第9話 あ~しに内緒で他の女とヤッたっしょ
程なくして、アゲハからのラインが来た。
『ごめ~ん! 今終わった! すぐ行くね!』
『うん。男子トイレで待ってるね』
そう返し。
「静さん。アゲハさん、これから来るって」
「……そう」
余韻に浸っているのか、裸の静は便座から動こうともしない。
「そう、じゃなくて! 早く着替えないとアゲハさん来ちゃうよ!」
「なによ。セックスが終わったらさっさと出て行けって? 昇太も案外冷たいのね……」
「そ、そういうわけじゃないけど……。アゲハさんに見つかったら静さんも困るでしょ!?」
「うふふ、ただの冗談よ。セックスではいつも主導権を握られちゃうから、ちょっと意地悪したくなっただけ。昇太君がそんな人じゃないって事くらい私だってわかってるわよ」
気怠げな笑みを浮かべると、静は個室に設けられた荷物置きの棚に手を伸ばした。
そこに置かれた自分の鞄を手に取ると、クリアファイルの中から一枚のA4用紙を取り出し昇太に差し出す。
「これをこの個室のドアに貼って頂戴」
「『故障中』って……。まさか静さん、そこにいるつもり!?」
「当然でしょ。昇太君がアゲハちゃんとセックスする様を隣で聞き届けるまでが間接セックスじゃない」
「さ、流石にそれはダメだよ!?」
「どうしてよ」
静が顔をしかめる。
「どうしてって、分かるでしょ!? アゲハさんに内緒でそんな事したら、覗きと一緒だよ! 絶対ダメ! ライン超えだよ!」
「じゃあ、アゲハちゃんのセフレを脅してセックスするのはいいって言うの?」
冷めた目をして静は言う。
突然の事に昇太は言葉に詰まった。
「そ、それは……」
「昇太君。私はね、とっくにラインを超えているの。親友面してアゲハちゃんの事つけ回して、こっそり飲み終わったペットボトルを回収してベロベロしてるようなキモイ女なのよ。挙句の果てに、勝手に嫉妬して昇太君にまで手を出して脅してる。最低のキチガイ女だわ」
「……じ、自覚あったんだ……」
「しょうがないでしょ!? それが私なんだから!? どうせ私なんかその内本性バレして見捨てられちゃうのよ! 今のうちに楽しい思い出残したっていいじゃない!」
「や、自棄にならないでよ!? アゲハさんなら静さんの事だってきっと受け入れてくれるよ!」
「本当にそう思う?」
真剣な顔で見つめられ、昇太は思わず視線を逸らした。
「ほら! 思ってないじゃない!?」
「だってぇ!?」
流石にこれは無理だろう。
普通に考えてドン引きである。
「とにかく、出てってよ! 静さんの歪んだ性癖に僕を巻き込まないで!?」
「嫌よ! 昇太君は私からアゲハちゃんを寝取ったんだから! バレたら一緒に地獄に落ちなさい!」
「そんな滅茶苦茶な!?」
「ほら、早くしないとアゲハちゃんが来ちゃうわよ? 言っておくけど、私はテコでも動かないから。っていうか、腰が抜けて動けないし。これに関しては昇太君の過失だと思うのだけど?」
「だ、だってそれは静さんがエッチ過ぎるから……」
思い出し、相棒が硬くなる。
前を押さえる昇太を見て、静は優しい笑みを浮かべた。
「昇太君のそういう所、嫌いじゃないわよ。陳腐な表現になるのだけど、女の悦びって奴を感じるわね」
「それは僕も同じだけど……」
むしろこちらこそという感じだ。
歪みまくった理由とは言え、こんな美少女が冴えないチビの自分なんかとエッチして気持ちよさそうに喜んでくれるのだ。
万年いじめられっ子で自尊心を根元からへし折られた昇太としては、かなり嬉しい事である。
大袈裟かもしれないが、こんな僕でも生きている価値はあるのかなぁ、なんて思ってしまう。
なんにしろ、静を退室させる事は無理らしい。
仕方なく、言われた通り静のいる個室の扉に故障中の貼り紙を貼る。
程なくして、息を切らせたアゲハが男子トイレに駆け込んできた。
「はぁ、はぁ、はぁ。おまたせー」
口元で人差し指を立て、押し殺した声でアゲハが言う。
健康的に日焼けした肌は薄っすらと汗に濡れ、甘酸っぱい汗の匂いがムンムンと熱を帯びたオーラのように香ってきた。
そこに含まれる高濃度のフェロモンに、昇太の喉はゴクリと鳴り、頭はクラクラ、相棒は背筋を伸ばして起立した。
「……う、うん」
「どったの? 昇太君?」
赤くなって俯く昇太に不思議そうに尋ねる。
「……えっと、その。目のやり場に困るって言うか」
「別に普通の体操着じゃない?」
アゲハが自分の身体を見下ろす。
確かに体操着だが、普通ではない。
愛聖では絶滅したかに思われた紺ブルマを今も採用していた。
これには女性解放運動や愛聖の歴史が関わるのだが、誰も興味がないと思うので割愛する。
ともあれ、アゲハは一見すると派手目なギャルである。
髪は金髪ツインテール、肌は健康的な小麦色、胸は大きくお尻も大きい。太っている印象は全然ないのだが、パンと張った肌は肉感的で、抱き心地も最高だ。
そんな彼女が紺ブルマである。
ミスマッチさが奇妙な背徳感を生み、かなりエロ可愛い。
ムチッとした太ももを見ているだけで、昇太の理性は焼き切れそうだ。
白い半袖の上着も汗で薄っすら透けていて、ブラの水色が滲んでいる。
そこに芳醇なワインのようなこの体臭だ。
昇太の相棒は直前まで静と戯れていたにも関わらず、初めてみたいに猛っている。
「……そうだけど。授業中はちゃんと見れないし……。改めて見るとすっごく可愛いって言うか……。それに、良い匂いもするし……」
昇太は学園にたった一人の男子である。
不可避的に、体育は女子に混ざって行うことになる。
体操服姿のお嬢様達に混じっての体育だ。
夢のような状況に思えるが、実際は地獄である。
体育の授業は相棒との戦いだ。
元女子校だからか、愛聖のお嬢様達は色々とガバッている。
授業中にぱっかり股を開いて胡坐をかいたり、昇太の目の前でお尻に食い込んだブルマを直したり、かと思えば堂々とはみパンしていたり。
そうでなくとも眩しい四肢を露にして、豊満な胸を惜しげもなく揺らしている。
息をすれば濃厚なフェロモンのカクテル攻撃だ。
これで勃起するなという方が無理がある。
一応昇太も体育のある日は早起きをして念入りに鎮魂の儀式(隠語)を行ったりするのだが、効果はあまりない。
極力女子を視界に入れないようにし、相棒が萎えるような事を想像して頑張ってはいるが、ぶっちゃけ女子達にはバレバレである。
なんなら昇太の知らない所で相棒の話で盛り上がり、昇太を勃起させたら勝ちゲームを行ったりもしている。
ともあれ、昇太の発言にアゲハは顔を真っ赤にした。
「うぞ!? あ~し、そんな臭ってる!? てか、冷静に考えたら超汗だくだし!? 絶対臭いじゃん!?」
腋の汗染みを隠すようにアゲハが前を抱く。
涙目になって恥じらう姿は相棒が張り詰めて痛くなる程可愛らしい。
確かに他の子と比べると、アゲハは体臭が濃い方かもしれない。
だが、嫌な感じは全くしない。
むしろ良い。
芳香剤にして部屋に置きたいくらいである。
「そんな事ないよ! 全然臭くない! むしろ良い匂いだから! すっごく好きな匂い!」
「それもそれでなんかハズイんだけど……」
「ご、ごめんなさい……。でも、本当に臭くないんだよ?」
「そんなのわかんないじゃん!? 昇太君が変態なだけかもしれないし……」
うぅ……と、アゲハが唇を尖らせる。
「……それは否定できないけど。でも、男の子なら誰が嗅いでも良い匂いだって言うと思うよ……」
アゲハを悲しませたくなくて、昇太は必死に弁解した。
実際良い匂いなのだ。
それだけは誤解して欲しくない。
これを悪臭なんて言う奴がいたら、鼻が腐っているに違いない。
「昇太君以外の男子に嗅がせ気ないから! 変な事言わないでよね!」
「そうなの?」
「そうだよ!? 言っとくけど、あ~しだって男だったら誰でもいいわけじゃないんだからね? 昇太君だからエッチしてるの! そこんとこ勘違いしないように!」
「……ぅ、うん」
鼻先で指を立てられ、昇太はコクコクと頷く。
なんだか無性に嬉しくて泣きそうだ。
「う~。本当はシャワー浴びてからにしたいけど、流石にそんな時間ないし……。このままでもいい?」
「もちろん! アゲハさんの汗だったらむしろ大歓迎だよ!」
「だーかーらー! そういうのいいってば!? 嬉しいけど、恥ずかしいの!?」
「ご、ごめんなさい……」
というわけで、早速二人でエッチする事になるのだが。
「………………む?」
裸になった昇太の頭の匂いを嗅いで、アゲハが眉を寄せる。
「ど、どうしたの?」
ドキッとする昇太を他所に、アゲハは警察犬みたいにクンクンと昇太の全身を嗅ぎ回った。
最後に相棒の匂いを嗅ぎ終えると、ジト目になって昇太を見上げる。
「………………昇太君、あ~しに内緒で静とヤッたっしょ」
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