第33話 声の主と私の意思
声の主を追っていくと、突き当たりの部屋から聞こえてくるようだ。
どきどきしながら部屋に入り--。
私はソレを見た!
「なんだ……風かぁ」
どうやら窓の立て付けが悪くなっているらしく、外の風が隙間から入り込んで悲しい声に聞こえていただけのようだ。
よかった、ゴーストさんはいなかった。
錫杖を握りしめていた手の力を抜き、扉をしめる。
「急がなきゃ!」
廊下をぎしぎしと軋ませながら小走りで階下へと向かう。
そして地下室に飛び込み、急いでシートにチェックを入れていく。
やはり地下室も老朽化が進んで至る所にヒビが走っている。
これは修繕工事をしないとちょっと危ないかもしれない。
地下室全体を回り、さて帰ろう、としたのだが、不意に背後に気配を感じて振り向いた。
でも--。
「何もいない、よね。さっきから何なんだろう……」
そして私は気付いた。
振り向いた先の先、一本の亀裂が入った壁の奥にはまだ何かがありそうな空間がある事に気付いた。
さっき調べた時に気付かなかったのは、亀裂のそばにある棚で影になっていたからだ。
さらに言うならば、ずっと感じていた嫌な感じがその空間から滲み出てきているような、そんな感じがしたのだ。
「どうしよう。調べとかないとまずいよね……?」
正直もう帰りたい。
どうしよう。
でも嫌な感じの発生源を知りたい。
依頼書と共に渡された図面にはあんな空間は記載されていない。
気になる。
いや、今日は帰ろう!
お腹も空いた!
明日また来よう! 明るいうちに! そうしよう! ではまた明日!
探究心をぐっと押さえ込んだ私は、一目散に階段を駆け上り、屋敷を飛び出した。
いくら慣れてきたとはいえ、一人でなんでも出来るわけじゃない。
もし私一人で手に負えない事態になったらと考えると、やはり手を出さないでよかったのだと自分自身を納得させる。
バルトとリーシャに相談しよう、そして明日一緒に来てもらおう。
それがいい。
「すいませーーん! のりますーー!」
出発しそうな馬車を大声で呼び止めて慌てて乗り込む。
肩で息をしながらお金を払い、腰をおろして大きく深呼吸。
噴き出る汗をタオルでぬぐい、遠ざかっていくプロヴィオ屋敷をじっと見つめる。
あの屋敷には何かがある、何かは分からないけれど、きっと何かが隠されている。
私はそんな根拠のない確証を抱いた。
冒険者ギルドに帰った私は、とりあえずの進捗を受付のお姉さんに話すことにした。
「地下に謎の空間……? そんな話は今まで聞いた事ないわぁ。あ、でも、あそこの調査をした人は大抵地下にはいたくない、って言うわね。だから見落としてたのかしら?」
「そう、ですか。地下にいたくない理由って聞いてます?」
「うん。何か変な気配を感じる、みたいよ」
「やっぱり……」
「やっぱりって事はフィリアさんも感じたの?」
「はい。私は地下というより屋敷の門の前に立った時から嫌な感じはしていましたけど」
「フィリアさんはビショップだものね、そういう気配に敏感だもんね」
「プロヴィオ屋敷の調査って頻繁に行うんですか?」
「いいえ、大体半年に一度くらいよ。プロヴィオ屋敷の主人が亡くなったのが……八年前だったかしら。それ以来ずっと」
「依頼は国が出してるんですよね」
「そうよぉ?」
「どうして国がやらないのですか?」
「さぁ……そこまでは私も分からないけど、お仕事回してくれてるからこちらとしてはありがたいのよ?」
「そうですよね。すみません」
「いいのいいの。それで明日はバルトさんとリーシャさんも同行するって変更しておくわよ?」
「はい、お願いします。もし変更があったらまたお伝えします」
「りょーかい」
ひらひらと手を振るお姉さんにお辞儀をしてバルトとリーシャを探すが、その姿はない。
仕方ない。バルトは明日捕まえよう。
リーシャの家は同じ地域にあるし、直接家に行って話をつけとこう。
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