第38話 氷の女王 後編

「あれでいくとしますか....」

氷華は右手に意識を集中させる。

すると、氷華の右手には氷でできた剣ができた。差し詰め氷剣とでもいうのだろうか。氷の耐久度はさっきの氷の壁とは比べ物にならないほど高い。

「掴まれるのを警戒してリーチがある剣での勝負を選ぶか....フン。いいぜ。こちらも剣で戦ってやるよ」

光一の右手にも炎の剣....というよりは溶岩...?のようなものが固まったものでできているように見える。しかし、固まっているからといっても熱は溶岩のそれのように健在のようだ。ただただ固まっているから冷めている....というわけではないようだ。

当たったらひとたまりもないが、掴まれることへのリスクは減ったと考えると勝率は上がったと言えるだろう。

「これでケリをつける‼︎」


試合開始のように2人は睨み合い......そして氷華が今度は先制を仕掛ける。

キンッキンッキンッ!

剣の打ち合う音が響く。


ちなみに萌音はこの時気づいていた。

(......氷華ちゃん。剣なんて使い始めたけど、ケリをつけるなんておかしいよ。だって———)



氷華と光一の剣戦は両者譲らず、決着がつきそうであった。

今の状況は一方が攻撃をすればもう一方が攻撃を剣で弾く。

その繰り返しだ。一見すると、決着がつきそうにならないように聞こえるかもしれないが、先も言っているように、氷華は右腕の半分の力しか出せない。

それに対して光一は万全の状態に等しい。そして男子だ。

どっちが強いかなんて明白。

氷華ですら自明だとわかっている。このままでは負けると。


また同じ繰り返し...に見えたその瞬間、

氷華は一文字斬りを瞬時に真向斬りに変えた。

そしてそれを本命かと思わせておいて、氷華はその場で飛ぶ。

そして剣を上に構え(上段の構え)、とび斬りのように見せかける。

それを見た光一は剣を盾にして受けようとする。

しかし、氷華はこれを狙っていた。

自身の足元に氷を出現させ、それを踏み台に高く飛ぶ。

そして氷華のいた場所の後ろにあったのは氷の粒。

飛び斬りだと思っていた光一は少し判断が遅れてしまった。

「お返...しっ!」

氷の粒が光一の腹に直撃した。

光一は吹っ飛び、先の氷華のように、リングギリギリまで吹っ飛んだ。

「はぁ...スッキリした」

そして、光一は立ち上がる。

「こんなんでダウンしないでよ?」

「ふっ...ほざけ....」

また剣の打ち合いが始まった。

さっきと違うのは、両者とも剣を打ち合いながら、氷の粒と炎の球の撃ち合いもしていることだ。


しかし、今度は光一が仕掛けてきた。

「おらよっと」

氷華の足目掛けて、足払いをする。

氷華は少し足を上げ、足払いを避ける.....がしかし、

「んな...」

足元に注意が入ってしまった氷華は自身の『手』に向けられた攻撃への判断が遅れてしまった。

「しまっ——」

右腕が掴まれてしまった。その瞬間、

「ああぁあぁぁああ!!!」

氷華の右腕に激痛が走る。

しかし———氷華はこれを狙っていた。

氷華は、光一の腕を掴み返す。


数分前の萌音

(だって———腕に力を入れてないんだもん....。まるで自然に素手での勝負に持ち込もうとしてる....?もしかして.....隙を作るために?)


「お前...何をっ⁉︎」

光一は慌てるが、氷華は手を離さない。

「浮きなさい」

そう言って氷華は横蹴りを繰り出すのと同時に手を離す。

すると、モロに横蹴りをくらって、体は浮く。

しかし、光一は気付く。

蹴りに力が入っていないことに。

しかし、氷華を見ると、氷華は笑っていた。

「こうにぃ......あれを教えてくれてありがとね」

そう氷華は言うと、1人の魔女が教えてくれた魔法を再現する。

「ブリザード・アクス!!」

氷華の足元から氷の棘が出現する。

そして光一に向かって棘が伸びている。

しかし、光一は空中に浮いているため避けることができない。


彼は溶岩(固)を作り出せるが、作るのには少しの時間がかかる。

氷華と違って、固体をすぐに作り出せない短所がここで牙をむいた。


グサッ

「グッ....」

そして、光一は凍りついた。

そして、氷華は振り返り、少し離れたところで止まる。

勝ちだと確信しているのだろう。

しかし10秒後、氷が溶け始めた。

そして、光一が氷華に飛び掛かるが.....


「光一さん!あなたの負けです!」

司会者の人がそう言った。


「はっ?」


光一はダウンもしていない....じゃあ、なぜ光一は負けたのか。

光一が刺さって凍ってしまった場所が問題だった。

そう。ギリギリのところでリングからはみ出してしまっていたのだ。

そして、光一が抜け出すのにかかった時間は10秒。

つまり、立派な10カウントである。

もう少し抜け出すのが早かったら氷華は負けていただろう。

なぜなら、右腕はもう使い物にならなくなっているからだ。

あのまま、左腕や足を潰されて終わっていただろう。

リングギリギリまで吹っ飛ばしたのはこのためであった。


なにはともあれ、氷華は勝った。


疲れた彼女を出迎えたのは、数秒後に鳴り響く歓声と仲間の労いの言葉だった。


作者からの一言

能力祭で凝った戦闘はこれだけです(ほんと主人公とメインヒロインが凝った戦闘じゃないってどう言うことなんだ....)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る