第15話 死闘

 正直言って、青春とか言われても千尋には分からない。

 なので彩芽の青春生活に千尋が手伝えることは少ない。

 とりあえず出来ることは友人を紹介するくらいだ。


「えっと……こちらの彩芽さんが『黒コートファンクラブ』に参加したいそうです」


 彩芽に脅迫された日の放課後。

 日葵と佐那には教室に残ってもらい、彩芽を紹介することにした。

 ファンクラブという共同の目的があれば、彼女たちも仲良くなりやすいだろう。


「し、四条彩芽です。よろしくお願いします……!」


 彩芽は深々と頭を下げる。

 なんだか告白でもしているような緊張ぶりだった。


「黒コートファンクラブにようこそ! よろしくね。彩芽ちゃん」


 笑顔で彩芽を受け入れる日葵。

 一方で千尋に対していぶかし気な目を向ける佐那である。


「あら、千尋くんはファンクラブに入らないのに、新規会員を探していたの?」

「え、千尋くん入らないの!?」


 佐那の言葉に驚いて顔を上げた彩芽。

 驚きで見開かれた目は、だんだんとジトリと鋭くなっていく。

 『お前も入れ』と言いたげだ。

 実際に彼女がそう思っているかは分からないが、弱みを握られている千尋は下手に抵抗するわけにもいかない。


「……やっぱり、僕も入ろうかな」

「残念ね。先に彩芽さんが入ったから、あなたの会員ナンバーは四になったわ」

「別に何番でも良いけど……」


 別に一番でも四番でも変わらない。

 だが、そう思うのは一般人の千尋だから。

 ガチ勢はそうもいかないのだ。


「ちなみに一番兼会長は私よ」

「違うから! 一番も会長も私だよ!」


 会員ナンバーと会長の座を巡って争い始めたガチ勢の二人。

 ただ脅されたにわかと、友達が欲しいだけのにわかは呆然と二人を眺めるしかない。

 たぶん、日葵と佐那だけならファンクラブは空中分解していただろう。

 二人の喧嘩に彩芽が割って入った。


「ま、まぁまぁ、言い争っても仕方が無いし……別の方法で決めたらいいんじゃないですか?」

「別の方法って?」

「どっちが黒コートの好きな所を言えるか勝負しましょう」

「そのゲームは止めて欲しい……」


 なぜなら千尋が恥ずかしいから。

 千尋としてはもっと普通に決めて欲しい。


「じゃんけんで良いんじゃない?」

「じゃんけんね」

「良いでしょう」


 日葵と佐那が同意する。

 二人はグッと拳を握った。

 まるで殴り合いでもしそうな殺気を放つが、ただじゃんけんをするだけである。


「私、給食のデザートじゃんけんなら負けたこと無いよ」


 小学校のころの日葵が、男子に混ざってデザートを巡るじゃんけんに参じていた情景が目に浮かぶ。

 デザートによっては競争率は高いはずだし、それで負けたことが無いのは意外と凄い。


「私はじゃんけんで負けたことが無いわ」


 佐那はその上を行く。

 なんと、じゃんけんで負けたことがないらしい。

 これまでの一生でじゃんけんに負けないとは、どれほどの豪運なのだろうか。

 ……しかし、千尋の頭にクエスチョンが浮かんだ。


「……そもそも、じゃんけんする相手が居たの?」


 佐那は大企業のお嬢様。

 しかも、社交的とは言いづらい性格だ。

 友だちと楽しく、じゃんけんをしている姿が思い浮かばなかった。


「そこ、うるさいわよ」

「もしかして、仲間ですか……?」


 ぼっちがキラキラした目で佐那を見詰めた。

 しかし、向こうは孤高の一匹オオカミ。

 友だちができない彩芽や千尋とは違うタイプである。


「最初はグー!」

「最初はグー!」


 なんだか、美少女二人が本気でじゃんけんをしている姿はシュールだった。


 この後、二人は十回連続の『あいこ』という死闘を繰り広げた。

 その戦いは残っていた生徒たちが、固唾を飲んで見守るほど。


 このまま熾烈な争いを続けるかと思われた両名だが、最後は日葵が『グー』によって勝利をおさめた。

 日葵は勝利をかかげるようにグーの手のまま天を貫き、佐那は膝から崩れ落ちた。

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裏社会最強のぼっちだけど、美少女ダンジョン配信者の画面に映りこんでしまいました こがれ @kogare771

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