第17話 お金なんていらないのに
「フィリアさん、本当にありがとうございました」
「いえいえいえいえ! 困った時は助け合いですよ!」
もうベッドから起き上がれるようになったプリシラがおぼつかないながらもにっこりと笑う。
リーシャも可愛いと思ったけど、プリシラはどちらかといえば美人な部類に入る。
今でこそ髪の毛や肌に艶がないが、白い肌に腰まで伸ばした金髪がよく映えており、清楚そうな切れ長の瞳は薄幸そうだがどこか妖艶な雰囲気を醸し出している。
ウラヤマシイ。
そしてなによりリーシャもプリシラもボンでキュッでボンな素敵美ボディ。
ネタマシイ。
無意識に自分の薄い胸板に手をやり、ぐぬぬと歯がみをする。
お母さんはナイスバディだったのにどうして私はこうなった。
ニクイニクイ……肉肉……肉がウラヤマシイ……。
おっといけない。
ビショップたる、聖職者たるこの私が悪意を発してはならないのだ。
女の恨みはオソロシイノダヨ。
恨み、妬み、嫉み、ひがみ、やっかみ、いやみ……あとなんだっけ? 悲しみ? ちがうつらみだ。
人生の七味とはうまく言ったもので。
こういった感情の他にも色々あるけど、そういう負の感情が集まりやすい場所は結構ある。
学校、職場、治療院、墓地、戦場、意外なところで産院とかね。
淀んだ負の感情は悪意と混ざり、不純物を取り除き、純粋な負となり悪となり、やがて害へと昇華していく。
害の典型例はゴーストやゾンビなどの不死者達だろう。
聖職者の仇的、滅すべき存在。
だがそれを生み出すのは同じ人間という歪な理。
そしてその負や悪の力を利用して他の無関係な人を無作為に苦しめる呪い。
人は往々にして愚か、誰の言葉だったか忘れたけどそれはあながち間違いではないと私は思う。
聖職者には清廉潔白な人が多いが、それでも聖職者の中には悪意や負の感情に飲まれた汚れた人達もいるのが事実だ。
つい先日どこかの国で聖職者達の不正や性的被害があったと発表があった。
そういう事からして、人はすべからく正しくある事は難しい。
それだからこそ人は人足りえるのだ。
なんちゃって。
柄にもない事を言ってしまった。
「そうだよね? フィリアさん」
「え!? あっはい! え?」
リーシャから唐突に話を振られた。
やばい何も聞いてなかった!
なんの話!?
「私達がヒーラー職に向いてるって、本当ですか?」
「あ、あぁ、その話。はい。本当ですよ」
「リーシャもプリシラさんも可愛いからきっと人気でると思うぜ?」
「「えっ!?」」
バルトの何気ない一言に顔を赤くする二人。
あーわかっちゃった私。
バルトはやっぱり天性の女たらしだ。
私に可愛いって言ったのもそういう感じで何も考えずに言ったんだよねーわかってたわかってた。
……ケッ!
「ん? どうしたんだフィリア。舌でも噛んだか?」
「ちがいますうー! べーっだ!」
「ね、フィリアさん。私達に法術を教えてくれない?」
「ええっ!? 私がですか!?」
「えぇそうね。リフィアさんみたいな凄腕ビショップが先生なら安心ね!」
「いやちょっ! 無理ですよ! 私なんて人に教えるほどの熟練ではないですから!」
その後もなんだかんだと食い下がる二人に負けてしまい、結局週に二回、勉強会を開くことになってしまった。
今すぐ辞めてしまうと食い扶持がなくなるから、と言って基礎をしっかり叩き込んで欲しいのだとか。
「よろしくね!」
「頑張りますね!」
「は、はいい」
冒険者と家庭教師、二足の草鞋を履いてしまった私の未来は一体どうなっちゃうの~?
と、ふざけるのはほどほどにして、私に出来る事といえば、今まで積み重ねてきた事をそっくりそのまま伝える事しかない。
それでも出来る限りは手助けしていきたいなとは思っている。
「それで、お金のことなんだけど」
「え?」
「ほら、先生をやってもらうわけだし。きちんとそういう所も話し合わないと」
「そうね。教えてもらうんだもの」
「なんでお金もらう流れになってるんですか?」
「家庭教師ったら相場は一回につき銀貨二、三枚くらいじゃあないか?」
「いやだから」
「もっと頑張って稼がないと!」
「頑張ろうねリーシャ!」
「あの! お金なんていりません!」
割り込もうとしても私の言葉が届いていないようなので大声で異議を申し立てる。
驚いた顔でこっちをみる三人。
「フィリアさん。私達は無料で呪いを解いてもらいました。なのにさらにタダで教えを乞おうなんて思ってないです」
「そうじゃなくて……」
「フィリアよう。お前がどういう生き方してきたかは知らないが、もう少しこう、なんつーのかな。浅ましく、とも違うが貰えるものはしっかり貰っておいた方がいいと思うぞ」
「あう……わかりました……」
なんだか責められているような感じがして思わず頷いてしまう。
お金をとれるほどの内容じゃないのに……。
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