第44話 怪しい声
月光の怪しい光に照らされながら空を飛翔する私。
あぁ、なんて気持ちがいいのだろう。
外の空気がこんなに美味しいなんて……あぁ神よ、空気の美味しさを教えていただきありがとうございます……。
飛んでる、私飛んでるわ!
父さん母さん! 私は今天使になりました!
「って……うそ……飛んでるっていうか、浮いてる」
目を瞑って飛び出したものの、一向に地面と激突する衝撃が来ないのでうっすらおっかなびっくり目を開いてみた所。
私の体はふよふよと、まるで海を漂うクラゲのようにふわふわと浮かんでバルト達の真上にたどり着いたのだった。
「い、まおろす、からね……!」
「暴れるなよ!」
「は、はいい」
ふわふわ浮いていると言っても視線を下に向ければ数メートルの高さだ。
しかも中庭の暗がりがうぞうぞと蠢いている気さえしてくるからたまったものではない。
いあ、いあ、くとおる。
「は?」
私は今何を考えた?
ふんぐりゅういむぐーるうなふ
いやなんだこれ、ぼんやりして、声が、頭に響く……。
「いっっづうう!」
内腿の刻印が今までにないくらいの激痛を起こし、ぼんやりとした頭が一気に現実に引き戻される。
ローブをたくし上げ、手を入れて触ってみると、かなりの量の出血があった。
こりゃひでぇ。
「あ……フィリア、それ」
「んが! ちっっちちちがいますよ!? これはその聖女のあれとかじゃなくてですね!?」
気付けば私は地面に降り立っており、なんとまぁ、バルトやリーシャ、聖職者の方々の前でローブをまくり上げて股ぐらを触っていたわけで……おんぎゃああああ!
めっちゃくちゃ恥ずかしいいいいいい!
「あの日だったの……? ごめん、気付けなくて、それともここに来てから? そんな状態でよく……」
「あーえっと、そのぉ、ですねええええ」
どうやら周囲の暗さで内腿にあった刻印は見られなかったようだけど、きっとパンツはモロに見られてただろう。
まじむり死にたい。
このままナニカに喰われてこようそうしよう。
私の頭が先ほどとは別の意味でぐらぐらとしている中、気まずそうにしているバルトと聖職者の方々。
「あなたがお一人で異形を押さえ込んでいると聞きましたが……?」
聖職者さんはまるで何も無かったかのように話題を変えてくれた。
うう、ありがたい。
おかげでナニカに食べられずに済みました。
〇
「なんと……本当にここにあのネクロノミコンが……」
「はい。それに、異形のモノ達が屋敷中にある鏡の中から次々に這い出してきてます。屋敷の中のナニカの数は数えられてませんけど……たくさん蠢いています」
私から屋敷内の詳細を聞いた聖職者の方々はみなううん、と唸り、難しい顔になった。
来てくれた聖職者さんは全部で三人。
あとから一人、強力な助っ人を呼んで来てくれるということだ。
助っ人がくるまでそこまで時間の差異もないと言っていた。
「フィリアさん。あなたは一体何者ですか?」
「えっ?」
聖職者の一人ラペルという名の方がそんな事を聞いてきた。
「ネクロノミコンの脅威にたった一人で立ち向かうその気概、なみの精神力ではありませんね」
「あはは……褒められてるの? かな?」
「もちろんです。ネクロノミコンに単独で対峙して無事だったのは約百年前のカーディナルの一人、最近では聖王国の先代王妃であられるルリイ様のお二人だけ。あなたは素晴らしい資質をお持ちだ」
「あーはは……あの、それよりほら、どうしましょう!」
それしかいないの? たった二人だけ?
うわぁ、そりゃだいぶかなりめっちゃめんどくさい事になりそうだ……。
「そうですね。まずは結界を張りましょう。中で蠢いているモノ達を外に出すわけにはいきません。フィリアさんは休んでいてください。準備は我々が」
私が話を変えると、ラペルもそれに同意してくれ、他の聖職者達と手分けして準備を開始した。
「なぁ。結界ってこんな大掛かりだったか?」
慌ただしく準備を進めるラペル達を見ていたバルトが不思議そうに聞いてきた。
きっとバルトは戦闘などの簡易結界しか見たことがないのだろう。
「そうですね。屋敷の中にいるモノあるモノが大きすぎますんで、必然的に結界の規模も準備も大きくなります。お屋敷全体を包むのですから、ね」
「あー確かに、なるほどなぁ」
「でもフィリアは大丈夫? あの日でしょう?」
「大丈夫です! たまにあるんですよ! 何もなくても血が出る時!」
「あぁ、アレね……そうなんだ……大変、なんだね」
リーシャが心配してくれているのは大変喜ばしいことなのだけど、苦し紛れの言い訳を聞いて別のベクトルの心配をし始めてしまったぞぅ。
「フィリア一人で結界は張れないのか?」
「この屋敷全体を包むくらいのなら張れますけど、プラス中のモノ達まで抑えるってのはちょーっち難しいですね」
「そんなもんなのか」
「はい。そんなもんなのですよ」
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