第6話 微かな、重さ

検死終えた、動かない縁を私は、見つめる。


中学生の時に、手を握りしめてくれた縁が脳裏に浮かび、私は、自身の手を重ね、あの日の嬉しさや幸せな気持ちを必死に呼び起こし続ける。


縁の声が聴きたい、縁の体温を、優しさを感じたい。


私は、冷たくなった縁のほっぺをつねった。


その瞬間、私のほっぺに熱が帯びた気がした。その熱が、私の心を温める。


涙が止まらない。この熱を、体温を、私は知っている。


そして、私の耳に「愛してるよ」と、縁の声が聴こえた気がした。


私も、縁のこと「愛してるよ」…。


けど…、私を愛し、私も愛している縁は、もう動かない…。


その事実が、現実が、私の温まった心を凍りつけていく。凍った心に、ヒビが入り、砕ける。


心にぽっかりと穴が空いている。私は、私自身がわからなくなる。


縁の両親も、私の両親も、篝君たちも…誰も私を責めなかった。その優しさが余計に辛く、私は、私の心に残った感情を全て捨てさり、縁のあとを追いたくなった。


警察署から家に帰り、自分の部屋に入る。

窓の外は、よく晴れた空。その空に浮かぶ陽が傾き、部屋を照らす。

照らされた、部屋にある影は、私だけ。

私は一人、取り残されたのだと、強く感じる。


「縁のいない世界なんて、私は生きていけないよ…。一人で生きていけない…涙だって止まらない…、顔を上げることだって、幸せになることだってできない…。縁の分まで笑っていこうなんて言えない…、縁の分まで泣いていこうなんて言えない…、よ…。」


机の引き出しを開け、学校の授業で使う予定だった、縄を手にとる。


縄についている説明書の耐久力を確認する。私の体重でもぎりぎり、切れない。20g余裕がある。


私は、決心する。その選択がいかに愚かなことかもわかる。けど…


「縁、私も今から行くよ…、お母さんお父さん…篝君や学校のみんなもごめんね…。」


そして、天井に縄をくくり、椅子の上に立ち、垂れた縄で輪を作り、それを首に巻き、椅子を蹴る。


「縁…!」


首の縄がきつくなり、目の前が急激に暗くなる。

次の瞬間、誰かに抱きしめられ、心に強い熱を感じた。


縄が勢いよく切れ、私は床に落ちた。


落ちた床に私は、座り込む。


座り込む私を誰かが抱きしめ続け、心に強く感じた熱も灯り続ける。


そして、微かな声が…縁?縁の声?なんて言ってくれてるの?


両親か誰かの足音が階段を駆け上がり、部屋のドアが激しく開かれた。


「祈さん!!!」


篝君が私に駆け寄り、縄や椅子の状態を確認し、私が行おうとしたことを理解し、頬を優しく、けど、力強くはたいた。


「縁がそんなこと、望むはずないだろ!祈さんの両親や縁の両親だって…俺だって…!」


篝君に続き、両親も駆けつけ、そして私を思いきり、抱きしめてくれた。


私は、両親に愛されてる。篝君や学校の友達も、きっと、私を大切にしてくれている。けど…


「お母さん…お父さん…、篝君、…私…、私…縁がいないなんて、縁がいない世界なんて、無理だよ…!」


そう叫びながら、私は両親を抱きしめ返した。

篝君に頬をはたかれ、両親に抱きしめられ、私は私の感情を取り戻した。

心に空いた穴がふさがる。そこに灯り続ける熱がある。そして、その熱には、確かな、微かな重みがあった。


それと同時に縁とのあるやり取りの記憶が蘇る。


「縁って、本がほんとに大好きだよね。マンガにライトノベルに小説に。無駄に物知りな縁も楽しいからいいけど。」


「でしょ?祈の為にも、自分の為にも、知識はあった方がいいからさ。で、最近、知ったのは、魂の重さについて。」


「魂に重さなんてあるの…?ちなみにどれぐらいの重さ?」


「21gだってさ。」













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