第四章 閉鎖された城内

 宝条凛菜は自室のベッドの上で目覚めた。浅い眠りで夜中に何度か目を覚ました記憶が残っている。

 この城の雰囲気が肌に合わないどころが、不安感を滝のように心に流し込んでくる気がして深く眠れなかった。掛け布団は薄め。季節柄暖かいとはいえ、山中に建つ城の夜は思っていたよりも気温が低い。それが拍車をかけていた。

 外泊は初めてではなかったものの、想像以上に居心地の悪さを感じている。気が小さくて神経質な性格であることを自覚している故に、身体的には兎も角精神的なところにダメージが入っていることを認識していた。

「茜ちゃんか瀬里佳ちゃんの所に行こう」

 のろのろと起き上がり、寝間着から室内着に着替えて部屋を出た。しかし宝条は廊下に出る前にドアの前で立ち止まる。

 自分のスマホを見遣る。圏外なのは承知している。時刻を確認する為だ。時刻は午前五時を過ぎたところ。

「まだ寝てるよね……起こしちゃ悪いよね」

 ベッドに戻ろうとも思ったが、異常と思う程に喉が渇いている事を感じた。飲み物を求めて薄暗い廊下へ出る。静まり返ったホールを、体を小刻みに震わせて下ろした髪を揺らしながら進んでいく。

 誰とも会わない、時間を考えれば当然だ。

 階段を恐る恐る下り厨房へ。誰もいない。ミネラルウォーターを冷蔵庫から取り出してキャップを捻る。躊躇なく飲み込むと、冷たい液体が胃を驚かせたのか一瞬で全身に震えが伝播した。

「早く出たいな、こんな城。外から見た時は夢の世界に見えたのに、中はイメージ壊しもいいところ。現実ってこんなものなのかな」

 今度はゆっくりと口に含む。喉の渇きが少しづつ治まっていく。

 不意に、厨房の入り口に長身の男が現れた。

「おはようございます宝条さん」

 穏やかに挨拶を投げかけたのは煌月だ。宝条はペットボトルを落としそうになった。すぐに小さな声でおはようございますと返した。

「早いですね、起きるの」

「えっ、ああ、なんだか寝つきが悪くて……」

 尻すぼみな声は若干震えている。

「確かに快適とは言えないでしょうね」

 煌月は脇に抱えたブランケットを適当なところに置いてから、冷凍室を覗き始めた。

「あの……どうしてブランケットを持ってきたんですか?」

 気になったのか煌月に問うと、

「寝るとなると流石に寒そうでしてね。部屋にあったのを持ち出したんですよ」

「持ち出した?」

 何かが引っかかった言葉を宝条は口に出した。

「部屋で寝なかったんですよ。浴室が個室だったのでそこで眠りました」

 さも当然の事のように返した煌月。何と言えばいいのか分からないのか、宝条の口は半開きだ。そんな彼女に視線を向けようともせずに、煌月はレンジで温めるタイプの冷凍グラタンを引っ張り出して袋を開けてレンジに入れた。更に電気ポットでお湯を沸かし、棚からきつねそばのカップ麺を一つ掴んだ。

 その様子を宝条は暫く黙って見ていた。

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