嘘
ラブコメには、「好き」どういう感情に意味を見出そうとする人と、「好き」に理由はないという人で喧嘩してる場面がある。
そういうのを見ると、私はため息をつきたくなる。だって、「好き」という感情なんて、どうでもいいものだから。
だってそうでしょ?
付き合い始めたカップルの多くは、一生共に生きることなんてなくて、いつかどちらかが振る。互いに気まずくなってそのまま自然消滅なんてこともしばしばだ。
永遠の愛を誓い合った夫婦だって、ちっちゃな喧嘩で離婚まで行くことがある。なんなら浮気という誓いに対する立派な裏切り行為をする人だっている。まあ、コレに関しては片方の人は可哀想だけど...
まあ、つまりだ。結局、恋というものは、大体がすぐに壊れて消えてしまうのだ。それは、どんな年齢での恋でも同じだ。
しかも、ちょっとした心のズレで。
その程度のものに熱心に討論して、ぶつかり合って、反発しあって。なんの意味があるのだろうか。
(...うん。やっぱ分かんない。)
ポイっ
グシャ
「あっ...」
ぼとりと投げた漫画が地面に落ちる。
着地点が悪く、表紙が見事に折り曲がって、ページがシャチホコくらい反ってしまった。
「...まぁ、翔太なら許してくれる。」
そう思い込むことにし、急いで拾って本棚にしまう。こういう時、人がいなくても、何故だか気持ちが焦ってしまう。
急いで本棚に本をシュートした私は、再び短短短距離走を挟み、頭からベッドにゴールインした。
「それにしても、翔太遅いなぁ...」
時間はすでに5時だ。今日、翔太は図書委員でもないし、何か居残りを食らったわけでもない。それで、ここまで帰ってこないのは、前はなかった。
今日、翔太は、私を呼び出した。そのくせ、怖気ついたのか、その場には来なかった。
その前に、知らん奴に急に抱きしめられるというめちゃくちゃイラつく事があったから、その八つ当たりも含めて、文句を言ってやろうと思ったが、教室にも、念のため行った図書室にもいなかった。
仕方がなく、私は1人で、トボトボと歩いて帰ってきたわけだが...
(...ここ一ヶ月前くらいからか。)
翔太は、私と帰らなくなっていた。誘うと、毎回用事があるから残ると断られる。
怪しいと思って、私も残ると言ったこともあった。だけど、『お前は関係ないから』と言われ、学校の校門の外まで追い出されてしまうのだ。
まあ、別にいっかと思い、しばらくスルーしてきたが、流石にそろそろ許容範囲を超えてきている。
お仕置きも、最近は甘めにしていたから舐められたのだろう。今日は、少し厳し目に叱ろうと心に決め、彼の帰りを待った。
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『私たち、ずっと一緒にいようね!』
『うん!』
~~~~~~~~~
『翔太とずっと一緒!嬉しいなぁ!!私、彼の隣にいても恥ずかしくないように色々がんばろっと!応援してくれる?うさぎさん?』
『....』
~~~~~~~~~
『...なんで?なんで私から距離取るの?近くにいていいでしょ?ね!?翔太!』
『...だめだ。』
『なんで!?約束は!?!?!?』
『...ごめん。』
『...そ、んな...しょ..ぅ..た.....』
~~~~~~~~~
『どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。』
『このままじゃ翔太が離れてっちゃう。なんで?どうして?私頑張ったよ?彼を支えられるよう、精一杯努力したよ?それなのに、どうして...』
『彼が離れて行かない方法。一生そばに入れる方法。一生、私が心に残る方法。一生、私という存在を、彼の脳に刻む方法。...』
『なにか、なにか、なにか、なにか...』
『あ、そうだ。これだ。これなら、コレならずっと翔太の心に残る!コレなら彼を支配できる!コレなら私と彼は一緒にいれる!』
~~~~~~~~~
『痛い、痛いよ!どうして!!!』
『ごめんね。でも、翔太が悪いの。私たちの約束なかったことにして、私から離れて行こうとしたから。だからこんな目に遭うんだ、っよっと!!!』
『っ!?』
『次、私との約束を破ったら、また、やるからね?』
『はぁ、はぁ、はぁ、...』
『返事は??』
『...はい。』
『あと、ここ、防音だから、思いっきり泣いていいからね?』
『それとそれと、もし他の人に言ったら、私、何するかわからないから!』ニコリ
『あ...ぁ....』
『コレで、翔太と私は、一生一緒!!!アハハ!アハハハハハ!』
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「京子ちゃん。起きてちょうだい。」
「んー?」
...どうやら私は寝ていたらしい。
そんな事実を、翔太のお母さんの顔をぼーっと眺めながら、覚醒しきっていない頭で理解する。
(今何時だろう?)
そう思い、時計を見ると、7を短針が指していた。時の流れの速さに驚きつつ、ひとつ、疑問を持った私は口を開いた。
「おばさん、翔太はこの部屋に来てないんですか?リビングにいるとか?」
「それがね...」
おばさんは、少し困った表情で、ほおに手のひらを当てながら、口を開いた。
その顔を見た瞬間、嫌な予感が頭に浮かぶ。さっきまで、幸せな夢を見ていたのに、今の頭の中は地獄のようだ。
頼む、違うことであってくれと思いながらも、それ以外の可能性は、より危険なものだった。彼の身に危険が及ぶものばかり。
交通事故やら、攫いやら、そんな類だけだ。
「翔太、まだ帰ってないのよねぇ...」
その言葉を聞いた瞬間、私は瞬時に翔太の部屋を出て、玄関に向かい、扉をバンとあけて、外に出た。
(翔太!なにしてるの!!どこ!?)
スマホで道を照らしながら、家の周辺を探す。
が、彼はいない。
焦る気持ちを抑え、なんとか頭を働かせる。
その結果、まだ家に帰ってきてる途中である可能性も考え、彼の帰り道に沿って、彼を探すことにした。
小走りで何度も通ったことのある道を進んでいく。1秒、また1秒と時間が経つたびに、どんどん嫌な想像が膨らんでいく。
(翔太は無事、翔太は無事...)
と、焦る自分に言い聞かせていた、その時だった。照らす明かりに小さい人影が映った。
(翔太!?)
目が自然とその影を追っていた。普通ならこんな時間に、近づいてくる人が来たら、少し不安になるはずだが、私には、その影は希望でしかなかった。
だんだんと人の全体像が見えてくる。
足、手、服、そして、ついに顔が見えた。
「翔太!!!!!」
彼だと分かった瞬間、私は嬉しさのあまり、走り出していた。手を伸ばしながら、走って、走って、彼の胸元に飛び込んだ。
「よかった。よかったよ。通り魔に刺されたんじゃないか、事故にあったんじゃないかってたくさん心配したんだよ!」
見つけた喜びで、無意識に口がマシンガンのように言葉を放っていた。
「....」
「今までなにしてなの?私、ずっと待ってたんだよ?教室にもいないし...どこ行ってたの?電気屋?本屋?ゲーセン?時間はちゃんと見ないとダメだよ!」
明日はお仕置きだなぁ...楽しみだなぁ...
なんて考えながら、今は優しく説教をした。
お仕置きと言葉に出すと、彼は震え出してしまい、その場から歩かなくなることもあるから、今は決してその言葉は発してはならないのだ。
「まあ、今は...とりあえず、一緒に帰ろ!」
そう言って、翔太の腕に手を伸ばしたその時。
「...ろ。」
ボソリッと翔太が何かを呟いた。
「なんか言った?」
と聞き返すと、彼は私をキッと睨んできた。
「離れろ!!」
「え?...キャッ」
いきなりの大声に驚いた次の瞬間、気づけば私は地面に投げられていた。
「え?ぁえ?な、なんで...」
私の口からは、自分でも情けないと分かるくらいには、弱々しい声が出ていた。
でも、それもしょうがないと思う。
いきなり、痛みに襲われ、それと同時に彼に拒絶された絶望も味わったのだから。
「何故か?そんなの君が1番分かってるだろ!僕の記憶をなくしたからってやり直せると思うな!僕の気持ちを弄ぶな!」
「な、なにを、言って....っ!?記憶なくなったの!?!?」
「お前が消したんだろ!コレらの、暴力で!!!」
そう言い、彼は、大量の写真を見してきた。
それらの写真には、どれも、私が彼にお仕置きしているシーンが映っていた。つまりだ。コレは、私と彼ではない、第三者が撮ったということになる。
「その上、浮気までして!」
「待って!私、浮気なんてしてないし、私たち、付き合ったことなんてない!お願い気づいて!翔太は騙されてる!!」
必死に、必死に説得した。使えるものも全て使った。涙も流したし、縋るようにしがみつきもした。
「もう、僕には一生近づかないでくれ。」
でも、私の言葉は、彼には届かなかった。
だんだんと彼の背中は小さくなっていく。
それを、私は眺めるだけ。
あぁ、やだ。置いてかないで。
ずっと一緒って言ったのに。
なんで、翔太は2回も破ろうとするの?
恐怖で縛っても、ダメだというの?
...どうしよう。
このままじゃ、彼に嫌われたまま、私は彼のそばにいることができない。そんなの嫌だよ。無理だよ。なんでこんなことになっちゃったの?なんで、なんで...
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでナんでナんでナんでナんでナんでナんでナんでナンでナンでナンでナンでナンでナンでナンでナンでナンでナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ...
...あ。翔太に嘘をばら撒いたクソ野郎。ソイツを始末すれば、翔太も正気に戻るよね。うん。きっとそうに違いない!そしたらまた、愛なんて曖昧なものじゃなくて、確実に心に残る恐怖で縛る!時々優しくすれば、私にまた依存してくれる!うん!キッとそうに違いない!よし!そうと決まれば!
明日、クソ野郎さんには人生を終わりにしてもらわないとね!でも、それでも無理だったら、私は....
ゴミとも呼べる存在を始末した後の想像をすると、幸せすぎて思わず笑顔になってしまう。いけないと思い、パンパンと顔を勢いよく叩き、緩みきった頬を直す。
2人で歩くはずだった道を眺める。
(大丈夫。少しの辛抱だから。)
そう自分を励ましながら、私は、ひとりでゆっくり、ゆっくりと自分の家に向かった。
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遅くなりすみません。テスト一週間前から忙しくて無理で、テスト期間が終わりかけの時にインフルにかかり倒れました。もう熱は下がりましたが、咳が止まらなくて大変です(若干頭痛い)。病明けの文章(後で見直して書き直すかも)なので、少し変なところが多いかもしれませんが、その時は、優しく指摘してくれるとありがたいです!
皆さんも、体調には気をつけてください。
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