかけた。


「そして、僕がいなくなっても、祈はきっと一人で生きてゆけよ!涙拭いて、顔を上げて、いつか幸せになれると願おう!」


それに祈…、


「僕の分まで笑わなくていい!だから僕の分まで泣かなくていい!時は、やがて祈を癒し、今を過去のものにしてくれるよ!」


必死に祈を抱きしめ続けた。


縁が抱きしめた瞬間には、縄は切れていた。


その後、篝や祈の両親が祈に駆け寄り、祈が叫ぶ。叫ぶ声には、生の熱さがあった。祈は、きっと大丈夫。縁は、確信した。

窓から、夕陽の光が祈を照らす。縁は、その光に誘われ、浮遊していく。祈が、篝が、祈の家や縁の家がどんどん離れて行く。縁は、晴れてる空を見上げる。


「今日は、こんなに晴れてるから、君がもしよければ、散歩でもしにいこう。」


縁は、祈を幸せにしたかった。もっと、一緒に笑ったり、泣いたり、したかった。けど、もう、会うことはできない。


「君に会いたい、心から思う」


僕は、祈に微かな、笑みを送る。







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