第7話 デッドマンズ・トリガー

スリーピング・ビューティーが、エレベーターから出てくる。

ロビーで待ち構える騎士のホワイトナイト。


眠り姫を救ったのは騎士だった。

まるで、映画のエンディングシーンを見ているようだ。


……しかし、そこに邪魔が入る。


「ちょっと待ちなさい」


あの、黄色く丸いぬいぐるみをかぶった怪しい男。

パックマン・ディフェンスだった。


騎士が姫の前にさっと出る。

おれもさすがにあわてて飛び出した。


「何用か?」

「お前、不正を働いているだろう?」

「何を失敬な。どこにそんな証拠が?」

「これを見ろ」


パックマンは多数の写真を投げつけた。

写真を拾ったスリーピング・ビューティーは、はっと息をのんだ。


「……どういうことですか?」


床に散らばる写真の一枚を拾い上げると、おれも瞬時に状況を理解した。


それは、ホワイトナイトと敵対的買収を仕掛けてきた相手が仲良く酒を交わしている写真だったのだ。


「ホワイトナイト、どういうことだ?」


沈黙するホワイトナイトに代わり、パックマンが種明かしをする。


「本当の敵はこいつだ。こいつが黒幕。

 そうだろ?ホワイトナイト……いや、『ブラックナイト』!」

「ばれたら仕方がない。強硬手段に出させてもらう」


ホワイトナイト改めブラックナイトは剣を構える。

パックマンがチェリーやリンゴを投げて攻撃。

ブラックナイトは盾で防御する。


その隙をついて、おれはスリーピング・ビューティーを彼のもとから引き離した。


「あ、ありがとうございました」

「……いえ、こちらこそ、この度は、信用できない協力者を紹介してしまい申し訳ありません」


おれは痛恨のミスを犯したことを詫びた。

しかし、スリーピング・ビューティーは首を横に振った。


「いえ。私が騙されたのですから仕方がありません。それに……」


彼女は、パックマンの方へと歩を進めた。


「この度は助けてくださりありがとうございました。ぜひ、あなたに協力を仰ぎたいのです。お願いできますか」


最初は声すらかけなかった、パックマンに協力を願い出たのだ。


「私、ビジネスマンは外見や力ではなく、その中身が大事だと気がつきました。信頼できるのはあなたです。お願いします」

「もちろんです、眠り姫」


パックマンは、徐に被っていたぬいぐるみを外す。

そして、それをブラックナイトに投げつけた。


ブラックナイトは身構える。

しかし、パックマンのぬいぐるみはどんどん膨張し、やがてブラックナイトを丸ごと飲み込む大きさに膨らんだ。


「た、助けてくれ」


パックマンのぬいぐるみが大きな口を開けて、ブラックナイトを飲み込んでしまった。


「これで一件落着です」


ぬいぐるみを外したパックマンは、濃いひげと深いしわが経験と情熱を物語っている中年の男だった。


「ありがとうございました……素敵なお方、本当のお名前を教えてください」


スリーピング・ビューティーは、彼の手をとる。

彼はニヒルに笑った。


「私の本当の名は、デッドマンズ・トリガーです」


こうして、スリーピング・ビューティーに対する敵対的買収は未遂に終わり、そして新たな恋が生まれたのであった。


さて、一件落着。

ウォール街に朝日が差し込んでくる。

少し歩こうか。

証券取引所が開くまで時間がある。


どこかでクロワッサンとコーヒーでも買って、食べながら五番街でも散歩しようか。


<完>

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スリーピング・ビューティー どまんだかっぷ @domandacup

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