第32話 プロヴィオ屋敷
「でっかいなぁ……」
門前に立ち、私は目の前に建つ豪華なお屋敷を見上げる。
地下一階、地上四階建てのこの屋敷は【プロヴィオ屋敷】と呼ばれている。
けど、なぁ。
この屋敷全体からものすごーく嫌な感じがする。
作りが立派だから残してるってのもあるんだろうけど、解体工事が出来ない、とかそんな裏事情もありそうなくらいいやーな感じがする。
「破邪の瞳」
術を発動して屋敷の外観を見てみるが、リーシャ達のような呪いのモヤは見えない。
でも心のざわめきが止まらない。
はて?
なんなのだろう。
「とりあえずお仕事しますか!」
おそらく全盛期の頃は馬車が出入りしていたであろう大きな門をくぐり、庭へ足を踏み入れる。
雑草はひしめき合って咲き乱れ、私の腰くらいまで伸びている。
まぁ私の身長が低いのもあるんだけど。
「わっ!」
雑草に足を取られ、盛大に転んだ。
ずべしゃ! って感じに盛大におでこからいった。
いてぇっす。
少し腫れたおでこをさすりながら立ち上がろうとしたが--。
「っひぃ! 骨!?」
倒れたすぐ目の前には白骨が転がってた。
心臓飛び出るかと思ったよ!
でもよく見ると、その骨は猫か犬のようなものだった。
手を合わせて弔い、さくさくと雑草をかき分けて進んでいく。
カラン、という乾いた音が聞こえたが、きっと風か何かで古くなった建物のかけらが落ちたのだろう。
門とか石造りだったし。
調査内容としては建物内の調度品や、壁、天井、廊下の状態を調べてチェックシートに記入していき、気になる箇所があればマル印をつけてメモ書きをする。
そんなような内容だった。
予め受け取っていた建物の鍵で錠前を開き、中へと入っていく。
うーん、やっぱりどことなく嫌な感じがするなぁ。
でもその原因が分からない。
さっきからずっと何かの気配を感じるけど、ゴーストやレイスといった不死者の類でもなさそう。
さっさと終わらせて、暗くなる前に帰ろう。
でないと馬車も無くなって帰れなくなる。
「失礼しまーす」
わざと声を上げ、順繰りに部屋や扉などを調べていく。
もし仮に誰か、そう、盗賊とかの方々が潜んでいたら怖いし、鉢合わせするのも嫌なので私が来てますよ、調査ですよ、とアピールしているのだ。
そうすれば声を聞いた盗賊の方々は「やっべ、隠れろ!」となってくれるはずだ。
「調査でーす。怪しい者ではありませんよー」
よー、よー、ょー……。
私のか細い声が屋敷の中に消えていく。
動く気配はない。
同じような事を繰り返し、数時間かけて四階部分まで到達。
あとは地下を調べれば終わり。
窓から見える太陽は下降を始めており、急がねばならないと心の焦りを煽ってくる。
地上部分は年数が経っているだけあってやはり老朽化が進んでいた。
壁紙はかさかさになり、ヒビが入っている壁も多かった。
今降りている階段だってぎしぎしと軋み、底が抜けそうな勢い。
そろりそろりと踏み抜かないように降りていたその時、
『ヒョオオー……』
「ぴゃっ!? な! ななななに! なんの声!?」
丁度二階部分を過ぎたあたりで悲しそうな声が聞こえた。
明らかに人ではない。
なんせ二階には誰もいないのだし、私が見て回った時も人の姿はなかった。
「なによぉ……なんなのよぉ……帰らせてよぅ……」
もしこれでチェックミスなどが発覚したらお賃金がもらえないかもしれないのだ。
判断基準がどこにあるのかは疑問だけど、依頼された以上はしっかりやらなきゃ!
泣きそうになりながら声がした方に歩いていく。
聖職者なんだから我慢しろ、という声が聞こえてきそうだけれど、あたしゃ人間だよぅ? 怖いものは怖いのサ。
『ォォォ……』
「凄い悲しそうな声……ゴーストかな……」
もし流れのゴーストが迷い込んできたのなら、しっかり浄化して輪廻の輪に入れてあげなければならない。
悪さをしないゴーストであれば何の問題もないのだけどな。
たまにいるのだ。
自分が死んだことに気付かずに彷徨い続けるゴーストが。
そいうゴースト達はきちんと導いてあげないと、やがて周囲にある悪意に侵食されていってしまい、悪意あるゴースト、悪霊になって生きている人々を困らせる存在になってしまう。
悪霊になってしまえば成仏させるのは難しくなり、消滅という手段をとるしかなくなる。
生まれ変わるチャンスも無くなってしまうのだ。
それはとても悲しい事だ。
「何事も無ければいいんだけどねぇ……くわばらくわばら」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます