第13話 特異呪物

 案内された部屋には少女が苦しそうな顔をしてベッドに横たわていた。

 ベッドに横たわる少女を見ながら思う――この子も抵抗力が強いのだろうな、リーシャのように。

 普通ならとっくに呪い殺されていておかしくない濃度の中で、少女がゆっくりと体を起こす。


「あら……お客さん……?」

「プリシラ! 起きなくていいよ! 寝てていいから!」

「ん……ごめんねリーシャ……お客さんも、寝たままでごめんなさい」

「いいんです。それより――ポジティブヒール」

「う……ふぅ……」


 プリシラと呼ばれた女性の手を取り、気力回復の術を施す。

 少しだけ楽そうになったプリシラの目を見つめながら言葉を紡ぐ。


「私はフィリア、ビショップです。プリシラさんは呪われてます。それもかなり強力な呪いに。今から私がそれを祓います。気をしっかり持っていてください」

「ビショップ、さんなのね……お願いします」

「大丈夫だよプリシラ。きっとよくなる」

「うん、ありがとうリーシャ」

「では始めます」


 私は一度深呼吸をし、呪いの発生源を探す。

 体からは何の反応もない。

 ベッド、違う。


 クローゼット、違う。

 洋服、違う。

 どれだ。


 呪いの根源であればかなり濃い悪意が出ているはず。

 そう思いながら室内をぐるりと見廻し――。

 見つけた。


「あの卓上鏡、露天商で買ったものですか?」

「そう、です」

「あれが原因です」


 部屋の端に置かれた座卓。

 元気だった頃はきっとここでメイクをしたり、勉強をしたり、本を読んだりしていたのだろう。


 座卓の横にある本棚やメイク箱がそれを物語っている。

 しかし今は座卓の上に置かれた卓上鏡から漏れ出る悪意で、周りの空間がドス黒く塗り潰されている。


 ここまでくるともはや瘴気と言ってもいいくらいだ。

 つかつかと鏡に近付きその前に座り、術式の印を結を結んでいく。


「利光万全にして封鬼開闢ふうきかいびゃく、阻にして滅、回にして天、我理と地脈に基づき災いを断ち切らんと欲す。展開術式:邪理滅法じゃりめっぽう


 長ったらしい力ある言葉を紡ぎ、術を展開させる。

 候補者達の宮殿では聖女のための聖法授業というものがあった。

 授業はとても楽しかったし、成績はいつもトップだった。


 何しろ友達作りも拒否ってたからね。

 周りの候補者達がきゃっきゃうふふしている間にも、私はひたすらに勉強し己を磨いた。

 聖女になりたくないのになぜ聖女の技を磨くのか?


 そんなものは決まってる。

 宮殿で教わるものは聖女たらしめる御技の数々、それがタダで身に付くのだ。

 ないがしろにしてはもったいないと思わない?


 少なくとも貧乏性の私はもったいないと思った。

 それに皇太子の嫁にならないのなら、遅かれ早かれ宮殿からは出て行ったのだ。

 セカンドキャリアの事もしっかりと考えた上でのお勉強だ。


 得して損することは無し。

 私はケチでしっかりものなのだ。

 宮殿内では孤軍奮闘、頂の花、孤高の狼、塩対応を貫いていた私は常にそんな感じだった。

 ま、おかげでこうやってのびのびやってるんだけどさ。



======================================


ご覧頂きありがとうございます!

執筆のモチベーションにも繋がるので是非とも感想コメント、感想レビューなどいただけると嬉しいです。

続きが気になる! 早く読ませろ! と思ってもらえたら☆評価、作品のフォロー、作者のフォローも願いします!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る