第4話 話しかけてこないくれる? 普通に迷惑だから
「っていうか! 学校の敷地内でエッチなんかしたらダメだよ!」
がばりと起きて叫ぶのだが、全ては後の祭りである。
そこは男子寮の昇太の部屋のベッドの上。
ワンチャン全部思春期の欲求不満が見せた
というわけで翌朝だった。
「あぁもう! 僕のバカバカバカ! 折角苦労して愛聖に入ったのに! よりにもよってクラスメイトのギャルと体育倉庫でエッチしちゃうなんて!」
こんな事が周りに知れたら絶対イジメられる。
というか、それ以前に問題になって退学になる。
下手したらニュースにもなる。
そしたら昇太の人生はおしまいだ。
「……でも、気持ち良かったなぁ……」
昨日の事を思い出し、不覚にも昇太はウットリした。
だって事実だ。
仕方がない。
初めては上手くいかないという話を聞いた事があるが、アゲハとのエッチは普通に最高だった。
だってあんなに可愛いのだ。
胸だって大きくて、お尻も意外に大きくて、なにもかもがマシュマロみたいにふわふわで、物凄く良い匂いがした。
その上アゲハは優しくて、でも激しくて、素直で、一生懸命で、必死だった。
昇太も出来るだけ優しくして、でもどうしても激しくなってしまって、自分を偽る余裕もなく、相手に喜んで貰いたい一心で、やっぱり必死だった。
だから最高だったのかもしれない。
間違った事をしたとは思うが、最高の初体験だった事は否定できない。
本音を言えばラッキーだったとすら思ってしまう。
だって昇太はこの通りの冴えないチビ助だ。
本当ならあんな可愛い子とエッチできるはずがない。
間違った事をしたとは思うが、それはそれとして最高の気分である。
なんかもう、一気にレベルが10くらい上がった気がする。
相棒だってこの通り、昨日の事を思い出して誇らしげに胸を張っている。
誇り過ぎて痛いくらいだ。
チビの割に、相棒は立派な昇太である。
そのせいで相棒に栄養を吸われてるとかバカにされる事もあった。
だから正直、相棒の事はずっと好きではなかったのだが。
今日からはちょっと見る目が変わりそうだ。
だって終わった後のアゲハはあんなに満足そうだった。
『……昇太君。エッチって最高に気持ち良いね……』
なんて悟った顔で呟く程だ。
いじめられっ子の冴えないチビの自分が、あんなに可愛い美少女のお嬢様を満足させる事が出来たのだ。
そう思うと昇太は無性に誇らしくて、お腹の底から謎のエネルギーが湧いてくるような気がした。
大嫌いだった自分をちょっとくらいは好きになれそうな気さえする。
だからやっぱり、間違った事をしたとは思うが、悪い気は全然しないのだった。
「……それはそれとして、学校行かなきゃ」
昇太は学生である。
クラスメイトのギャルとエッチしようが、いつも通りに授業はある。
だからさっさと支度しないといけないのだが。
「……流石にこのままじゃマズいよね」
昨日あんなに出したのに、相棒はまだ興奮冷めやらぬといった様子である。
チラリと時計を確認すると、昇太は急いで相棒を宥めにかかった。
オカズは勿論言うまでもない。
目を閉じるだけで、VRゴーグルを付けたみたいに昨日の出来事を再生する事が出来る。
本来なら、クラスメイトの女の子をオカズにするなんていけない事だ。
だが、昇太は思うのだ。
(……別に良いよね。エッチまでしたんだから)
そうさ!
僕は相沢さんとエッチしたんだ!
ジワジワと湧き出す実感に、なんだか大人になったような気がした昇太だった。
†
なんて事があったので、危うく昇太は遅刻しかけた。
「はぁ、はぁ、はぁ! 間に合ったぁ~……」
必死に走り、へたり込むように席に着く。
机に突っ伏し、頬を赤くして息を喘ぐ昇太は奇妙に艶めかしく、クラスメイトのお嬢様達の無垢な胸をドキドキキュンキュンかき乱しまくった。
(ちょっと! なにあれ!?)
(昇太君エロ過ぎ!)
(うっひょ~! かわええ~! 食べちゃいたいよおお!)
この場にテレパスがいたならば、そんな心の声をキャッチしていた事だろう。
クラス中の女子の視線を一身に浴びながら、呑気な昇太は気づきもしない。
仮に気づいたとしても、女子達はいつも通り超反応でサッと目を逸らすだけだろう。
「滑り込みセーフ! 超焦ったし!」
チャイムと共に入ってきたのはアゲハだった。
ギャルの割に、いつもは昇太より早く来ている優等生なのだが。
珍しく今日は遅刻ギリギリだ。
「相沢さん。おはよ~」
ともあれ昇太は挨拶した。
だって昨日エッチした仲なのだ。
挨拶くらいしないと失礼だろう。
そう思ったのだが……。
「は? なに? 馴れ馴れしく話しかけないでくんない?」
アゲハの反応は冷たかった。
お前誰だよと言わんばかりの態度である。
まるで昨日の事なんかなかったみたいだ。
「……ご、ごめんなさい」
昇太はショックを受けた。
そして物凄く悲しくなった。
今朝芽生えた誇りなんか一発でへし折れて、折角上がったレベルも30くらい下がった気がする。
(……そうだよね。相沢さんはただ、周りに嘘をつく為にエッチを経験したかっただけなんだ。エッチさえしちゃえば、僕なんかもう用済みなんだ……。それなのに僕は、なにを勘違いしてたんだろう。友達面で挨拶なんかしちゃって、バカみたい……)
なんだか無性に泣きたい気分だ。
でも、泣いたらアゲハに迷惑がかかる。
そう思って昇太は必死に平気なフリをした。
努力も虚しく、誰が見ても半泣きの震えるチワワといった様子だったが。
「ちょっとアゲハちゃん。今のはちょっと冷たいんじゃない?」
「昇太君泣きそうじゃん」
「折角挨拶してくれたのに~」
「だってあ~し彼氏いるし。他の男子と仲良くしたら浮気になっちゃうじゃん」
周りの女子に問い詰められ、迷惑そうにアゲハは言う。
昇太は混乱した。
さっきまで最高の思い出だと思っていた物が急速に色あせて、端からボロボロと形を失っていく。
まるで夢でもみていたような気分だ。
あるいは騙されたのだろうか。
実はアゲハは本当に遊び人で、昇太と寝る為にあんな嘘をでっち上げたのでは?
今となっては、あり得ないとも言い切れない。
「だ、大丈夫だよ……。僕は全然気にしてないから……。いきなり声かけちゃってごめんね……」
ともかく昇太は謝った。
なんにせよ、揉め事はごめんだ。
「……まぁ、あーしもちょっと冷たかったかもだけど。そういうわけだから、あんまり話しかけてこないくれる? 普通に迷惑だから」
「……はい」
死にたい、消えたい、帰りたい。
昇太は俯き、こんな事になるのなら、やっぱりアゲハと寝るんじゃなかったと後悔した。
ホームルームが終わり、休み時間に入っても昇太は後悔の沼に沈み込んだままだった。
と、不意にポケットのスマホが震えた。
確認すると、アゲハからラインが来ていた。
通知で見えるのは、『ごめんなさい!』という文字だけだ。
なにが? と思ってアプリを起動する。
『ごめんなさい! いきなりあんな事言われたらびっくりするよね! でも、昇太君って超人気だから、あ~しが抜け駆けしてエッチしたなんて周りにバレたら殺されちゃうよ! あ、今の比喩ね! とにかく、そーいう事だから、表向きは不仲って事にしといて欲しいの! 勝手な事言ってごめんね! でも、その方がお互いの為だと思う! あと、絶対勘違いしないで欲しいんだけど、昇太君の事嫌いになったとかそういうんじゃないから! むしろ好きだよ? 超好き! 昨日のエッチ最高だったし! なんなら今朝も思い出して遅刻しそうになっちゃったし! 昇太君が嫌じゃなかったらまたして欲しいし! そんな感じ! 本当、さっきは怖がらせちゃってごめんね! 本当ごめん! ごめんなさい!』
読み終えると、昇太は心底ホッとして、泣きそうな顔でアゲハを見た。
アゲハは欠伸をしながら携帯を弄っていた。
『こっち見ないでえええええ! バレちゃうからあああああ!』
昇太は慌ててそっぽを向き。
『ごめんなさい!』
『謝んないで! 悪いのは全面的にあ~しの方だから!』
『ごめんなさい』
と打ちかけて、昇太はメッセージを書き換えた。
『ありがと。疑ってごめんなさい』
『何の話?』
『こっちの話』
『よくわかんないけど。……それでさ。またしてくれる?』
昇太は悩んだ。
今度こそ、間違ってはいけない場面だ。
『……僕で良ければ』
そう返した。
昇太なりに考えたのだ。
その結果、なにが間違いなのか分からなくなってしまった。
だってお互い合意の上で、生物学的にも歴史的にも法律的にも問題ないのだ。
なによりも、昨日のエッチは最高だった。
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