第12話 呪いリターンズ


「お友達も呪われてるですって?」

「うん。四日前から急に体調を崩して……今は歩けないほど衰弱しているの」

「行きましょう! 絶対呪いです!」

「ありがとうフィリアさん」

「おいおいマジか? 治療院に……」

「行きました。でも、原因が分からないと一点張りで……それにそう何度も行けるようなお金もないですし」

「そうか……」

「ここで話しているよりそのお友達の所へ急ぎましょう! 歩けないほどに衰弱しているのなら本当に危険です!」


 リーシャさんに連れて来られた場所、それは下級市民街の一角だった。


「ここで友達とシェアハウスしてるの」

「お前、こんな所に住んでたのか」

「……うん」


 リーシャも住んでいるという家は築数十年は経過しているであろう古めかしい木造の一軒家だった。

 壁には蔓がびっしりと絡み付いて古さを際立たせている。

 そしてなにより――。

 

「破邪の瞳」


 聖なる力を宿した瞳には、家全体からドス黒い悪意のもやもやが吹き出し、まとわりついているのが見えた。

 非常に強力な呪いの気配が家全体から感じられる。


「うわちゃー……こりゃひどいですね」

「そんなにひどい?」

「はい。そんなにひどいです」

「確かに嫌な感じがするというか、ここだけ気温が違うな」


 家の玄関口に立ち身震いするバルトに、私はずびし、と指を立てる。


「一般的に、呪いは対象者にしか影響を与えません。ですがより強力な呪物になればなるほど周囲に与える影響は大きくなります。気温の低下、精神の磨耗、倦怠感、発熱、嘔吐、下痢、食あたりなどなどです」

「食あたりは関係なさそうだけどな?」

「まぁまぁ聞いてください。このまま室内に入るとバルトさんでも恐らく影響を受けますのでちょっと準備を--かの者に悪意と立ち向かう純然たる勇気を! ブレイブハート」

「お、おお。なんだか何も怖くないって気がしてきたぞ!」

「バルトさんのやる気スイッチを押しましたので、呪いの影響はないはずです。というより」


 もりもりの筋肉を盛り上がらせて心も盛り上がっているバルトを横目に、心配そうに私を見るリーシャへ視線を移す。


「な、なに……?」

「リーシャさん、この家に住まわれてるんですよね」

「うん」

「……よく平気でしたね」

「平気じゃないよ。でもその原因はさっきフィリアさんが--」

「違います。呪いを受けている体でさらに強力な呪いの中にいて平気でしたね、と言っているんです」

「あ……そういえば……」

「まぁいいです。今平気ですか?」

「ちょっと目眩と吐き気がある、かな」

「わかりました。ブレイブハート」

「ありがとう」


 バルトと同じ術をリーシャにも施し、いざ室内へ。

 古びた引き戸をガラガラと開けた途端、嫌な空気がぶわりと肌を撫でる。

 リーシャに案内された部屋に入ると、さらに嫌な感じが増した。


 濃密な呪いの悪意が身体中を這い回って気持ち悪い。

 こんな部屋でよく生きているものだ。

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