第16話 才能の行方

「……お前何してんだ」


 おでこを握り拳で殴っている私をバルトが変な目で見ている。


「いえ別にお気になさらず」


 片目を開けた塩フィリアを再び眠らせるべく、さらに自分のおでこを膝にぶつける。

 おでこも膝もジンジンするけど大丈夫。

 いたくない。


「それよりも、プリシラさんは冒険者ですか?」


「ううん。プリシラはお貴族様のメイドをしているの。昔から仲良しだったから今でも一緒に住んでるだけ」


「そうですか。ではプリシラさんはメイドを辞める事をお勧めしますよ」


「どうして?」


「まず今回の一件で分かりましたけど、お二人は呪いに対して抵抗を見せていました。無自覚でしょうけどね」


「抵抗……かぁ」


「はい」


 追加の茶菓子をもぐつきながら、私はずびしとリーシャのお胸を指差す。


「恐らくはメイガスとして鍛錬を積んだリーシャさんの方が抵抗力が強かったのでしょうね。普通あんな呪いの中で生活してたら四日どころか一日で発狂して死にますよ」


「うへぇ……こわ」


 バルトは自分の身に置き換えてみたのか、心底怖そうな顔をしてる。


「つまり、あなた方二人に天から与えられた才能はヒーラー職、プリースト、ビショップ、ドルイドなど法力を扱うご職業です」


「えっ……そうなの?」


「へぇーいいじゃねぇか。今はヒーラー不足だからな。才能あんならさくっと上に行けるんじゃねぇの?」


「私が……ヒーラー」


 お盆をまたきゅっと抱きしめて手元を見るリーシャ。

 いつまでお盆もってるのかなこの子。


「はい。なのでプリシラさんはメイドを、リーシャさんはメイガスをさっさとやめて法術の道に進みましょう! いざ神の身元へ!」


「身元に逝ったら死んでるわあほう」


「あれぺろ」


「ふざけてないでちゃんと話してやれよ」


「私は至って大真面目ですよ? 晩ご飯に海鮮を食べるかお肉を食べるか悩むくらいには大真面目です」


「あぁ、はいはい」


「なんですかその適当なあしらい方は! ちなみに今日の晩ご飯は海鮮にすると決まっています、ごちそうさまですバルトさん」


「海鮮食うのはいいがしれっと俺にたかるな。俺だってあんま余裕ないんだから」


「ええーー! バルトさんさっき報酬もらってたじゃないですかあ!」


「それとこれとは別なの!」


 やいのやいのとしているが、私は至って本当に冗談抜きで真面目だ。

 あいにく素がこういうキャラだから大体不真面目にみられがちだけど。

 見られがちだけど!

 

「あれ? リーシャさん?」


 気付けばリーシャはぽろぽろと涙を流しており、視線はどこか違う世界を見ていた。


「あはは、ごめんね。私才能無いってずっと思ってて自信持てなかったんだけど、フィリアさんがそこまで淡々と言ってくれると逆に自信出てきた」


「それはよかったです!」


 そして最後の茶菓子をお口にぽい。

 ごちそうさまでした。


「リーシャ、みなさん」


「プリシラ! 平気なの!?」


 背後の扉が開き、おぼつかない足取りでプリシラが姿を見せた。

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