第7話 間接セックス

 昇太の思考はフリーズした。


 ショウタクン、イマココデ、ワタシトセックスシナサイ。


 その言葉が頭のなかで未知の言語みたいに木霊する。


 別の意味があるのかと、何度も何度も繰り返す。


 けれど、どう頑張ってもそれは、「昇太君。今ここで、私とセックスしなさい」以外の意味を見出せない。


 だから昇太は尋ねた。


「………………なんで?」

「悔しいからよ」


 氷のような無表情が一転、静はぷくっとむくれて見せた。


 静かに怒る暗殺者みたいな雰囲気は消え去って、等身大の女の子の子供っぽさが顔を覗かせる。


 何故この場面で?


 昇太には欠片も理解が及ばない。


「……いや、全っ然意味が分からないんだけど」

「だって! 昇太君アゲハちゃんとセックスしたんでしょ!? 私だってまだした事ないのに!」

「?????」


 昇太の頭を疑問符が埋める。


「ちょ、ちょっと待って? それってつまり、黒森さんも僕とエッチしたかったって事?」

「違うわよ!? なんでそうなるの!? 私がしたかったのはアゲハちゃんとよ!」

「そっちだったかぁ~……」


 急に話が見えてきた。


 多分この子は俗にいう、クレイジーサイコレズと呼ばれる種族なのだろう。


「ちっちゃい頃からずっと、私はアゲハちゃんの事が好きだったの! っていうか今も好き! ING! 現在進行形で大好きんぐよ!」

「そ、そうなんだ……」

「そうなのよ! 将来の夢はアゲハちゃんのお嫁さんになる事! 中身も好きだし見た目も好き! だからもちろんエッチだってしたかったの! それなのに! 私より先にアゲハちゃんとセックスするなんてズルいじゃない! 私の方が先に好きだったのに! 略してWSS! つまり昇太君は私からアゲハちゃんを寝取ったのよ! 酷い話だわ! 百合の間に挟まるなんてルール違反じゃない!」

「ご、ごめんなさい?」

「疑問符をつけるな!」

「ごめんなさい!!!」


 正直言ってなにを言ってるんだこいつは状態だったが。


「で、でも、だからって僕とエッチするのは違うんじゃないかなと……」


 ギロリと静が昇太を睨む。


 昇太は慌てて口を押さえるが、後の祭りだ。


「なにがどう違うって言うのよ! 説明しなさい!」

「……だって、黒森さんがエッチしたいのはアゲハさんであって僕じゃないんでしょ?」

「昇太君は頭脳がマヌケ!? アゲハちゃんとセックス出来てたらこんな事にはなってないでしょうが!?」

「そうなのかなぁ……」

「そうなのよ! 子供の頃からの親友だって言ってるでしょ!? 幼馴染ポジなの! 今更好きとか言えるわけないじゃない! もし拒絶されたら自殺ものよ! 今まであ~しの事そういう目で見てたんだ……とか言って幻滅されたら怖いじゃない!?」

「それはまぁそうだけど……」

「でしょ!? だから代わりにアゲハちゃんとセックスした昇太君とセックスするの! そしたら間接的にアゲハちゃんとセックスした事になるでしょ!」

「なるかなぁ……」

「なるわよ! 間接キッスって言葉知ってる!?」

「知ってるけども……」

「じゃあ分かるでしょ!? 昇太君はアゲハちゃんとセックスほやほやなんだから! 完全にこれは間接セックスよ! だから早くして! こういうのは鮮度が命なんだから!」


 セックスほやほやに間接セックス。


 パワーワードの連打に昇太は眩暈がしてきた。


「ま、待ってよ黒森さん!? お願いだから落ち着いて! 黒森さんも初めてなんでしょ? そんな理由でエッチしたら絶対後悔するよ!」

「黒森さんも!? 黒森さん、も!? あぁ妬ましい! 昇太君は良いわよね! アゲハちゃんとセックスしたんだから! しかも処女まで奪って! そんなの最高じゃない!」


 興奮した静がバンバンと跳び箱を叩く。


「しぃー! しぃー! こ、声が大きいよ!? それに、女の子がそういう言葉を使うのはどうなのかと……」

「なによ!? セックスはセックスでしょ!? 生き物はみんなセックスして産まれるの! なにが問題だって言うのよ! っていうか女の子だからなに? 男の子だったらセックスって言っても許されるの? なにそれ! 男女差別も甚だしいわ!」

「ごめんなさい! 僕が間違ってました! 許してください!」

「許さない! いいから私とセックスなさい! それともなに!? アゲハちゃんとはセックス出来て、私とは出来ないって言うの!?」

「いや、そんな事は全然ないんだけど……」


 むしろ昇太的には喜んでといった感じである。


 だって静はアゲハとは別方向にパーフェクトガールなのだ。


 眩しい程に白い肌、艶やかな黒髪、アンバランスな程大きな胸、スラリと長い脚、頭がくらくらするような甘い体臭。


 男なら誰だってこんな子としてみたいと思うだろう。


 相棒だって同じ意見で、ここだけの話、静に踏まれているだけで爆発しそうになっている。


「ならいいでしょ!? 合意の上よ!」

「黒森さんがいいなら僕はいいけど……」


 昇太は混乱してきた。


 だってクラスメイトの女の子と体育倉庫でエッチしている事がバレたのだ。


 普通はもっと退学とか警察沙汰とか炎上とかニュースになるみたいな破滅的な罰を受ける場面である。


 それが何故か、別の美少女とエッチする事になってしまった。


 そんなの、誰だって混乱する。


 とは言え、拒否できる状況でもないのでエッチはするが。


 先程からさして間をおかずの第二ラウンドだったが、そこは頼れる相棒だ。


 アゲハに焦らされた事もあり、相棒は準備万端。


 二人目という事で余裕もあり、お詫びの気持ちも込めて丁寧にエッチした。


 その結果……。


「………………なによこれ。気持ち良すぎるじゃない……」


 ぐっちょり濡れたマットの上で快楽堕ちした静の姿がそこにはあった。


「良かったならいいんだけど……」


 心地よい満足感に包まれながら、昇太はダメ元で言ってみた。


「その、出来れば今日の事は秘密にしてくれると助かるんだけど……」

「……はぁ? なに当たり前の事言ってるのよ。言えるわけないでしょ! バラしたら昇太君だけじゃなくアゲハちゃんにまで迷惑がかかるじゃない!」


 言われてみればその通りである。


「……それってつまり、許してくれるって事?」


 ホッとしながら昇太が聞くが。


「許さないわよ。絶対に許さない!」

「で、でも、秘密にしてくれるって……」

「それとこれとは話が別よ! 昇太君は私からアゲハちゃんを寝取ったんだから! アゲハちゃんと寝る度に私と間接セックスするの!」

「えぇ……」

「なによ! 文句あるの!?」

「全然ないけど……」


 むしろご褒美という感じである。


 問題は、アゲハにバレたらマズいのではという事だが……。


 それについては考えない事にした。


 というか、考えたって仕方ない。


 立場的に、昇太に拒否権なんかないのである。

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