僕ができる唯一の呪いの解除法




『京ちゃん、ちょっと待ってよ〜』




ここは...昔の記憶の中?


なんで僕は今更こんなものを思い出しているんだ?


ついさっき、僕と彼女との約束は朽ち果てたというのに...


僕の想いは、告げる前に終わりを迎えたというのに....



何故かズキズキと心が痛む。



『もう、翔太は情けないなぁ。男の子でしょ?もうちょっと頑張って。』




呆れながらも、幼い頃の僕のことをちゃんと待ってくれる優しい京子。そんな彼女が好きだった。だから、きっと待ってくれると思って、なかなか勇気を出せずにいたんだ。


自分の独りよがりな願望に思わず呆れてしまう。



どんどん痛みは大きくなっていく。





『はぁはぁはぁ...やっと追いついた。』


『もう、私が待ってあげただけでしょ?』


『捕まえた。もう離さないから。こうしないと、京ちゃん先に行っちゃうからね。』




いつか、こんな風に彼女を捕まえて、彼女と一緒に並んで歩んでいけると思ってた。


そんなはず、あるわけ無いのに...



バクンバクンと心臓が大きく脈を打ち、その度によりダメージが大きくなる。



『ふふふ。翔太の手、あったかい。』




...やめろ。やめてくれ。


もういい。僕が悪かった。身の程知らずの恋をしたのは分かってる。罰なら他で受ける。


だから、これを見せるのはやめてくれ...


もう苦しいのは嫌だ。


もう痛いのは嫌だ。


これ以上、この想いを刺激しないでくれ。


頼む....



『ねえ、翔太。』



やめろ。その先を言うな。

その約束は、絶対に果たされないんだから。




『なぁに?京ちゃん。』



聞き返すな。

僕には彼女の願いを叶えられるほどの力はないんだから...


だから、さっさと彼女の願いを断ってくれ。




『私たち、ずっと一緒にいようね!』



ダメだ。


ここであの言葉を言ったら、僕は彼女を意識し始める。


彼女を好きになってしまう。


そうなったら、ずっとずっと完全な幸せは訪れることがなくなる。ずっと、どこかで苦しむ。


だから....




「やめろ!!」


気づけば、僕の手が、少年の口を塞いでいた。何故、僕がそのような行動に移ったのかは分からない。


分からないが、この行動で、僕がやるべきことがなんとなく分かった気がした。



少年は、何かを言おうと必死にムームーっと叫んでいる。彼が発する声が、手をくすぶる。


ガジリと噛みつかれ、手から血が溢れ出る。



でも、僕は手を離そうと思わない。むしろ、彼の口を押さえる力を強めた。


彼が何も話せないように。


彼が、これから先、苦しまないために。




片方の手で口を塞いだまま、僕は少年の手を取り、歩き出す。暴れて必死に抵抗しようとする少年と、悲しそうにこちらを見る京子に、心が痛むが、これは現実では無いと自分を説得して、どんどん歩いた。



どれだけ歩いただろうか。


気づけば、僕はボロボロの倉庫に来ていた。

こんな場所、今まで来たことないはずなのに、迷うことはなかった。



そして、これから取る行動にも迷いはない。



ギギギギギと音を立てながら、大きく、重い扉を開く。そして...





ドンッ


僕は、掴んでいた手を振り解き、少年を、いや、幼い僕を倉庫の中に押し込んだ。


「っ!?やめろ!返せ!」


"僕"は、僕に対して敵意を向けながら、そう怒鳴った。必死な抵抗で、体力は相当削れているだろうに、それでも頑張れるのは、どんな思いがあってなのだろうか。


「...ダメだ。」


「なんで!僕は京ちゃんのそばにいないといけないんだ!僕は、彼女のそばにいたい!」


あぁ。


こんなにも彼は京子に透き通った恋をしている。これほど素晴らしいことはきっとない。



でも、




その想いは絶対に"実らない"。



持っていても、後々苦しむだけだ。



約束も、するだけ無駄なんだ。



京子と僕が一緒になる世界なんて無い。



だから、だから...










「っ!やめろ!」










「さようなら、僕の"幼くて純粋な恋心"。」



ギギギギギギギ





バタン





その想いは誰にも見つからないところに、封印するべきだ。



僕本人でさえ、絶対分からないところに...







_

___

______

__________


「先輩!先輩ってば!返事してください!」


必死に揺らしてみても、翔太先輩は返事を全く返さず、階段に座ったままだ。


どうしてこうなったのか、私にもよく分からない。


私が慌てて駆けつけた時には、先輩は、下を向きながらトボトボと歩いていた。


必死に話しかけても、返事はなし。ただひたすらに速度を変えず、ゆっくり進み続けていた。


声を掛けながら、先輩についていくと、何故か急に今こうしている階段で止まり、座り込んだ。



そして、今の状況に至る。




「ここまでショックを受けるなんて...」


予想外のリアクションに、私はただただ唖然として、先輩を見つめていた。



しばらく眺めていると、先輩の肩がピクリと動く。もしやと思い、慌てて声を掛けた。


「先輩!?石崎先輩!?」


「この声は...佐藤、か?」


「っ!はい!そうです!佐藤です!」


「そうか...」


先輩の声は、いつもの調子よりも暗く、そして弱々しいものだった。やはり、長年の思いが実らなかったのはショックだったのだろう。



(私が励まさないと!)



そう思って、私は勇気を出して、先輩になるべく明るく、声を掛けた。



「先輩。恋が実らなかったのは残念でしたけど、きっといつかいい人が見つかりますよ!先輩はかっこいいですから!」


「...」


「なんなら、かわいいかわいい後輩である私が先輩と付き合ってあげてもいいですよ!先輩となら私も受け入れられますし!」



勢い余って、恥ずかしいことまでついつい口走ってしまった。おかげで、リアクションを見るのが怖くて、先輩の顔を見ることができない。





「...」



「...先輩?」


しばらく沈黙が続き、変に気持ちが舞い上がっていた私も流石に先輩の異変に気づいた。


あまりにも、リアクションがない。


いつもなら、『いやだよ!』なり『ありがとう』なり言ってくれるはずだが、そういったことが何ひとつないのだ。



変に思った私は、先輩の方を見る。



すると、先輩は首を傾げながら、何かを真剣に考えていた。



なんだか、嫌な予感がする。


バクバクと心臓が大きくリズムを刻む。

その音がいつもよりやかましく聞こえた。



「なあ、佐藤。」


先輩は、首を傾げ、真剣な顔をしたまま、私に声を掛けた。


「な、なん、ですか?」


声がビクビクと震える。


謎の緊張感がグワンと高まる。


先輩が口を開いた瞬間、私は緊張のあまり、彼から目を逸らした。



「"恋"って、なんだ?」


「は?」


信じられない言葉に思わず自分の耳を疑う。


しかし、空耳でないことを瞬時に理解し、それと同時に、驚きから慌てて先輩の方を見た。



「僕は、誰に"恋"ってやつをしてたんだ?」



そう真面目な顔で質問をする先輩の瞳からは、涙が一雫、こぼれ落ちていた。


















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