第17話 燕斉

 戦国七雄、北東の二国。

   史記 史略 史記比 史略比 比率対

燕  2387  678  2.14% 5.00% 233.46%

田斉 5644 1643  5.07% 12.13% 239.27%

 燕が、史記中の扱いに比べれば「楽毅がくき荊軻けいかのおかげで」分厚くなっておるのがわかる。と言うかこの二人を登場させるためだけに存在した国、とすら言ってもよかろう。

 十八史略の流れを追う上では、先に田斉でんせいから見てしまったほうがわかりやすいであろう。



◯田斉


 姜斉きょうせいの項でも書いた通り、「景公けいこうに仕えた田乞でんきつからじわじわと乗っ取られ始めた」というブックになっておる。まぁこの辺りも結果からの逆引きという次第で、実際の田氏各員がいかなる思いのうちに行動したかはわからぬ。ただ気になるのは、姜斉時代の他の大夫らの動きである。十八史略はこの辺りを空気にしまくり、「田氏の他に人はなし」状態にしておる。そのように扱うのであればあなたの姜斉にとってはそうなのでしょうね、以外に特に言えることもないのだが。


 以降の流れは、威王いおう宣王せんおうが偉大で湣王びんおうがたたき落とした、である。威王に始まり、専横が花開かせた稷下の学における人物は淳于髡じゅんうこん孫臏そんぴん騶衍すうえん田駢でんべん愼到しんとう。それとここは十八史略で省かれているが、蘇秦張儀の師に当たる鬼谷先生きこくせんせいもこの学閥に組み入れられている。魯仲連ろちゅうれんが含まれるかどうかは五分五分、と言ったところであろうか。「多種多様な人材が集まりました」だけで切り取れば魏の文侯と似た位置づけなのだが、こちらでエピソードらしいエピソードが載る淳于髡と孫臏は、田子方でんしほう李克りこくのような「強引にエピソードをとってつけた」感覚のある人物たちとは違う。「原稿を水増しする必要がない」わけである。しかし頑張って水増ししてなおあの文字数だった韓の立場のなさときたら。


 燕をほぼ滅亡にまで追い込むほどの勢力伸張を示し、しん荘襄王そうじょうおうから東帝の称号を受けるも一瞬で破棄、宋を滅ぼすと、うっかり楽毅にほぼ壊滅のところにまで追い込まれた湣王。出すぎた杭の叩き潰され方がえげつない。その後立った襄王じょうおうの時代で田単でんたんの活躍があり国力を戻した、とあるが、ここで言う回復とはどの程度のものであったのであろうかな。それにしても田忌、田文(孟嘗君)、田単と、この辺りの田斉名将の順番がやや混乱するな。歴史を紐解くと孟嘗君と田単は、斉宮中で三、四年ほどは活動時期が被っていたようである。


 とは言え襄王とその妻たる君王后くんおうこうで盛り返しかけた勢力も、斉のオチ担当、田建でんけんですべてぶっ飛ばされるわけである。その書きぶりからしても、十八史略からは「田建テメエよお、先祖たちが営々と積み上げ、保ち、復興しようとしたもん全部吹き飛ばしやがって」的感情がほの見えており、特に最後にわざわざ詩を持ち込んでくる辺り、殺意が高くてよろしいな。



えん


 召公奭しょうこうせきという、周公旦しゅうこうたんと並び重んじられた宰相が封じられた割にあまりにもその扱いがひどい国。なにせ史記を見てもいきなり自召公已下九世至惠侯、召公奭から九代がすっ飛ばされるわけである。それは十八史略でも三十代をすっ飛ばそう、と言うものである。どう国が隆盛したかの情報もまた乏しく、いきなり易王えきおうが国を滅ぼしかけすらする。「かいより始めよ」までの経過に関心がなさ過ぎであろう。

 それにしても、ここまで改めて戦国各国の流れを見て参ったが、国運を立て直すほどの活躍を示した人材が王に猜疑され出奔、の流れがあまりにも定番過ぎて笑えてしまう。楽毅がくきとてその例に含まれるしな。そんなものと言ってしまえばそれまでだが、身の振り方の検討があまりにも修羅の道過ぎぬか。特に楽毅に関しては侵攻計画の詰めの一手を取る前に失脚という、とばっちりにもほどがある急転直下。ショッギョムッジョと呼ぶにしても、もう少しこう、人ってやつを信じられませんかね、とは思いたくもなってしまう。生き馬の目を抜く時代でそうも行かぬのは重々承知なのだが。


 燕の事績紹介は、はっきりと楽毅及び荊軻けいかのみ、となっておる。この辺りは非常にわかりやすい。戦国中期に名采配を振るった名将、戦国秦に最後の抵抗を示した義士。曽先之であれば楽毅と岳飛がくひを重ね合わせたりもあったのではないかな。なお作者はちょくちょくこの両名を混同しておる。

 荊軻については、もはや韓の所で語ってしまった感もあり、いまさらここであれこれと語る必要性も感じてはおらぬ。曽先之先生の刺客大好きぶりが対げん感情の表れであるのは間違いない、とさえ把握できれば良かろうしな。

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