第9話 〜超えてはいけないもの〜

気づくと俺は息を切らしてボロボロの全能神に抱えられていた。

「良かった。間に合いました」

いつもの柔和な笑みだ。しかしその直後今までにはみたことがない厳しい表情をした。

「皆さんお願いします」

するとどこからか魔法陣のようなものが現れ、俺と全能神を避けて大量に光が一部の空間へ向かって降り注がれる。

なんだ何が起こってるんだ。それより知恵の神は大丈夫なのか?

「なぁ……知恵の神は」

そこまで言うと被せるように全能神が遮った。

「後にしてください。今は説明する時間はありません。身体は自分で動かせますか」

全能神は俺をそっと下ろす。俺は自分の身体が動くことを確認する。

久しぶりに動かした身体は、喜んでいるかのようによく動いた。

「あぁ動くぞ」

「そうですか。それは良かったです。それで絵は描けそうですか」

こちらを見ずに全能神が話しかけてくる。

「ペンが……」

俺は折ってしまったペンについて、どうしたらいいのかわからないでいた。

「いいえ、ペンなどなくても描けるはずです」

俺は空間に指を滑らす。

すると動かした通りに線がかけた。

「描けましたかね?それじゃあ7つ大きな透明の箱を描いていただけますか」

俺は小さく箱を描くと慣れた手つきで拡大した。そして7つ分コピーした。

「命与神、芸術神もいけそうですか」

「もちろん」「あぁ」

2神ともすぐに返事をした。すごくやる気を感じる。

「それじゃあお願いします」

命与神、芸術神どちらもブツブツと何かを呟いている。

詠唱が終わると一瞬光った。

「できたぞ」

芸術神が全能神に伝える。

「さすがですね。それじゃあ軍神、冥界神最後お願いしますね」

そう言うと一際大きな光が辺りを包んだ。

軍神や冥界神の姿は目で追うことはできなかったが、しばらくして光が止むと先ほど作った大きな箱に何かがいた。


俺たちは一旦第8世界へ移動することになった。

「それで状況を説明してもらえますか?」

事情を把握してない俺が話を切り出した。

「えぇもちろんです。ただもう少しお待ちくださいね」

全能神は怒っているようだった。いつもの温和さを感じない。

しばらくすると、軍神が知恵の神を抱えて現れた。

「知恵の神大丈夫か?」

先ほどの衝撃で知恵の神は怪我をしたのだろうか。

「ありがとうございます。だいぶ回復しました」

そうは言うがまだ本調子ではなさそうだ。

全能神は向かい側に並ぶ箱にいるもの達をもう一度睨んだ。

「それでは説明します」

そう言って全能神が説明を始めた。

「創造神がいなくなった後、第5世界では、並行世界であるはずの世界にヒビが入りました。あれはあなた方のせいで間違いありませんね」

箱に閉じ込められたもの達は誰も反応しない。

「あれは模倣神がこの世界を模倣して作った第5世界と繋がってしまったせいです」

全能神は1つの箱の前で立ち止まると模倣神と記載した。

「並行世界は本来は私たちの干渉の外の世界です。しかしあなたが作った模倣世界ではこちらの世界と同じように制限がありました。模倣世界に世界をコピーすることはできました。しかし創造神がいないので、ただの空間しかありません。そのためあなたは創造神の能力が欲しくなりました。とはいえ、世界をまるまるコピーしてしまったことで力がほぼ残っていません。あなたは力が戻るまで休息すると知恵の神以降にこちらにくるはずだった神を模倣世界に顕現するようにいじりました」

「模倣世界ってなんのことだ」

模倣神と書かれた箱に入っている彼は、知恵の神より幼い見た目をしている。

「シラを切っても無意味ですよ。すでに解析は終了しています」

「じゃどうやってあんたにバレずに模倣世界に神を顕現する事ができるんだよ」

全能神は一瞥すると話しを続けた。

「あなたは、破壊神、愛の神、重力神、水神、豊穣神、発明神と仲間を集めていきました。そして自分の作った模倣世界が本当の世界で、こちらの世界は偽物とでも説明していたのでしょう。そして創造の神はあちらの世界に奪われてしまったと。だから奪い返すために力を貸してほしい。そんな感じで丸め込まれた他の神は事情を知らないまま彼の手助けをしてしまったとこんなところでしょうか」

そう言って全能神は捕まっている他の神達を見回した。

「おい、なんで俺を首謀者に仕立て上げようとしてるんだよ。他の神の仕業かもしれないだろ」

確かに捕まっている神の中で1番幼い見た目をしているし、模倣できるだけで、首謀者は他の神の可能性だって大いにある。

それなのに全能神は確信しているかのように模倣神を糾弾している。

彼の言うように何か証拠があるのだろうか。

全能神は大きなため息をついた。

「あなたが僕より先にこの世界に来ているからです」

こちらにいた神達は驚きで全能神と模倣神のことを交互に見た。しかし模倣神やその仲間達は特に驚いた様子もない。

「だから?それがどんな証拠になるんだよ」

「あなたは顕現した後、すぐに自分の能力を知り、世界をそのまま模倣しました。その時にあなたの神格レベルは上がりました。あなたの能力には、模倣だけではなく、改ざんする能力もあります。あなたはその力を使い、僕が顕現する前にこの世界に次に現れる神が1番目の顕現者であるように世界そのものの記憶……情報を書き換えました。そのおかげで僕はあなたが模倣世界を作っていたことも、あなたの存在すら情報として流れてくることはありませんでした」

「待って、でもそれなら最初から模倣世界の方を本当の世界と情報を書き換えれば済んだんじゃないの」

命与神が質問する。

「世界の模倣なんてどんだけ力を消費するんでしょうね?本来であれば命与神が行ったように模倣世界を本当の世界にしてしまえばよかった。しかし残念ながらそこまであなたの能力は残っていなかった。あなたはどうすれば、いいかしばらく考え込みました。しかし意外にも早く全能神である私が顕現してしまいました。あなたは仕方なく、模倣した世界へ戻り力の回復を待つことにしました。しかしあなたが能力を取り戻す前に創造神は顕現してしまいました。あなたは仕方なく創造神を奪う方法がないか計画を練りました」

「やっぱり証拠なんかないじゃねーか。お前が勝手に話を作ってるだけだろ」

「君に何を言っても難しそうですね。状況を理解してきたのか他の神たちは動揺を隠しきれていませんよ」

全能神はどこからか猫ロボを取り出した。

「あっ猫ロボ。よかったどこかで落としたのかと焦ってたんだ」

「この猫ロボは僕の機能の一部ですからね、自由に場所を移動することもできます」

全能神は確実な証拠を掴んでいるのか落ち着いている。

「では今のこちらの世界と模倣世界の状況を確認してみましょう」

そういうと猫ロボを媒体として、映像が映し出された。

「うぉーすげぇ」

「これは何の映像?」

みなあまりみたことがないこの世界と模倣世界が一緒に映し出されていた。

「こっちが今いる方の世界です」

そう言って全能神は映像の右側を指した。

「こちらは創造神が作った世界が、4つ完成していますね。もっとアップにすれば、生物が生活しているものも、見えるでしょう。そして左側に映し出されている模倣世界。一見世界が造られているようにも見えますが、おそらく創造神が作った世界を模倣して見た目だけ似せたハリボテの世界なんでしょうね。生物は愚か、時間の流れなど存在しないでしょう」

模倣世界の映像をいじりながら説明していく。

「さてこの映像ですが、もっと前の時間を写すことができます」

そう言うと映像が徐々に変化し、作った世界が元の状態に戻っていく。

「さてここまでで申し訳ないです。僕が誕生する前の情報はすぐには用意できなくて」

そう言って映像を再度流し始めた。

「すでに世界は2つありました。模倣世界の方をアップにしていきますね」

ある1点に向かってどんどん映像が近づいていく。

そしてぼんやりとした影が、姿を現した。

「模倣神!!」

「他の神がいる可能性はないの??」

命与神が質問すると、猫ロボが答えた。

「他に生命体はおりません。必要であれば他の神が顕現した映像そして、話している内容まで流すことが可能です」

さすがに、模倣神は罰が悪いのか顔を背ける。

「模倣神にも悪気があったわけじゃない」

今まで黙っていた神の1人が声をあげた。

「儂は発明神だ。模倣神は最初は自分の能力を試したかっただけかもしれん。しかし世界の記憶を改ざんしてからはこちらの世界に戻ることはできなくなっていた。儂らはどうして彼だけがこちらの世界にこれないのか。その理由を調べた。しかし儂らには見つけられなかった。だから儂らはそちらの神が故意に彼を追い出したんじゃないかとどうにか彼の力になれないかと勝手に動いたんだ」

そう言って発明神を含め模倣世界にいた神達は模倣神のことを見た。

「そうです。私も自分から協力しました」

「俺も」

他の神達が次々と声をあげ始めた。

全能神はため息を吐いた。

「まぁいいでしょう。別に誰が首謀者かなんて些細なことですからね」

全能神は口元をきっと結ぶと、ゆっくり、それでいて威厳があるように話し始めた。

「それで誰ですか?知恵の神を攫ったのは」

この神がこんなに激昂すると誰が思っただろう。

ぴりぴりとした空気が辺りを包んだ。

これには先程まで模倣世界にいた神を含めみな萎縮した。

今までで1番長い沈黙が辺りを包む。

「あの」

沈黙を破ったのは知恵の神本人だった。

「全能神さんありがとうございます。でも僕自身気絶させられていただけで危害は加えられてないので大丈夫です。そしてあなたは犯人を知っているのですから、どうか落ち着いてください」

「ん?ん?ん?ちょっと待ってくれ。知恵の神は俺と一緒にいたじゃないか。気絶させられていたのか」

知恵の神も被害者ではあるが俺も被害者なのになんで知恵の神のことだけ心配してるんだ。納得がいかない。

「それについては後で説明しましょう。それで自首するものはいないのですね」

もう一度だけ全能神が模倣神や他の神に睨みを効かせる。誰も名乗りを上げる様子はない。

「さて犯人探しはここまでにしましょう。それであなた達はどうしたいですか。あっ模倣世界についてはもう必要ないと思いますので、模倣神さん削除をお願いしますね」

全能神に変わり指示を出す知恵の神。

「もちろんですが、しばらくあなたがたの能力は制限させていただきます」

落ち着いてきた全能神が声に棘を孕みながら宣言する。

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