第49話 先輩後輩 後編

ーリンー

「..........」

康輔.....だいぶ押されているわね。

でもこういう感じになるのは康輔も想定内だったはず。そもそも弱化がかかっている時点で、いい勝負どころではなく、一方的な虐殺に近かったのだから。

いくら通常に戻ったとしても、まだまだ力を出していない祐希には勝てない。

そんなことは康輔が一番わかっているはず。

だったら、どうするのかしら.........って、もうわかりきってるわね。

私が教えた康輔が放てる技で上級魔法にも匹敵する、奥の手。

康輔だからこそ、上級魔法に匹敵する初級でも中級でも上級でもないあの魔法。

........でも動きを少し止めたりしないといけないのよね.....あれ隙が大きいし....。

現段階で康輔が使える魔法の中で拘束力が高いのは、"ブリザード・アクス"。

あれが防がれたとなれば............どうするのかしら。


.............、.忘れたりしてないわよね?



ー康輔ー

どうにかして隙を作らねぇと話にならねぇ.....。


「"スリート・ムーロ"!」

氷の壁が何枚か並んで直線上に出現する。


なんとかこれで時間を稼げればいいのだが.............。


しかし、そんな康輔の願いも虚しく、氷の壁が砕かれる音がその場に響く。

そしてそれは次第に大きくなっていく。つまり次第に近づいてきているというわけだ。

「.....この強度でも砕くか.....」

結構な強度なはずなのだが、それすらも祐希を止めるには至らないようだ。


Tips

身体強化魔法の重ねがけは広く使われている身体強化魔法の使い方。

しかし、4枚目から消費魔力量が比例しなくなる。

例えば、3枚重ねがけすれば、3倍に使用魔力量になるが、4枚目から8倍といった感じで、とんでもない消費へと変わっていく。(なお、5枚は18倍、6枚は31倍)

なので、康輔は4枚目以上を重ねがけしようとしない。


バリン!

その瞬間、目の前の氷の壁が壊れ、一瞬で祐希が仕掛けてきた。

もはや、問答無用といった感じだ。


どうしてそこまでして俺を殺そうとするのだろうか。

何がパイセンを突き動かすのだろうか。


「っ.....!」

またもや鳩尾を殴られた。

徹底的に急所を狙って攻撃してきている。

一気に乱打されたら終わってしまう。"ヒール"を使う前に攻撃されたら気絶は間違い無いだろう。

「.......っぅ....」

壁に激突する。

康輔が奥の手を使うためには、祐希に隙を作らないといけない。

どうすれば隙を作れるのだろうか......そんなことを康輔は考える。

その間も祐希の攻撃は止まらない。

しかし、今度は康輔から仕掛けに行った。

目の前まで行き...."ファントム"を使った。

「..... 後ろ!」

先のように見破られてしまい、一瞬のうちにして握られた剣で首を———刎ねられることはなかった。

「......っ⁉︎」

後ろを向いた祐希は背中から、"ボムボム"を喰らった。

今回はなかなかに威力が高いため、祐希も少しだけ吹き飛ばされる。


「——発動をキャンセルしたりする......」

康輔はそう呟いた。

「なんだって?」


そう、康輔がやったのはリンにやられていた"オブスタ"である。

"オブスタ"は発動をキャンセルさせたりすることができる妨害魔法である。

今回やったのはキャンセル。

元々魔法というのは、ごく僅かであるが、準備フェーズと発動フェーズというものがある。準備フェーズはイメージや魔力を操作する時のこと。

おもに、魔法をその場や出現させるときのことを言う。

発動フェーズは魔法を使うこと。

例えば、"ファントム"であれば、幻影を生み出した時が準備フェーズ。

幻影と入れ替わるのが、発動フェーズ。

"アイシクル"でいえば、氷柱を出現させるのが準備フェーズで、相手に放つ(氷柱が相手に向かっていく)のが発動フェーズ。

"クイック"はわかりずらいが、風をイメージしながら魔力を操る時が、準備フェーズ。そして、実際にクイックが付与された時(スピードが上がった時)が発動フェーズ。

ここまでくればわかると思うが、準備フェーズは持ち越す事が可能で、"ファントム"なら幻影と入れ替わるタイミングをずらすことも可能。"アイシクル"もその場で停滞させることも可能。ようはイメージがほとんど鍵をにぎる。

話を戻すが、康輔は自分自身に"オブスタ"をした。

"オブスタ"による発動キャンセルは、準備フェーズまでは行えるが、発動フェーズに移った場合、移る瞬間に準備フェーズが消える。つまりはキャンセルされる。


"ファントム"の準備フェーズは幻影の召喚。

つまり、その場に幻影を康輔は生み出した。そこに幻影が存在したのは間違いない。

(そもそも"ファントム"は幻影を生み出し、敵を惑わせるのではなく、入れ替わりによって緊急回避、そして撹乱するために使われる魔法である)

祐希は幻影に気付いたところまでは良かったが、康輔が入れ替わろうとしたタイミング....発動フェーズになった瞬間、幻影が消失。

祐希の攻撃は空を切った。そして入れ替わっていない。つまり真正面にいる康輔。

そして後ろを向いた祐希は真正面にいる康輔。つまり後ろにいる康輔に攻撃されてしまったのである。普通はこういう使い方はしない。

なお、"オブスタ"はあくまで、発動フェーズにいく瞬間に準備フェーズを消失させる魔法であって、解呪魔法とは別物。解呪魔法は発動フェーズに移行している状態であっても、強制的に発動フェーズをかき消す。.....まぁ、解呪魔法の中でも最上位は"オブスタ"と"ディスペル"を組み合わせたみたいな魔法だが.....今はいいだろう。


「......効かぬ!!.......と言いたいところだが、流石に効いたわ」

「....でしょうね」

「やられたらやり返っ.....す!」

またスピードが上がった。

「.......!」


これは喰らったらまずい!! "アイギスの盾ヴァント"!


※アイギスの盾とは、ギリシャ神話に登場する盾のこと。


康輔の目の前に盾のようなバリアが張られる。


バリンッ‼︎

「....っ!」

"ヴァント"が割れ、康輔に祐希の攻撃が直撃した。

そのまま、吹っ飛ばされるが、先ほどと違うのは低く吹っ飛んだということ。

何回か地面にぶつかり跳ねながら、吹っ飛んでいく。

そして、勢いが少なくなり始め、うつ伏せの状態で地面に引きずられる。

そして完全に勢いが止まった時、康輔はすぐに立てなかった。


そもそも、康輔が先ほどの攻撃を危険だと判断した理由は、威力が高すぎるからだ。

魔法は、様々な制約や代償、裏技的なもの(魔術など)が存在してはいる。

例えば、"ヴァント"は再使用までに少しのクールタイムがいる。

特に、上級魔法は制約や代償が顕著だ。強ければ強いほど、それだけ代償が必要だという考えがあるように、上級魔法には"ヴァント"のようなクールタイム。

自身の命を少し削る行為。

※なお、魔術というのは、他人を使い制約や代償を他人(多いのが奴隷といった子供)に肩代わりしてもらう事ができる。自身で制約や代償を受ける場合は、魔術ではなく魔法。魔術を使うことは禁忌とされている。

"ファントム"は入れ替わりの後、少し硬直が入る。ただしかし、中には硬直が入らないものもいる。なお、鍛えれば硬直時間を減らす事が可能。


と、ここまで魔法に制約がある、魔術のような裏技的なものがあると話したが、基本的には魔力操作とイメージが魔法の鍵を握る。

その中で、人は威力が高すぎるもの....つまり体が耐えられる威力を大幅に超えた攻撃を喰らえば、頭が真っ白になる。

頭が真っ白になれば、魔力操作はもちろん、イメージすらもできなくなってしまう。

実質魔力切れ状態に近くなってしまう。

だから康輔は先の攻撃を危険だと判断した。


魔法は万能だが、人は魔法を使うスペックがないのだ。


「.......っっっ」

康輔は"ヴァント"によって威力が落ちているにも関わらず、立てなかった。

頭が真っ白になり、"ヒール"が使えないのである。

祐希は無慈悲にも、転がっている康輔にとどめを刺そうとする。

目の前まで一瞬で移動して、康輔に祐希の剣が———突き刺さった。




しかし康輔から血が出ることはなかった。

それどころか、康輔自体が剣を刺したところを中心に歪み、煙のように消えた。これは......


———"ファントム"だ。


「どこだっ⁉︎」

祐希はその場をキョロキョロと見渡そうとしたその時、後ろから康輔が抱きついた。

「何してんだお前⁉︎」

祐希は康輔が何を考えているのかわからなかった。


「何してるかわからないって反応ですね」

「....なんのつもりだ」

「こういうつもり....ですよっ‼︎.......っ!」

康輔の背中には、氷の槍ような棘が刺さっていた。


........."ブリザード・アクス"である。


「お前、何して.....⁉︎」


"ブリザード・アクス"は対象を凍り付かせることができる魔法であると知られているが、それは正確な情報とはいえない。

正確には、『』が正しい。

さらに、何センチ以上刺さらなければいけないという制約もある。


「刺さらないのなら......刺さるものに刺せばいい」

康輔と祐希はくっついている。つまりはひとまとまりの物体と言える。

つまり.......

「⁉︎」

康輔と祐希は凍りついた。

......引き分けのように感じるが......

「.....っ!はぁ....はぁ.....」

康輔はファントムにより、氷の中から脱出した。


※体の肉が完全にカチコチになるのではなく、氷に覆われるといった方が正しい。


「"ヒール"」

康輔の傷が回復した。2回目で全回復した。


なお、先ほどまで康輔はあばらが2本折れており、何個かの内臓が損傷。血管損傷により内出血が多数。擦り傷もある。


そんなことをしていると、何かにヒビがはいる音が響いた。

「時間はないか.....けど十分だ」

康輔は右手に魔力をためる。


........ある意味、これを初めて使った相手とほぼ同じ、ほぼ物理無効だよな先輩って。


氷が完全に割れた。祐希を止められたのは、せいぜい10秒だけだった。


4分の1の魔力使っても10秒しか止められない........か。ほんとバケモンだなぁ.....。


「康輔っ!!!!」

康輔目掛けて一瞬で一文字斬りが放たれる。

......がしかし、それは康輔をとらえない。康輔は後ろに飛んでいた。

「引っかかったな!」

しかし、祐希は先の斬撃が避けられる事がわかっていた。

斬撃の瞬間に祐希は距離を詰めていた。普通であれば反応できないだろう。

——しかし。


わかってんすよ....先輩。


「っ!?」

康輔は左かがみになり、祐希渾身の一撃を避ける。

「——くらえ......"マジック・パンチ"!!!」

康輔の"マジック・パンチ"が祐希の腹をとらえた。

「...っ!!がはっ........」

祐希は吹っ飛びはしなかったものの、その場で倒れた。

「あがっ.......」


魔力というのは、生物の体に密接に関わっている。

魔力切れを起こすと激しい息切れを起こし、体が全く動かなくなるように。

またその逆もある...というわけだ。

.....水というものは飲まなくては生物は生きられないものだ。

でも、飲み過ぎれば生き物を簡単に死に追いやる事ができる。また、酸素も同じ。

魔力もそれと同じで、自身の持てる魔力量より大幅に超えた魔力を摂取してしまうと......体が壊れる。最悪死に至る。

魔力が無くなり起きる、魔力切れに対して、...... と呼ばれている。

まぁ、今回は調節したから死ぬことはないだろうけどが..........。


ー数分後ー

「なぁ、先輩」

「......なんだ」

先輩は立ち上がれるぐらいには回復していた。しかし、能力は使えないようだった。

「なんで自分を狙ったんっすか」

「.............」

「まぁ、言いたくないならいいんですけど....」

俺は無理に聞くのは良くないことだと思い、それ以上の詮索はしなかった。

「あっ.....そういえば鏡花と約束があるんだった」

「?」

「先輩、そこに立ってもらえます?」

「敗北者に拒否権はないさ」

先輩は俺の前に立つ。

「先輩..............歯を食いしばってくださいよ?」

「んぁ?」

俺は、ドレスを捲し立てるポーズをした後、そのまま右足で、先輩のあそこを蹴った。

「お嬢様キック、ですわ〜!!(裏声)」

キーン

「お嬢様だって戦えますのよ!(裏声)」


先輩は泡を吹いて倒れた。


※俺 身体強化系により身体能力2倍(康輔のアルミスト体質で4倍) 祐希 無強化

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