第5話 体育倉庫でもう一度
「う~ん! 気持ちよかった!」
先に制服に着替えると、スッキリした表情のアゲハが伸びをする。
あれから数日。
二人は性懲りもなく体育倉庫でエッチしていた。
「僕もよかったけど……」
裸の昇太が呟く。
気怠い余韻に支配され、まだ動く気にはなれない。
「けど、なに?」
アゲハが振り向く。
制服姿のアゲハを見ていると、さっきまでエッチしていたなんて嘘みたいに思えてしまう。
裸もいいけど、こっちの姿も可愛らしい。
むしろ、裸を知っているからこそ余計に可愛く感じられた。
それで急に恥ずかしくなり、昇太は少し俯いた。
「……なんで体育倉庫なのかなって」
「だって他にする場所なくない?」
「……僕の部屋とか」
「ダメだよ! 男子寮は女人禁制じゃん!」
「体育倉庫でするよりはマシじゃない?」
内側から鍵を掛けられるようになってはいるが、やはりここは落ち着かない。
背徳感でドキドキするけれど、見つかったらどうしようという不安もあり、今ひとつエッチに集中出来ない。
エッチの後はすぐ解散になってしまうし。
昇太としては、もう少し二人で余韻を楽しみたい。
「ここはいいの。穴場だって言ったでしょ? 他の子だって使ってるんだから」
「え? 他の子って……。ここ、僕以外に男子いるの?」
「いないよ?」
お互いにキョトンとする。
「いやでも、他の子も使ってるって……」
「あぁ。男女じゃなくて女同士でって意味ね」
「女同士!?」
「しぃ~! 声が大きいって!」
「ご、ごめん……」
昇太が慌てて口を押さえる。
「そんな驚く事?」
「そりゃ驚くでしょ……。愛聖のお嬢様が女の子同士でエッチしてるなんて……」
しかも、体育倉庫でこっそりとだ。
「いやいや、お嬢様って言ったって中身は同じ人間だから。オナラもすればウンチもするし、エッチだってしたいでしょ」
「アゲハさん!? デリカシー!」
「だって本当の事だもん。誤魔化す方が変じゃんか」
「そうだけどさぁ……」
世間的には昇太の方が正しいはずなのだが、アゲハと話しているといつもこちらが間違っているような気がしてくる。
「てか、あ~しだってした事あるし」
「そっ――」
危うく大声が出そうになって声を抑える。
「それ、本当?」
「嘘言っても仕方ないじゃん? って、あ~しが言っても説得力ないか」
あははは~と呑気に笑う。
「だってあ~しら物心つく頃からずっと女子校生活なんだよ? どこ見ても周りは女の子しかいないし。そしたら女の子同士でヤッちゃうでしょ」
当然の事のようにアゲハは言う。
それはないでしょとツッコミたいが、女子校の事情なんて知るわけもない。
愛聖に限らず、案外女子校とはそういう場所なのかもしれない。
「……なんか凄いね」
「別に凄くはないけど。てか昇太君も男子校だったら男同士でヤッてるかもよ?」
「やらないよ! やるわけないでしょ!?」
「そんな否定しなくてもよくない? 別に悪い事じゃないんだし」
「そ、それはそうだけど……」
確かに悪い事ではないと思う。
昇太自身、同性愛者に対して偏見はないつもりでいた。
しかし、自分がそうだと言われると否定したくなってしまう。
「あ~しは別に良いと思うけどね。男だろ~が女だろ~が、ヤリたい事ヤッたもん勝ちっしょ」
「……それはそれでちょっと極端過ぎる気もするけど」
「昇太君は真面目過ぎ! 正解なんか人それぞれなんだから、当人同士がオッケーなら大体の事はオッケーなわけ! てかさ、昇太君が男子校行ったらメッチャモテそうじゃない? てか絶対モテるし!」
「だからやめてってばぁ!?」
思わず昇太はお尻を押さえた。
男子校に入って自分よりも大きい男子生徒に無理やりお尻を犯される絵面が容易に想像できる。
「あははは、ごめんごめん。てか、昇太君はこっちでモテモテなんだから男子校行く必要なんかないし? むしろ愛聖入ってくれてありがと~! って感じ! むちゅ~!」
アゲハが昇太の頭を胸に抱き、頬っぺたにキスをする。
「や、やめてよ! アゲハさん!」
「舌まで入れた仲なのにな~に照れてるし! もう、本当可愛いすぎぃっ!」
嫌がる昇太を力づくで抑え込み、キスの雨を降らせる。
「そ、それとこれとは話が別だよ! はなして! は~な~し~て~!」
「なに? あ~しのキスがそんなに嫌なわけ?」
ムッとしてアゲハが離れるが。
「……あ~。そう言う事」
昇太の股間を見て納得した。
「あんなにヤッたのにまだ足りないんだ?」
「だ、だってぇ!? アゲハさんがエッチな事するからぁ~!」
涙目になって言い返す。
「もっかいする?」
「………………する」
悩んだ末に昇太は答えた。
正直言ってメッチャしたい。
アゲハとなら何度だってエッチしたい。
「え、マジ!? ごめん! 今のは冗談! そろそろ習い事の時間なの!」
「……別にいいですけど」
というのは口だけで、内心では結構ショックを受けていた。
「ごめんてばぁ! 今度胸でしてあげるから!」
「ほ、本当!?」
言ってからしまったと思う。
案の定、アゲハは許された顔でニマニマしていた。
「ほ、ん、と、だ、よ。ムッツリスケベ君」
耳元で囁くと、アゲハは大きな胸をたゆんと揺らしてウィンクをする。
「アゲハさん!?」
「あははは! だってほんとの事だし?」
「そうだけどぉ……」
「あ、そうだ。早速昇太君とエッチした経験生かして友達に経験談話したんだけど超ウケたよ! もうみんな目の色変えちゃって、凄いヤバいおっとな~! って尊敬されちった! これも全部昇太君のお陰ってわ~け。あんがとね。む~ちゅっ!」
と、嬉しそうに投げキッスを飛ばしてくる。
昇太は身体を倒して避けた。
「避けんなし!?」
「さっきのお返し」
プイっと昇太がそっぽを向く。
そしてどちらともなく笑い合う。
「じゃ、あ~しもう行くね。昇太君もそろそろ着替えないと風邪引くよ?」
「うん。アゲハさんも習い事頑張ってね」
「もち! 昇太君とエッチしたから元気百倍!」
ブイっとダブルピースして扉から出ていく。
と、不意に扉から顔を覗かせ。
「一応言っとくけど、外じゃあ~しの事アゲハちゃんって呼んじゃダメだからね? 普通に怪しまれるし。勿論二人の時は大歓迎だけど!」
「わ、分かってるよ。僕だってそんなにバカじゃないし」
「だから一応って言ったでしょ? あ~しの友達、勘の鋭い子もいるんだから。抜け駆けして昇太君とエッチしてるなんてバレたら大変だよ!」
「分かったってば。早くいかないと習い事遅れちゃうよ?」
「うん! それじゃまた明日! 学校でね!」
「また明日~」
手を振って別れる。
ガチャンと扉が閉まると、急に体育倉庫が静かになった。
「……また明日、か」
アゲハに振った右手をしみじみと見返す。
万年いじめられっ子の昇太である。
友達がいた経験だってない。
誰かとまた明日なんて言い合うのだって初めてだ。
「……やっぱり、間違ってなかったよね」
普通に考えれば間違った選択だ。
けれどアゲハは言っていた。
正解なんて人それぞれ。
昇太にとっては、これが正解だったのだろう。
コンコンコン。
「ヒッ!?」
扉をノックされ、思わず昇太は飛び上った。
急いで脱いだ服を掻き集め、跳び箱の裏に身を潜める。
「昇太君? いる?」
アゲハが戻って来たらしい。
それにしては、妙な違和感があったが。
「アゲハさん?」
「……忘れ物しちゃった。鍵、開けてくれない?」
「鍵なら空いてるよ」
違和感が膨らむ。
何かがおかしい。
「……ダメだよ昇太君」
ゆっくりと扉が開く。
「こんな声真似に騙されちゃダメ」
アゲハには似ても似つかない、黒髪ロングの美少女が冷たい目をして立っていた。
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