第18話:帰還、そして交流イベント終了

 一行が外に出ると、小さな歓声が彼らを包んだ。


 ダンジョン入口前に設置されたディスプレイには、浅層にあるカメラの様子が映されていたようだ。一枚の黒いディスプレイがあるが、それは連理の配信が映されていたものだ。彼が配信をやめたために、既に画面には何も映っていない。


 ダンジョンの外に居る生徒数十人ほどが、連理一行を注視していた。

 もともと、青幻せいげん鳥里とりさと両学園の交流イベントとして、青幻遺跡ダンジョンを探索するという話だった。

 それで数組に分かれて探索していたが、どうやら他の組は全て帰還しているようで、連理一行は最後の組になるらしい。


 周りの生徒の様子を見るに、五人がどんな活躍をしたかは、知られているようだ。


「おおう、なかなか注目がすごいな」

「ですね……あまり注目は慣れないのですが……」


 二人は軽くたじろいだ。


 それから、横から一際ひときわ大きな声がした。


「あっ! 蓮華先輩!」


 蓮華を呼ぶ声から察するに、彼女の仲間のようだ。

 茶髪でメガネを掛けた女子生徒だった。


「あ、戻ってきたわよー! 本当に、迷子になって大変だったんだから……」


 はぁ、とため息をついた蓮華に対して、女子生徒は顔色一つ変えずにこう言った。


「それは先輩のドジが発動したせいじゃないですか?」

「……う、うるさいわね!」


 仲は随分よろしい様子だ。


「あー、それじゃあお迎えも来たみたいだし、ここらで解散しますか?」

「お迎えじゃないわよ」


 蓮華が真顔でツッコんだ。


「はっはっは! ただの冗談ですよ。蓮華さんも、本当に助かりました」


 連理は楽しそうに笑いながらも、蓮華に頭を下げて感謝を伝えた。


「もちろんよ、次も困ったらいつでも頼りなさいね!」


 自慢気に腕をまくってみせる蓮華。


「はは、そのときはお願いしますね。お疲れ様でしたー」

「そっちも頑張りなさいよー」


 そう言って、二人は別れた。少しばかり波乱のあった協力関係は、こうして一度終わることになった。


『――はい、それでは、最後の組が帰還しましたので、ダンジョン探索レクリエーションは終了となります! 皆さんお疲れ様でしたー。青幻学園のダンジョン探索部の皆さん以外は、もう帰ってくださってかまいません。楽しんでくださりありがとうございました!』


 おそらく探索部員の誰かが行ったであろうアナウンスを聞いて、連理は肩をすくめた。


「自分らだけ居残りらしいな」

「まあ、この部活に居る以上しょうがないのかもしれませんね」


 天音もふっと苦笑した。ダンジョン探索部は、片付けの手伝いをさせられるようだ。


 先生や他の作業員などの大人たちがドタバタと動き始め、生徒たちは談笑しながら帰宅の準備をしていた。

 違う制服の生徒同士で話しているところも見るに、友人ができた生徒も居るようだ。


「……なんだかんだ、交流っていう目的は達成したみたいだな」


 零夜が呟いた。


「そうっぽいねぇ。ま、私達はもともと必要なかったけどねー」


 明里はけらけらと楽しそうに笑う。


「ですね――それで、お二人はもう帰るんですか?」

「何そんな水くさい。一緒に手伝うよ?」

「ここで先に帰るのもな――一応、許可は貰いに行く気だが」


 天音が訊くと、明里と零夜はそう答えた。


「――ありがとうございます」


 天音は、いつもより嬉しそうな笑顔を浮かべた。


 ◇


 ほんの少し空が赤みを帯びてきたかという時間帯。

 四人は帰る準備をしていた。


「みんなー!」


 そこに、一人の女子生徒――いや、鳴神なるかみ 秋花しゅうかがやってきた。


「……ああ、秋花先輩ですか」


 内心に渦巻く疑念を押さえ付けながら、彼女は返事をした。


「いやー、ごめんね、挨拶もできなくて……そっちは鳥里の子だよね? 前に顔合わせだけはしたけど……」

「秋花さん……ですよね。全然大丈夫ですよ、忙しそうでしたし」


 零夜が敬語で応対した。


「いやぁ、その通り忙しかったんだけどね……それに、連理と天音ちゃんには変なお願いもしちゃったしねぇ。ほんとごめんね」


 手を合わせ、申し訳無さそうに頭を下げる秋花。


「いえいえ……少し驚きましたけど、その様子だと理由があったんでしょうし」

「そうそう、ちょっとね……なんていうか、上がうるさくてね」


 面倒そうにしながら、苦笑する秋花。


「そういうことだったんですね。秋花さんに何かあった・・・・・・のかと思っていました」


 少し天音は探りを入れる。


「私? まあねー……おカミさんから何か言われるっていうのはあるけどね」


 秋花はきょとんとした顔で、それだけ言った。


「なるほど、まあそれは面倒ですよね」

「そそ。いやー、ほんと天音ちゃんも連理もありがとね。色々と完璧だったよ!」


 グッジョブ、と親指を立てて笑顔を浮かべた。


「そうですよ、大変だったから感謝してほしいっすね」


 はっはっは、と冗談っぽく連理が笑う。


「私はまあ――できることをやっただけです」


 天音は特に工作に加担はしていない。だからこそ、曖昧な返答になったのかもしれない。


「あっ、それでみんな帰るとこだったでしょ? 引き止めてごめんねー。それじゃあまた今度!」


 忙しない動きでとてとてと走りながら、彼女は去っていった。


「やっぱりいい人だなぁ」

「明るくて面白い人だよねー」


 どうやら、二人には好印象が残ったようだ。


「……まあ、そうですね」


 小さな天音の呟きが、虚空に広がった。


 ◇


 スレッドタイトル:話題の高校生配信者アオバと、青幻せいげん鳥里とりさと学園交流祭の行方はどっちだ⁉


▼0001 通りすがりのノーライフキング 203X/5/5(木) 18:~~:~~.~~   ID:~~~

いい意味でも悪い意味でも話題になりつつあるが、これからのことはどうなるんじゃろか


▼0002 名無しの探索者 203X/5/5(木) 18:~~:~~.~~   ID:~~~

最後の合同文化祭? だかなんだかでまたどうなるかも見ものよな


▼0003 名無しの探索者 203X/5/5(木) 18:~~:~~.~~   ID:~~~

>> 1

あの配信、演出であろうがなかろうがどっちでも凄い気はするな

演出なら、客引きができてるから結果的に正解だった。そうでなかったとしても、あのトラブルが起きてからのリカバーはなかなかできない。演出ってことにしてトラブルを隠したかった理由はわからないけど……


▼0004 名無しの探索者 203X/5/5(木) 18:~~:~~.~~   ID:~~~

>> 3

前者だとしたら、ちょっと脚本が都合良すぎる気がするが

それに、後者だとしても人命を優先しないのはどうなんだ?


▼0005 名無しの探索者 203X/5/5(木) 18:~~:~~.~~   ID:~~~

>> 4

今回の交流祭、双方の不仲説解消が目的でもある

だから、変に目立ちたくなかったんだろ


それに、結局配信してようがしてなかろうが救助はできるし。てか現にできた


▼0006 名無しの探索者 203X/5/5(木) 18:~~:~~.~~   ID:~~~

>> 5

まあ一応納得はできる理由か

いやまて、今回の交流祭ってそんな目的あったんか


▼0007 通りすがりのノーライフキング 203X/5/5(木) 18:~~:~~.~~   ID:~~~

>>5

> 不仲解消が目的

一応イベントホームページにはそれっぽいことが書いてあるけど、よく気づいたな……


▼0008 名無しの探索者 203X/5/5(木) 18:~~:~~.~~   ID:~~~

>> 7

今回のイベントは割りと注視してるからな

こんな面白そうなイベント、無視できるわけがなかったんだよな?


▼0007 名無しの探索者 203X/5/5(木) 18:~~:~~.~~   ID:~~~

てか、個人的には途中で出てきた無詠唱魔術? っぽいのの使い手が気になる

あれ無詠唱だよな?


▼0008 名無しの探索者 203X/5/5(木) 18:~~:~~.~~   ID:~~~

>> 7

多分そう。なぜか配信の中では説明されてなかったからよく分からんけど。

ただでさえ無詠唱の使い手ってなかなか居ないのに、よう高校生で使えるわ


▼0009 通りすがりのノーライフキング 203X/5/5(木) 18:~~:~~.~~   ID:~~~

>> 8

いやぁ……でも無詠唱ってほとんど才能準拠だしな


▼0010 名無しの探索者 203X/5/5(木) 18:~~:~~.~~   ID:~~~

>> 8

無詠唱、基本スキル準拠だからな

それをどう扱うかは本人の努力しだいだけど


▼0011 通りすがりのノーライフキング 203X/5/5(木) 18:~~:~~.~~   ID:~~~

それにしても、交流祭の最後にある合同文化祭はどうなるのかねぇ

アオバくんの動きが見物ですなぁ


〜あとがき〜


 最後までお読みいただきありがとうございます!

 さてさて、ようやっと交流イベントも終了し、お話も一段落といったところでしょうか。

 あの謎の少女の話も、もうそろそろ出てくる頃合いですね。秋花とダンジョン管理局、謎の少女……色々と複雑になってきましたね。最後の合同文化祭、無事に成功するのでしょうか。


 え? あんな意味ありげに出したんだから、もっと謎の少女の出番増やせって? ……ええ、まったくもっておっしゃるとおりでございます。申し訳ありません。


 それはそれとして、最近はリアルの方がかなーり忙しくなり、責任重大な仕事も任され胃に穴が空きそうになりながら必死に執筆しております。

 そんなわけで、お休みが増えたりするかもしれませんが、完結だけは意地でもしますので、最後までお付き合いいただけますと幸いです。

 それではまた来週!

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