第14話 きらきら青春

「ど、どこでそんな映像を……」

「あの日、学校が襲われた日の昼休みにも私は屋上に居たんです」

「え……!?」


 学校が襲われた日。千尋は屋上に上がって襲撃者たちの動きを見ていた。

 さらに、そこで幻惑魔法を使って黒コートの姿に変身。

 その後は体育館へと向かって様子を見ていたのだ。

 この映像を撮られたのは、まさにその時だったのだろう。


「私は友人が居ないので……いつも屋上に来て一人でご飯を食べてるんです。あの日も屋上で食べてたら騒ぎが起こって、だけど私だけは襲撃者の人たちにも見つからなかったんです」

「ぜ、全然気づかなかった……」


 千尋は裏社会で生きてきたプロである。

 ぼんやりしている平常時ならともかく、まさか非常時に人の気配に気づかないとは思わなかった。


「まぁ、私は影が薄いと言われるので……」

「ご、ごめんなさい……」


 影が薄いでは済まされない。彩芽のステルス能力はプロ級だ。

 だが、本人としては嬉しいことでもないだろう。

 千尋はぺこぺこと頭を下げる。


「別にかまいません……私と友達になってくれるなら」

「と、友達と言われても……」

「お願いします。私はキラキラした青春が送りたいんです。小中と灰色の学園生活でしたけど、高校くらいは輝きたいんです」


 どうやら、彩芽は青春に強い憧れがあるらしい。

 それならば千尋に頼るのは不適当。

 千尋だって、ぼっち生活を送っているのだ。青春なんて分からない。


「いや、それなら僕よりも頼むべき人が居るんじゃ……僕だってぼっちだし……」

「何を言ってるんですか。千尋くんはリア充です。だって美少女を二人も侍らせてるじゃないですか。両手に花でしょう?」

「侍らせてるって……」


 だが確かに千尋は、日葵と佐那と一緒に居ることが多くなった。

 成り行きで彼女たちの推し活に付き合っているだけなのだが、はたから見ると侍らせているように見えるのかもしれない。


「しかも、黒コートとしてネットでもバズってます。リア充はSNSを利用するのが当たり前なんですよね? もうリア充オブリア充じゃないですか」

「いや、それだってバズりたくてバズったわけじゃ……」

「お願いです。私もリア充にしてください」

「……ダメだ。話を聞いてくれない」


 深く頭を下げた彩芽。

 千尋が良い返事をしなければ、意地でも動かないという意思を感じる。


(……どのみち、あのデータがある内は下手に断れない。仕方ないか)


 残念がら彩芽の手には、千尋の心臓を撃ちぬく『銀の弾丸』が握られている。

 下手に断れば社会的に死ぬ――いや、裏社会的に死ぬ。

 ここは素直にお願いを聞くしかない。


「分かった。協力はするけど、その動画は消してくれるかな?」

「もちろんです。私が青春に満足したら、きっぱりと消去します」


 こうして、千尋は彩芽の青春活動に付き合う事となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る