第40話 ピンチ!! 1

今回は同じ場所に5、6回の連撃が飛んできているだけだったので、"気づけぬ幻影ファントム"で容易に避けることができた。しかし、避けた先に男がいた。

その瞬間、死ぬ気がした。明確な死の予感。

今すぐこいつから離れないと殺される気がした康輔は、ろくなイメージもなしに"気づけぬ幻影ファントム"を使った。

「"気づけぬ幻影ファントム"!」

しかし、ろくにイメージもしない"気づけぬ幻影ファントム"がいつも通りの"気づけぬ幻影ファントム"と同じな訳がなく...(それに今は60%ダウンです)

「......っ!」

幻影を作り出す時間がいつもより遅れてしまい....さらに入れ替わりにも差が生まれてしまった。そのせいで、5回も喰らってしまった。

血飛沫が上がる。しかし、空気の刃はそこまで深く入っていなかった。

斬られた箇所を手で押さえながら、身を翻しながら、距離を取る。

「"自然治癒ヒール"」

今回は、"自然治癒ヒール"を3回かけてようやく完治した。

「....回復まで持ってると...なるほどな」

「あの時....模擬戦の時に現れた男だな」

「ご名答。俺の名はUだ」


.........U...?何かのコードネームか?いや、そんなことは今はどうでもいいな。


康輔は今まで以上に集中する。

Uはあの力が出るとは思えないほどスラっとしている。やはり能力者なのは間違いないようだ。

「もしかして、あの男の仇打ちだったりすんのか?」

「んなもんじゃねぇよ。Bは負けて俺らの仲間だった。それだけのことだ。それ以上でも、それ以下でもない。仲間は仲間だろ?」

どうして嘘をつくのか....康輔にはわからなかった。

康輔にはリン達のような読心術を持っていない。しかしこれだけはわかる。この男は嘘をついていると。拳を握り、自分に向けて殺気を放っている。そして、ついこの前にこの男の仲間を倒した。

これが仇打ちじゃないなら、なんだというのだろうか。

「じゃあ、なんだってそんなに殺気を俺に向けるんだ」

「そりゃ、お前が俺らの邪魔だからに決まってるだろ」

それすらも嘘だ.......

康輔は嘘だと見抜いていた。しかし、なぜ嘘をつくのかはまったくわからなかった。

それは、かつて戦った影使いのそれとは比べ物にならないほどの殺気だったからだ。

しかし、自分を殺しにかかってきていることには変わりない。

攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、Uがその場から消えた。尋常ではない速度だ。

しかし、先ほどとは打って変わり、康輔はUの動きを捉えることができていた。

これは、康輔が先ほどかけた"風の申し子クイック"や"火に魅入られた者ブレイク"などの身体強化系のおかげである。

本来康輔は、常時魔法として"風の申し子クイック"などをかけている。それは、動体視力を上げる"小動物の目アイセンス"も使っている。しかし、先ほど吹っ飛ばされた時に、それだけでは反応できないと康輔は理解した。

じゃあ、どうすればいいのか。単純である。足せばいいのである。

2より大きい、4に勝つにはどうしたらいいのか。2に2回2を足せばいいのである。

2に2回2を足せば、6になる。4は6よりは小さい。

康輔がやっていることは、同じこと。"風の申し子クイック"などを二重にかけていた。

今現在、康輔は弱化してしまっている。そのせいで60%ダウン。簡単に言えば、魔法の使用魔力量が2倍になっている。2倍と2倍のものを使えば、使用魔力量は4倍になる。

魔力量自体が減っている中で、この消費はだいぶ痛いと言えるだろう。

しかし、喰らうわけにもいかないこの状況の中、やるしかないのには変わりない。


康輔はUのパンチを左かがみになり、避ける。

そして、相手の顔面に強烈なパンチを入れる。完全に決まった。モロに入った。倒せなくとも、結構なダメージになっただろう。

そう、思ったのも束の間だった。

一文字切りが康輔目掛けて繰り出された。体を仰け反らせ、なんとか避けることに成功する。しかし、避けることができた反面、体制を崩してしまった。Uは、康輔の体制を崩すことを目的で一文字切りを繰り出していた。つまり、康輔は相手の策にハマってしまった。

「...チィィ!」

拳が握られこちらに迫っている右腕を確認した瞬間、康輔は後ろに跳ぶ。こうすることで、ダメージを減らす作戦なのだ。

それでも、それは所詮足掻きにしかならない。先程のお返しかのように、顔面にくらってしまった。また吹っ飛ばされていく。

康輔は木や、家の壁などに手をかけ、勢いを殺そうとする。

さすがは勉強バカである。二番煎じは喰らわないということだろう。最初に食らった時よりは早く勢いが止まったが、それでも数百メートルまで吹き飛ばされていた。

康輔は"自然治癒ヒール"を唱える。そして素早くその場から離れる。4メートルまで移動した瞬間、先ほどまでいた康輔の場所には、斬撃の嵐が降り注いでいた。この男に二番煎じは通用しないことが2回目にしてわかったのか、斬撃の嵐が止んだ。

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