第28話 夢と目標

「ねぇ、ちょっとした興味から聞きたいんだけど……安い治療院があればみんな嬉しい?」


 やいのやいのと冒険談義に花を咲かせている三人に、空気を読まずにそんな事を言った。

 治療院の話は五分ほど前に終わっている。


 しかたないじゃない。

 ずっと考えてたんだもん。


「そりゃ……嬉しいさ」


「そうだよぉ。でもどこも同じような値段だからねぇ。安く治療する、なんて奇特な人はいないよ」


「そう、なの」


「どしたのフィリア。難しい顔して珍しい」


 珍しいとか失礼だな。

 そうかもしれないけど。


「決めた」


「「「何を?」」」


「私その治療院やる」


「「「はい?」」」


「今はまだ無理だけど。お金返して、いっぱいダンジョン潜って、いっぱい依頼クリアして、いっぱいお金稼いで、それで低級者、低所得者向けの治療院建てる」


 まだ塩の私が抜けないので、淡々と言う感じになってしまったけど、私は本気だ。

 下級市街に住んで分かった事だけど、あそこには治療院がない。


 中級市街まで行かなければ治療を受ける事は出来ないのだ。

 無ければ作ればいい。


 私にはその実力がある。

 あるはずだ。

 内腿にある聖女の刻印は消えていないし、保有魔力量だって処女宮ナンバーワンだった。


 ていうか消えないよね?

 ちょっと不安になってきたけど、消えないでいておくれ。

 

「……本気で言ってんのか」


「本気よ。本気って書いて」


「マジなのね」


「そういう事」


「えぇーすごいなぁ! 夢があるねぇ! きっと人気出ると思うなぁ。大変そうだね」


「当然よ。でも夢じゃない、私はやる」


「頑張ってねぇ、応援してるよぉ!」


「いい心構えね」


 本当はありがとうございますって言いたい気持ちですザックスさん。

 笑うたびに頬肉がタプタプ揺れていて、見ているとちょっと面白い。


 こんなに朗らかな人なのに、戦闘になるとまるで人が変わったように力強くなる。

 皇太子がこんな感じだったら、もしかしたら私も冷淡な態度を取らなくて済んだのかもしれない。


 けどそしたら今の私はここにいないわけで。

 何とも変な感じだ。


「フィリアが治療院開くなら、私も頑張ってお手伝いしようかなー」


「おいリーシャ! さっきと言ってる事が逆じゃねぇか!」


「あはは! そりゃー命の恩人がやるんだったら私も手伝わないとバチがあたるってもんよ?」


「そうかもしれねーけど」


「だいじょぶだって! まだまだ先の話だしさ! それに冒険者だって続けたいから半々でやるかなー? どう? フィリア」


「リーシャさんが手伝ってくれるならプリシラさんも呼ばないとですね」


「確かにー! よし、三人で盛り上げていこう!」


「はい。その時が来たらお願いします」


 と言う事で私に目標が出来た。

 目標を作るのは大事だ。


 その目標に向けてどうすればいいかの工程が組める。

 もしかしたらこの先また別の目標が出来るかもしれないけど、この目標は揺るがない信念のようなものとして掲げて生きよう。


 処女宮では聖女になりたくないという確固たる目標があった。

 そのせいでちょっとめんどくさい事になったけど、それは時間が解決してくれるはずだ。


 この時、聖女にはならないけど、みんなに救いの手を差し伸べる聖職者でありたいと、私はそう思った。

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