第45話 結界を張ろう
ラペルさんが持ってきてくれたホーリーポーションを一気飲みし、ぷはぁと息を吐いて落ち着いた頃、他の皆様も準備が整ったようで小走りにこちらへ駆けてきた。
「それでは始めます。フィリアさんもご協力をお願いします」
「らじゃですっ!」
私とラペル他聖職者で真横に並び、一斉に印を結んでいく。
「「「一陣二尽三刃四仁、四方五行、陽は聖にして金は篝火、かく新た貪欲なりて導と欲す。しるべは楔となりて悪鬼羅城形骸せんと求む」」」
長々とした詠唱を始めると私達の体が黄金の光を帯び始める。
隣同士の体が稲妻のような光で結びつけられていき、
「「「聖法広域展開術式:【
私達に帯びていた光が一気に弾けて天に伸びていき、屋敷の頂点の高さまで達する。
その頂点から地面に刺された十字を模した短剣へ、地面に刺された数だけ光の筋が伸びていく。
「綺麗……」
背後でリーシャのそんな声が聞こえた。
はたから見ればそれはもう幻想的な光景だろう。
短剣に結びついた光は薄く波打つように広がっていき、やがて屋敷の敷地全体を包み込んだ。
「これでとりあえずは一安心かと」
「ありがとうございます! 本当に助かりました!」
私は勢いよくラペル達に頭を下げる。
まさかこんな大事になってしまうとは思っていなかった分、とても申し訳ない気持ちになってしまう。
「いいのですよ。災いは突然にして計り知れるものではありません」
「それより、フィリアさんにお怪我がなくてなにより」
あぁ、自分も聖職者だけど、追い詰められた時の聖職者のなんと頼もしいことか。
やはり私の進む道はこれしかないのだ。
と私が感傷に浸っていると丘の下から誰かが登ってくるのを感じた。
「お待たせいたしました!」
「おお! これはセドル!」
「お連れいたしました!」
丘の下からは例のもう一人の聖職者、セドルが現れ、その隣にもう二人の人影があった。
「こちらが強力な助っ人、勇者カインさんとハイビショップのリリアナさんです」
「困っていると聞いてね。微力ながら助太刀させてもらおう」
「私とカインが来たからにはもう大丈夫、安心して」
おお。
と言いたい所なんだけど、正直誰あなたって感じなのは私だけ?
いや、バルトとリーシャも私と同じ顔してるわ。
本当に知らないんだけど、どなた?
「カインさん、リリアナさん。この屋敷の中にネクロノミコンという恐ろしい魔本があります。そしてその魔本に導かれし異形達が屋敷に蠢いているという事です」
「ふふ、任せてくれよ。僕とこの聖剣【ニルヴァーナ】があれば無敵さ」
「私も忘れないで欲しいわね?」
「あっはっは、ごめんごめん!」
……なんだこの人達。
まるで絵に描いたような美男美女、そして絵に描いたようなやりとり。
カイトの腰に帯びているこれまた豪華な意匠の長剣がいかにもな雰囲気を出してはいるけれど……。
リリアナと呼ばれた人のローブと錫杖からは確かに聖なる力を感じる。でもそれだけだ。
リリアナ本人からはごく普通の、処女宮になら誰でも持っている程度の力しか感じられない。
カイトも勇者と呼ばれているが、私からすればフーアーユーシャだし、聖剣(笑)からはちょっと強いくらいの力しか感じない。
「カイトさんとリリアナさんは異国の地にて修練を重ね、神の祝福をうけた方々です。この世の悪鬼羅刹を打ち倒すために諸国を巡っておられるのですよ」
「あーそーなんですねー」
なんだろう。
ラペルさん達の実力が本物だっただけに、ポッと出のモブキャラみたいなオーラしか感じない。
本当にこんな人達で大丈夫か……?
「まずは僕達で屋敷に入る。合図をしたら君達も続いてくれたまえ」
「おいーっす」
もはや返事すら適当になりつつあるが、助っ人に来てくれたのだ。
無下には出来ない。
ぜひとも頑張っていただきたいものだ。
頑張れ勇者(笑)、負けるな勇者(笑)。
私が心よりの声援を送る中、カイトとリリアナは正面の扉を無造作に開け--。
「やあやあ我こそは勇者カイトなり! 貴様ら! 大人しく打ち滅ぼされるがいいー!」
と、大声を上げながら屋敷の中に入って行ってしまった。
はぁ……どこに大声で敵地に凸る奴がいるんだよ……。
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