第29話 安請け合い

 低所得者向けの治療院、私の考えに賛同してくれる人がどれほどいるか分からないけど……。

 やってみる価値はあるし、やってみたい。


 きっと色々な障害があるだろうけどね。

 とりあえずはギルドに前借りしてるお金を返さないと……。

 あといくら残ってたっけな……。


「そうと決まればじゃんじゃん誘わせてもらうぜ」


「いいわよ」


「僕もお願いしちゃおうかなぁ」


「調子に乗らないで」


「辛辣だぁ! でも何かドキドキするなぁ!」


「気持ち悪いからやめてくれる?」


「ご、ごめんよぅ!」


「でもフィリアのそのキャラ、一定層の特殊な人達には凄い需要ありそうだね」


「キャラとか言わないでくれる!? 作ってるわけじゃないの! それに一定層ってどこの層なの!?」


「ほら、よく椅子になりなさい、みたいな苛烈な事言う人いるでしょう? でもそういった苛烈なことを言われると興奮しちゃう人達の層?」


「えええ、そんな人いるの……? 怖いよ」


「いるよぉ。僕は違うけど」


 さっきドキドキするとか言うてましたがなザックスはん。

 でもこんな私、塩フィリアでも需要があるのか……。


 いやでも私はそんな靴を舐めなさい、とか跪きなさい、なんて事は決して言えないし言いたくないよ。

 お前にも言わせないかんな! 塩フィリア!


 私は清廉潔白に生きたいのだ。

 神はいつも見ておられるのだから。

 

「ふう……お腹いっぱい」


 妊婦のように膨れたお腹をさすりながら口直しのハーブティーを嗜む。

 ちょっと食べ過ぎたかもしれない。


「そろそろ帰るか?」


「そうだねぇ、僕はもう少し飲み歩いてこうかなぁ」


「お、いいねぇ。付き合うぜ」


「よぉし、いいお店知ってるんだ」


「え! 私も行きたいな!」


「リーシャ、俺とザックスは男同士で話がある。今回は連れて行けない」


「そっかぁ、残念」


「悪いな」


 ふぅん。

 男同士の話……なんだろう、武器とか戦闘スキルとかの話かな?

 ちょっと気になるけど、私は男同士の友情に首を突っ込むようなはしたない女ではないのだ。


 だから私はリーシャとデザートでも食べに行こうかな。

 この近くに行ってみたかったお店があるんだよね。

 

「ね、リーシャ。デザート食べにいこ」


「いいね! スィーツスィーツ!」


 と男と女で別の行き先を決め、お会計を済ませて外に出た瞬間。


「あ、あんたヒーラーか!?」


 と顔を青くした男性がふらふらになりながら声をかけてきた。

 今にも倒れそうだけどどうしたのだろうか。


「そうですけど……大丈夫ですか?」


「よ、よかった。実は俺ともう一人、治療してほしい奴がいるんだが……」


「かまいませんよ!」


「すまねぇ」


「それで、一体どうしたんですか!?」


 男は口を手で押さえて今にも吐きそうなほどに弱っている。

 これは毒か何かだろうか、急がねば!


「……飲み過ぎて気持ち悪くて」


 ずっこけた。

 いやほんと、勢いよく駆け出そうとした瞬間に襟首を掴まれたような感じ。

 なんだ、飲み過ぎただけか……。


 心配しちゃったよ。

 リーシャは「えぇー」みたいな顔してるけどいいじゃないの。

 誰でも楽しくてついつい、って時はあるだろうしね。


「良かった。毒じゃなかったんですね。いきますよ?」


「た、たのむ……うっぷ」


「あああ待って飲み込んで下さい! 出さないで! リカバリー」


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