第8話 私と先にヤリましょう
「ふぅん、これが男子トイレ。なんだか変な感じね」
辺りを見回すと、静はポツリと呟いた。
言葉通りに、そこは最近増築されたばかりの男子トイレの一つである。
と言っても、利用者は昇太以外にいないのだが。
愛聖学園では生徒だけでなく、職員も全員女性ばかりだ。
アゲハ達から聞いた話では、過去に男性職員が問題を起こしたからだと噂されている。
校内にカメラを仕掛けて盗撮行為を行っていたとか。
女生徒の衣類や私物をブルセラショップに売りさばいていたとか。
男性職員が女生徒に手を出して妊娠させたとか。
ハーレム状態を作った挙句、その中の一人に刺殺されたとか。
真偽の程は定かではないが、現状を考えるとあり得ないとも言い切れない昇太である。
ともあれ。
「……ねぇ、黒森さん。本当にここでするの?」
ソワソワしながら昇太が尋ねる。
静とこっそり男子トイレに入った理由は他でもない。
エッチをする為である。
「なによ。文句あるの?」
腕組みをした静がムッとした表情で昇太を睨みつける。
そりゃあるよ! とは言えなかった。
昇太はヤリたい盛りの男の子♂で、静はおっぱいの大きな黒髪の美少女♀である。
感度だって抜群で、エッチの際は別人のように乱れまくり、あられもない声を上げて潮を噴きまくる。
なんとも愛し甲斐のある相手なのだ。
終わった後に恥ずかしそうに負け惜しみを並べる姿も実に良い。
アゲハとは別の意味で、静とのエッチは最高だった。
だから、彼女とエッチする事に文句があるわけではない。
とは言え、昇太は見た目通りの小市民だ。
校内の男子トイレでエッチするなんて恐れ多くて、ついつい形だけの抵抗を行ってしまう。
「……だってここ、男子トイレだよ?」
「仕方ないでしょ。アゲハちゃんの指定なんだから」
「……っていうか、そもそもアゲハちゃんとエッチする前にするのもどうかと思うんだけど……」
男子トイレでエッチしようと言い出したのはアゲハだった。
いつも体育倉庫では怪しまれるからだとか。
小市民の昇太だから、エッチのお誘いは基本的に相手からである。
そして昇太は静からアゲハを寝取った(?)罪で脅されているので、アゲハとエッチする際は静に一声かけ、間接セックスをする約束になっている。
律義に守る義理など勿論ないが、アゲハに対しては異常に鼻の利く静である。
下手に誤魔化してバレたら後が怖いし、正直に言えば静とのエッチを嫌がる理由もない。
アゲハには申し訳ないと思いつつ、脅されているんだから仕方ないと言い訳をして、ズルズルドロドロエッチしている。
それでいつも通り静に一報を入れたのだが、その直後にアゲハから「ごめ~ん! 友達に部活の助っ人頼まれちゃった! 一時間だけ待ってくれない? その分のお詫びはするからさ!」
と連絡が来た。
アゲハは顔の広い人気者のようで、クラスや学年を超えて広い交友関係を持っている。
ギャルキャラの割に成績優秀、スポーツも万能のようで、こんな風に助っ人を頼まれる事も珍しくないとか。
そんな子と隠れてエッチしてるなんて恐れ多いと思いつつ、アゲハとエッチ出来るなら一時間待つくらいなんて事はない昇太である。
それについて静に連絡したら「あっそう。じゃあ、先に私とやりましょう」と言われたのだった。
「どうってなにがよ」
ムスッとして静が言い返す。
昇太と二人っきりの時は大体いつもこんな感じだ。
教室では凛としたお澄まし顔をしているのだが。
照れ隠しなんだろうなぁ、と昇太は思っている。
実際その通りである。
「……だって、黒森さんの目的は――」
「ねぇ。黒森さんはやめてって言ってるでしょ」
ムッとした表情で静が割って入る。
「アゲハちゃんの事は名前で呼んでるんだから、私の事も名前で呼びなさいよ」
「……ぅ、ぅん」
アゲハと違い、静はちょっと怖いので苗字呼びだったのだが。
本人がそう言うのなら仕方ない。
「……静さんの目的はアゲハさんとの間接セックスなんでしょ?」
「そうよ。なによ今更」
「……だって。アゲハちゃんとエッチする前にしちゃったら間接セックスにならないんじゃないかなって……」
「はぁ。昇太君、あなた、なんにも分かってないわね」
愚か者を見るような目で静が溜息を吐く。
「間接セックスの純度で言ったら、むしろ先に昇太君とエッチした方が高いじゃないの!」
「……そうかなぁ」
間接セックスの純度。
当たり前だが、聞き覚えのない概念だ。
「考えてもみなさいよ! 好きな人が飲んだ後のペットボトルに口をつけるのと、好きな人に飲みかけのペットボトルを飲まれるの、どっちがエッチだと思う?」
「んー……」
そんな事考えた事もないし、考える気にもならない。
「そう! 答えは当然後者よ!」
「……そうかなぁ」
というか、まだ答えてすらいないのだが。
暴走モードの静には言っても無駄だろう。
「そうでしょう!? アゲハちゃんが飲んだ後のペットボトルをベロベロしても、私の唾液は一滴だって届かないわ! でも、アゲハちゃんに私の飲みかけのペットボトルを渡したら完全無比、純度百パーセントの間接キッスじゃない!」
「キッモ」
心の声が零れてしまい、昇太は慌てて口を押さえた。
だって今のは流石にキモイ。
ベロベロって表現が特に。
どう考えても経験談だし。
「キモくない!? 純愛でしょ!?」
「ぐぇ――、ご、ごめんなさい!?」
涙目の静に首を絞められ慌てて謝る。
お互いにゼーハーと息を荒げて。
「……つまり、この場合のペットボトルは僕って事?」
「そういう事」
静が指を鳴らそうとして、スカッと掠れた音が虚しく響く。
ムキになって何度も指を擦り合わせ。
「もう! なんで鳴らないのよ!?」
「こうするんだよ」
昇太がコツを教えてやると、パチンと綺麗な音が鳴る。
「やった! 出来た! 私だってやれば出来るのよ!」
得意顏で何度も指を鳴らしてふと首を傾げる。
「何の話だっけ?」
「……僕がペットボトルって話かな」
溜息と共に昇太は言った。
見た目はしっかり者の優等生な静だが、中身はポンコツサイコレズである。
「そうだったわ! 私とセックスした昇太君がアゲハちゃんとセックスしたら、より直接的に間接セックスした事になるでしょ! もはやこれは、昇太君を介して私がアゲハちゃんとセックスしてるって言っても過言じゃないと思うのよ!」
「いや過言でしょ」
という言葉を昇太は飲み込んだ。
言った所でまた首を絞められるだけである。
代わりに。
「……そうかもね」
疲れた声で言うのだった。
「でしょう? そうと決まれば善は急げよ! アゲハちゃんが来る前に、私という概念を昇太君の相棒に宿らせなきゃ!」
「……なんかやだなぁそれ」
と言いつつ、いざ始まればやっぱり最高のエッチだったが。
「あひ、あひひ……。これだけやれば、昇太君の相棒は私同然ね……」
打ち上げられたヒトデみたいにくったり便座に腰を下ろして、幸せそうな顔で静は言う。
「……こんな事して大丈夫かなぁ」
なんとなく、嫌な予感のする昇太だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。