第4話
そして気が付くとまたあの夢の中にいた。
私は前回手渡された松明を握りしめている。
あの少年も同じくしっかりと松明を握っていた。
古代ギリシャ人が身にまとっていたような雰囲気の真っ白な服を着たお爺さんが再び口を開く。
「これから入る森はとても危険な場所だ。様々な誘惑により、君たちが手に持っている松明を手放すよう仕向けてくるだろう。決して惑わされてはダメだ。何があってもその松明を手放してはいけないよ。」
これほど繰り返し手放すなと言われれば、いくら何でも手放しはしないだろうと思いつつ、素直に頷いた。
「それでは森に入ろう。まずは君が先頭に立って歩いてくれ。私達は君の後に付き従って歩いていこう。」
そう促されて私から順番に森に足を踏み入れる。
深い森の中に獣道のような細くて消え入りそうな道が続いている。
道の両端には子供の姿になった私の胸の高さ位の雑草が生えており、数メートル先までしか松明の灯りが届かず、灯りの範囲外は恐ろしいほどの真っ暗闇になっている。
松明が照らし出す足元はとても暗くて心細い。
慎重に見ながら歩かないとすぐに転びそうな雰囲気だ。
森に入ってから、しばらくは順調に歩を進めていたのだが、あまりにも道の状態が悪いので、精神的に疲れてくる。
いくら歩いても目が暗闇に慣れることはなく、松明の照らし出す範囲の外は相変わらず真の闇に覆われている。
私のすぐ後ろには少年が続き、そのさらに後ろにお爺さんが続いている。
「足を踏み外さないように、よく気を付けなさい。万が一、転んで火が消えてしまったら、確実に道に迷ってしまう。この道の外側には所々に深い穴が空いていて、一度落ちると永久に出て来られなくなる。」
その言葉を聞き、心底震え上がりながら、一歩一歩着実に地面を踏みしめていく。
しばらく歩き続けた後、ふと闇の中から何者かに見られているような気がした。
強い気配を感じるのだが、どんなに目を凝らしても、全く見ることが出来ない。
松明で道の脇の方を照らせば見えるだろうか?
実際に試してみると、僅かに見える範囲が広がるのだが、気配は灯りの範囲外に引いてしまう。
もはや勘違いでは無いほど、強烈な気配が感じられる。
その見えない何かからは、とても邪悪な気配が漂っている。
目を離すと、今にも襲いかかって来そうな現実的な恐怖がある。
どうしても正体を確認してみたい。
その場に留まり、松明をアチコチ伸ばしている内に、いつの間にか周囲を完全に取り囲まれていることに気が付いた。
自分が見ている方向と反対側の方向からジワジワと気配が近付いて来るような恐怖感がある。
冷や汗が噴き出してきて、足から力が抜けそうな気がする。
ふと後ろを振り向くと、付いて来たハズの少年とお爺さんが見当たらない。
慌てて自分の前方を見ると、はるか遠くに2人が歩いているのが見える。
心臓が早鐘を打つ。
『何故先に行ってしまったんだ? 私の後ろに付き従うと言ってたのに!』
周囲の邪悪な気配はなおも範囲を狭めつつあり、今にも飛びかかってきそうな雰囲気を感じる。
これまでに聞いたこともないような恐ろしい唸り声も聞こえてくる。
「おぉい! 待ってくれ! どうして先に行ってしまったんだ!」
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