6 なにもない街
「あの時は
「姉貴の?」
拓は思わずウェティブへ向き直った。笠原文香は拓の姉だ。祖父の代から違法機製造の業務を引き継ぎ、軍需産業として発展させるべくデザイナーベイビーを開発していた。本社で唯一稼働したウェティブは自身の本体保持のため、文香の下で動いていたのだ。
「そうだよ。中立地帯は周辺都市から完全に独立した場所だったし、軍事行使は認められていない。メトロシティに対して警戒していたし、笠原工業にもいい顔をしてなかったからね。そこに目をつけてAI至上主義者が根を張って、オートマタに対抗しようって噂が流れた。文香はそれを調べようとして僕を転送させたんだ」
「へぇ。じゃあ、中立地帯に来るのは、これで三回目ってことか。頼りになるな」
「当てにするなよ。AI至上主義者たちが見せしめのために故意に破壊した機体に無理に転送して動かしたから記録はあまり取れなかったんだ。二回目の時は、事務局の施設内にいた機体に転送しただけで、外は歩けなかったし。おまえがリミッター解除してた女医の機体だ」
ウェティブはどこか懐かしむようにそう言った。もっとも、子供の姿でそんなことを言っているので、如何せん説得力に欠けているように見えたが。そのまま続ける。
「だから最初に狭間に来たときも、壊れかけた機体を引きずっている内に、気づいたら入り込んでただけだ。街の様子も少しだけ覗き見れたけど、人の姿もほとんど無かったし。ゴーストタウンみたいに不気味だった。笠原工業がどうしてこんな場所を警戒しているのか理解に苦しんだよ。結局、僕を追ってきたAI主義者に破壊されて、転送は終わり」
「なるほどね。まぁ、街に人があまり居ない理由ってのは直ぐわかるさ」
拓がそう言って視線を窓の外へやると、車は霧を抜けた。植物で作られたアーチを潜ると、そこが狭間の入り口なのだろう。いとも簡単に到着したので、ウェティブは多少拍子抜けした。広場はロータリーになっており、車が数台止まっていたがどれも無人だった。
車から降りる。日中だというのに、人の姿はまばらだった。人なのか、アンドロイドなのかも見分けは付かなかったが。
ウェティブが様子を眺めていると、道行く人の服装はどれも似通ってシンプルだった。横に並んだ笠原拓を見上げると、彼も似たような格好をしている。シンプルなTシャツに、ジーンズ、スニーカーという出で立ちにサングラスを掛けている。
もちろん全員がシンプルな格好をしているわけではないのだが、ウェティブは不思議に思った。流行り廃りというのがあるのを多少は理解しているつもりだったが、そういったものも浸透していないように見える。メトロシティと比較すると、どうにも色に欠けるのだ。拓はタイミングを見計らったかのように口を開く。
虚構傀儡の女王 久納 一湖 @Kuno1ko
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