断章

 深夜。西園寺亥久雄は静かに扉を開けて部屋を出た。

 昨晩と違い、今晩はキャシーが廊下で見回りをしている事はない。雪かきに従事している。

 手袋を嵌めた手に褐色の小瓶を持ち、音を立てずに忍び足でやってきたのは厨房だ。

 戸棚を空け、シャーロックホームズのデザインがプリントされたグラスを手に取り、ほくそ笑む。

「何をなさっているのですか?」

 突如背後からかけられた声に、びくりと肩を振るわせる。

 恐る恐る振り返ると、厨房の片隅にロックが佇んでいた。夜を徹して雪かきをしていたが、今は充電の為に厨房に帰ってきたのだ。

「いや……喉が乾いてね。水でも飲もうかと」

 小瓶を背中に隠しながら亥久雄は言う。

「そのグラスは閑奈お嬢さん専用です。使用は控えてください」

「ああ、すまないね」

 そう言って他のグラスをとり、水道から水を注いで飲むと、そそくさと厨房を去って行った。

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