15 ミジンコと呼ばれることになった。
次の日、登校して、教室内を見回すと、一際に目立つブロンドを見つけた。髪染めオッケーな学校であるため、他の高校と比べても多彩であることには違いない。それでも、その天然物のブロンドはよく目立っていた。
(よかった。来られたんだな)
ほっと一安心。陽斗は、心の中で胸を撫で下ろした。いつから熱が出ていたのかは知らない。だけれど、今日こうして彼女が学校に来られているのは、昨日早退したことが原因であろう。
いつもであれば、話しかけに行くなんてことしなかっただろう。だが、昨日に琴音の心を少し見てしまったから、心配で話しかけに行ってしまった。
(外から見ても、幼馴染の、エセ彼氏が話しかけに行くだけだから、何も変じゃないよな)
と、自分に言い聞かせながら。
「結城、体調は良くなったか?」
突然話しかけられて、驚いたような反応を一瞬だけ見せるが、すぐに琴音は体をこちらに向けて「はい。元気になりました」と返した。
「ならよかった。昨日は、早退したんだって?」
職員室に先生を呼びに行った後、陽斗は先生に言われて、保健室には戻らず、直接教室に行った。だから、その後の琴音の様子は知らない。唯一知っているのは、琴音が早退したことだけだった。
「はい。早く帰って熱を下げたほうがいいとのことでしたので」
「熱が下がってなりよりだ。安心したよ」
陽斗がそっと微笑むと、琴音は突然に目をそらした。
「どうした?」
「いえ、何でもないです。その、昨日はお見苦しいところを見せてしまって、すみませんでした」
今度は顔だけではなく、体ごと陽斗に向いてから頭を下げた。
「いやいや、謝られるようなことは何もないって。見苦しいも何も、中学の頃のお前はあんな感じだったろ? 懐かしくなったわ」
久しぶりに敬語なしで話すことができて、陽斗は懐かしくなるのと同時に、なぜ敬語を使い始めたのかという疑問がいっとう強くなった。
「別に昔の私は、そこまでとげとげしていなかったと思いますけど?」
「とげとげ度でいえば今の結城のほうがよっぽどだよな」
と、言うと琴音は突然冷笑を浮かべ。
「朝のホームルームも始まりますので、早く席に着くといいですよ。ミジンコ」
いつかのあだ名とともに、冷たくあしらわれた。
はっとして、周りを見渡す。先生は来ていないながらも、大半の生徒はすでに席についていた。時計を見ると、ホームルームが始まるまであと三分ほどであった。
「そうするよ」
琴音からの返事はない。
どうやら、怒らせてしまったらしい。
「ごめん」
そう一言だけ残して陽斗は自分の席に着いた。
「朝から、熱いな。ミジンコ」
笑いを必死にこらえながら、蒼空は椅子に逆向きで座って話しかけてきた。
「勝手に熱いと蒼空が思っているだけで、中は氷点下だよ」
「お
「うるせーよ。てか、ミジンコ呼びやめろ」
あの冷笑を呼び出してしまったのは、陽斗に責任がある。そんなことはわかっている。だから、琴音からのミジンコ呼びは受け入れた。
だが、蒼空に呼ばれるのは違う。絶対にやめさせたかったが、彼はやめるつもりはないらしい。蒼空はまるで新しいおもちゃでも与えられた子どものようだった。
「ほんとに、冷めているのかなぁ。お前らは」
陽斗が氷点下と表現したから、蒼空はこういった疑問を抱いたのだろう。だが、それに対する答えは一つだけだ。
「熱くなる要素もないからな。冷たいままだよ」
(俺たちは付き合っても、恋人としての関係を楽しむことはできない。これは、俺と勇気の共通認識のはず。だから、ただの幼馴染を続ける。だから、琴音に対して抱く気持ちは、友達に向ける「好き」の気持ちなんだ)
「ただの友達という関係が、冷めているとは言わないのなら、ぬるま湯ぐらいの温度はあるかもな」
「そういうところは、一貫しているというか、頑固というか……。ま、ミジンコらしいな」
「だから、ミジンコやめろ!」
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