第39話 開戦
とうとう康輔の番が目の前になったところでリンに呼ばれた。
「んで、呼んだ理由is何?」
「んなもん決まってんでしょ。あんたに弱化をつけんのよ」
「はぁ⁉︎」
「私に一丁前に殺すなとか言ってたくせに、自分だけ通常通り行こうなんて、そんな虫のいい話なんてないわよ」
「....お前の弱化、結構弱化がつくからめんどくさいんだけど....」
正直、康輔は弱化などの魔法は防ぐ術を持っている。(50%の確率がついてくるが)
しかし、弱化を防ぐことができるのは、あくまで付与されるまで。
付与されてしまったら、解除することはできなくなってしまう。それが弱化魔法のめんどくさいところなのだ。
まぁ、それこそ弱化...という名に相応しい効果なのだろうが....。
現時点の康輔が使えないというわけではなく、上級魔法にもない。完璧に付与を防ぐというものはあっても、付与されたものを消すという魔法はない。
病気のようなものだ。
マスクや手洗いといった、防ぐ手段は豊富にあるのに対し、治すことができない。自然治癒、つまりは時間が経つのを待つしかない病気は色々とある。
弱化魔法もそういうことだ。
そして、初級弱化では全ステータスが20%減だ。
これだけでも強力なのはわかるだろう。もし、体力を可視化したとして、1000だったとしよう。それが800になるのだ。結構痛手だろう。
しかし、リンは康輔よりも長きにわたって魔法を極めてきた魔族である。
そのため当然、弱化魔法も上級が使えてしまう。
弱化魔法の上級は、なんと全ステータスを60%下げてしまう。
さっきの1000でいえば、400になってしまうというわけだ。
それが全ステータスになる。割合によるものは、本当の面倒なのだ。
いくら康輔の魔力が莫大といっても、60%も下げられてしまったら、リンの魔力量とほとんど変わり無くなってしまう。
さらに、魔法の威力も60%ダウンだ。
.....逆に使用魔力は約2倍である。
もし、この状態で命を狙ってきたあの男と戦っていたら勝てなかったかもしれない。
康輔の反応がすこぶる悪いのはこのせいである。
(なお、康輔の試験によって、60%という数値が出た)
魔法使いが弱化を嫌う理由は魔法の威力が弱まるからではない。
それだけなら連発すればいいからだ。攻撃力だって魔法で強化できる。
じゃあ、なぜ魔法使いは弱化を嫌うのか。
それは、先述した使用魔力量が2倍になることが挙げられる。
このせいで連発をしなければいけない状況なのに連発できないという矛盾が発生するのだ。
(なお、これ以上の説明は長くなるので今は割愛します)
(弱化魔法は主に異世界での話で出てきます。能力者に使ってもあんまり意味がないから)
「.....はい、できたわよ」
「やっぱり体が結構だるくなるんだよな....」
俺は軽く跳んでみるが、やはり体が重い。
「しょうがないでしょ。あんただって殺る可能性があるんだから」
「.....しゃーなし。行ってくるわ」
「それでは皆さん⁉︎準備はいいですね?」
司会者が変わらぬ口調でそう声をあげる。
司会者というのは声が枯れるというのを知らないのだろうか。
康輔はそんなことを思いながら対戦相手を見る。
すると、妙な既視感が康輔を包み込んだ。
それと混じり、歪な雰囲気が康輔を包む。
康輔の本能が言っている。この相手が普通ではないと。
「レディ.....」
相手は女子。だけど見た目には全くと言っていいほど合わないおぞましいものを感じる。油断をすると殺されてしまうような....気がする。
「fight!!!」
その声と共に康輔は吹っ飛んだ。
「う"っ」
はぁ?なんで?
考える暇はなかった。康輔が今倒れているのは、リングの外。このままでは10カウントで康輔の負けになってしまう。そんなのは康輔のプライドが許せなかった。
思えば、康輔は今までカッコ悪い戦いしかしてこなかったと言える。
いじめに対しても、無能力だからとそれを受け入れていた。
確かに、反抗することもあった。
康輔は元々今のような強気な性格だったからだ。
それが痛み。というものを通じて抑えられていただけで。
反抗しても負けていった康輔は次第に反抗しなくなっていた。
しかし、今は反抗できる。今まで好き勝手してきた能力者と対等に戦える。
だから、康輔は魔法を覚えた。
しかし今はそんな話はどうでもいい。重要なのは、なぜ吹っ飛ばされたのか。ということだ。それがわからなければ、意味がない。
また吹っ飛ばされた場合、10カウントで確実に負けてしまう。"
なんの能力だ?
何かに攻撃された感じはしない。そもそも
康輔の
起き上がろうとすると、なぜだか転んでしまった。
これも相手の能力なのだろうか?
康輔は現在、40%の力しか出せない。そして魔力量も通常の40%しかない。
本来であれば、魔力量が尋常じゃない康輔は、主に持久戦に持ち込む or 魔力量が多いが威力が高い魔法を連発し、短時間でケリをつけるという戦い方がある。
しかし今回はどちらも使えない。
魔力量が減り、そして使用魔力量が増えているからだ。
このままだとジリ貧だ。
相手の能力がわからない以上、迂闊に行動できないが、行動しないと負けてしまう。
矛盾に矛盾を呼ぶこの状況の最中、聞き覚えのある爆発音が響いた。
「なんだ!?」
その瞬間、観客が悲鳴を上げた。
起き上がり、前を見ると、ちょうど対戦相手が視界の先にいた。
しかし、聞き覚えのある爆発音と康輔を包んでいた既視感が、康輔の忘れていたことを思い出させた。
「.....っ⁉︎お前は.....!」
康輔はようやく思い出した。模擬戦の日のことを。
「思い出したー?」
そう彼女は言った。
そう、あの模擬戦の日に起きたテロ行為とも言えるあの事件。
あの時と同じ爆発音、そしてあの場にいたあの女。それが彼女だった。
「なんでテメェがここに...」
それも束の間、目の前には爆発音の首謀者であろう男が目の前まで来ていた。
康輔はあの組織の人間がいることで、少しだけ油断していた康輔は男に反応できなかった。
「あがっ........!」
その瞬間、腹に激痛が走る。気がつけば宙を舞っていた。
そして、間髪入れずに背中に痛みが走る。背中が壁に当たったのだ。しかし、それは康輔に加えられた勢いを殺すには至らなかった。
康輔は、壁を突き破るようにして吹っ飛んでいく。
何枚も、何枚も。壁を突き破っては背中に激痛が走る。
数秒後、"
「......っ!」
立とうとするも体が痛み、うまく立てない。
そして、声すらも出せないほどに、康輔はダメージを受けていた。
"
康輔はなんとか立てるようになった。
<教えて!桜田先生!>
はいはい、桜田さんです。皆さん、どこがわからなかったのかな?
Q どうして康輔は唱えなくてもいい魔法名を唱えるの?
A イメージしやすくするためですね。強弱をつけて、言うことによって、イメージしやすくなります。
<終わり>
しかし、その瞬間、
「.....っ!」
目の前を見ると、無数の斬撃が出てきていた。
「ファ....」
唱えようとするが、
「多すぎ....」
"
まさか....模擬戦の試合を見ていた?そして、あいつの攻撃を避けるときにも俺は"
"
その1〜4メートルは無数の斬撃で埋め尽くされていた。いや、軽く10メートルは埋め尽くされていた。
"
康輔は氷で剣を作る。氷華と同じことを康輔はすることができた。そして、雷系や風系の魔法は剣を作るのではなく、付与しかできない。それに対して氷は付与だけでなく、作ることもできる。(作れるには作れるが、固体の剣が作れるのは氷だけ)
"
(口に出して言うと、時間が足りないため)
康輔は氷でできている剣、
10メートルの範囲全てに斬撃で埋め尽くされているだけであって、そこまで連続で斬撃が連なっているわけではない。
空気の斬撃を受けるたびに鈍い音がなる。非常に重い斬撃だが、受けきれないほどじゃない。しかし、数発受け切った時に、
パリィン....。
「.....っ⁉︎」
「.......地味に威力が高いのめんどくさい..........」
しかし、その後もまた斬撃が飛んできた。.....斬撃というか空気と言えばいいのだろうか。
瓦礫が徐々に削られているものの、瓦礫は分厚い。これならまだまだ瓦礫が壊れる様子はない。
少しすると、空気の斬撃の嵐が止んだ。
そして静けさがこの場を包み始めた瞬間、足音が響く。
そっと、"
そして、付与が終わったと同時に瓦礫の影から飛び出す。
先制攻撃を仕掛けて相手の能力を確認する魂胆だった。それでも、空気の斬撃とあのパワー。大方、予想はついているが。
そして、一瞬のうちに魔法の"
「遅過ぎんだよノロマ」
そう男が言ったその瞬間、腕を掴まれてしまった。そしてそのまま、投げ飛ばされる。その先にあったのは———"
そのまま、"
当然、自分の魔法を喰らう奴なんかそうそういない。
魔法は解除魔法を使わなければ、消すことはできない。それはあくまで相手の魔法だった時である。自身の生み出した魔法なら消すことは容易い。魔力は帰ってこないが。
自身の魔法に当たるなんていう魔法使い....いや、魔女としてはダサすぎることをしてしまうところだったと...胸を撫で下ろすのも束の間、また斬撃が飛んできていた。
...あいつの剣、どうなってやがる....さっき右腕には何もなかっただろうが....。
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