第19話 ENA参戦

西暦2032(令和14)年1月7日 日本国東京都 国会議事堂参議院


 この異世界に迷い込んで2度目の新年を迎えて1週間が経ち、東京都の国会議事堂では臨時国会が召集されていた。食料やエネルギー問題は、ダキア王国を含む東方世界の国々からの輸入で持ち直し、さらに講和条約で国交を結んだアーレンティア帝国から、相場よりも安く資源を輸入できる様になり、西条政権の支持率は経済の浮揚に合わせて向上していた。


 そしてこの日は、本年度の臨時国家予算をメインに論戦が繰り広げられる事となっており、与党の自由党は早速として、予算の使い方に最も大きな影響を与えるであろう国策について、主張を始めていた。


「これまで我が国の脅威であり、友邦ダキア王国に対して甚大な被害を与えてきたアーレンティア帝国及びゾルシア共和国に対し、救援を行うという行為は、一般国民からすると納得しがたいものがあるだろう」


 予算委員会に用いられる部屋ではなく、参議院の本会議場にて西条は演説を始める。その背後の席にあるのは、本来であれば皇居より事の推移を見守るだけの尊き人物の姿。


「だが、此度ゾルシア共和国に侵攻を仕掛けてきたガロア皇国は、戦争で窮地に陥った国に対して不意打ちにも等しい侵攻を仕掛けるという、余りにも卑怯過ぎる蛮行を実施した。この様な国益を最優先として狡猾な手段に打って出る勢力を放置すれば、いずれは我が国にも同様の手法を取ってくるだろう」


 西条はそう言い、議場に集う全ての議員に理解を求める。かつての太平洋戦争末期のソ連の卑怯な行いが、公の場でも明確に論じられる様になった現在。世の中には容易く外道を働いて利益を掠め取ろうとする存在を須く認識する様になっていた。


 中には反政権姿勢を崩す事に忌避感を覚えて頑なに変わろうとしない者も少なからずいたが、その程度の抵抗が国政に影響を及ぼす事はなかった。そも戦後、保安省はそういった声だけが大きい輩の摘発に全力を傾けていたために、障害となりうる人物はこの場にはいなかった。


「よって政府としては、今後の安全保障の観点からアーレンティア・ゾルシア両国に対する支援の強化と、本格的な参戦を考えております。これら諸政策に対する理解と協力を求めます」


 議論は凡そ1か月に及ぶ事となった。しかし全く進まなかった訳ではなく、水面下では間違いなく激化するであろう戦争に備えた下準備が進められていた。


・・・


ダキア王国南部 港湾都市レグノーザ


「この短期間のうちに、こんな多くの艦艇を建造するとは…」


 レグノーザの造船所にて、アーレンティア帝国より派遣された将校は、ドックに並ぶ数隻の艦艇を見て、そう評する。


 72隻もの旧式駆逐艦を、日本の技術を大幅に反映させた新型艦に置き換えるべく、王国海軍は近代化された造船所を用いて新型駆逐艦の大量建造を開始。同時に沿岸部での哨戒・要撃を主任務とした哨戒艦の建造も進めていた。


 今この造船所で大量建造されているのが件の哨戒艦であり、その外見は旧ソ連海軍のタランタル型コルベットに近い。武装は7.6センチ単装速射砲に4発の艦対艦ミサイル、そして30ミリ機関砲と艦の規模に比して重武装であり、各所にて合計16隻が建造中であった。


「ここで建造されているうち8隻は、貴国の海軍へ売る事となります。沿岸部での戦闘に限定されますが、それでも敵艦隊に一矢報いるぐらいの力はあるでしょう」

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