第15話 初能力者戦

その場の生き物.....動物は自分の住処を離れた。

理由は簡単だ。


命の危機を感じたから。


沈みそうな船がある時、そこにいるネズミは一斉に船から降りようとする。


地震が起きそうな時、ナマズは異常な行動をとる。


ペットなどの犬や猫は、地震が起きそうな時、落ち着きがなくなる。


それは、彼らの危機回避能力が優れているからだ。


対しては人間は危機回避能力は動物と比べると低い。


自身は揺れが起きなきゃわからない。


陥没、故障などが認識できて、初めて沈没するというのがわかる。


しかし、その場には何もなかった。


男が2人、睨み合っているだけ。


しかし、何かが2人を渦巻いている。目には見えない何かが。


動物達が恐れたその何かは何なのだろうか。


緊迫した空気?風?熱さ?寒さ?


どれも違う。


彼らは感じ取ったのだ。



能力と.........魔法のぶつかり合いを。




「さてと.....」

康輔は相手を見る。

その時間が永遠に続くかのような——そんな感覚に陥っていた。

相手も感じているだろう。


隙のない相手との探り合い、そして自身も隙を作らないように徹する。


そんな.....両者とも隙がない探り合いというのは、永遠のように感じるほど、集中しなくてはならない。そうでないと相手にやられるからだ。


しかし、康輔は大雑把な人間だった。


探り合いは無意味、心身共に削って削って、潰れてしまうだけだと思い、一直線に男に走った。


男は笑っている——不気味なぐらいに。


康輔は嫌な予感がしたため、男との距離が3メートルになったところで制動した。


——しかし。



「康輔が心配なのよねぇ」

「こうにぃは強いし大丈夫ですよ」

「康輔は大雑把なの。知ってると思うけどね。その大雑把が危ないのよ」

「え?」

「未知の敵には平気で突っ込んでいくのが彼のスタイルだけど、それって危ないの。今まで康輔が平気だったのは弱かったりしたから」

「あ....」

「この世界じゃそうはいかない。康輔が言っていた通り、能力者が異世界の魔物や魔族、人間と比べ物にならないぐらい強いのならね」

「.......」

「それこそ、康輔が最も警戒しているランクAだったらやばいでしょ?世界を滅ぼせる相手にいくら康輔が強い、アルミストだからといって、一発もらう覚悟で攻撃を最初に仕掛けるのはリスクが大きいの」

「でも.....もうこうにぃを信じるしかないよ」

「そうなのよね」

2人は窓を見ながら不安そうな顔を浮かべた。


空は、厚い雲が覆い、雫を垂らす——準備をしていた。



「かはっ....」

嫌な予感がして制動したが——何かが康輔の右胸を貫いた。

「制動すんのが、少し遅かったか....」

だがしかし、康輔はわからない。

(何が一体、俺の体を貫いたんだ?)

「.......右胸を貫いたと思ったんだがね」

「ああ、してやられたぜ。貫かれたが、生憎こっちには回復手段があるんでな」

「.....回復関連の能力か?」

「だから能力じゃないっての」

(しっかし、まずいなぁ....あいつ、どうやって俺の体を貫いたんだ?)

「迷っててもしゃーない。分かるまで突っ込むしかないか」

そう言って康輔はまた一直線に走り出す。


——しかしまた。


「がっ....」

再度、右胸が貫かれた。

「"ヒール"」

右胸の傷が癒えていく。

「......もしかして君は唱えることでその力が使えるのか?」

「どうだかな」

康輔は曖昧な回答をすることで相手を欺こうとしている。

「なるほどな」

そう男は言うと、康輔の心臓が貫かれた。

「ぁ....."ヒィール"......」

そう康輔が唱えると、胸の傷が癒えた。

「はぁ...はぁ」

(冗談抜きで危ねぇ....)

「とりあえず、君は我々の計画に利用できる可能性が高い」

(今回襲ってきたのは、それを見定める目的もあったのか)

「だから何なんだ?」

康輔は挑発的に言うが、内心は焦っていた。

(どうしたもんか....)

「....もう終わらせてもらうという意味さ」

そう男が言った。

康輔は嫌な予感がした。

何か、見えない何かが康輔に迫っている。

あと1秒で貫く....そんな予感がした瞬間、月光が康輔らを照らした。


その瞬間、嫌な予感が消えた。

(.......?嫌な予感が消えた。それに俺は何ともない?)

「....... あ‼︎」

(そうか分かったぞ....)

「なるほどな。お前の能力が分かったぜ」

「何だと」

「さっき、終わらせると言ったお前は、完全に攻撃を仕掛けにきていたはずだ。それなのに、俺は何ともない」

「.....」

「お前は何かを操っていると考えた。そこでここにあるもので、目に見えないもの。そして、月光に照らされると操れなくなる——いや、操るものがなくなるもの。———それは......影だ」

「......大正解だ。しかし、それが分かったところで何だというのだ?」

(実際にそうなんだよな....."ライト"を使えば俺を照らせないことはないが.....光あるところには影は存在する———いや....あの方法なら?)

「考えている時間を与えるとでも?」

康輔は左に避けた。

「.....やっぱり、あんたは胸を狙う」

康輔は分かっていた。

男は影しか操れない。しかし、影だけでは胸を貫く以外に即死....に近いことをすることができないと。

(何とか、あれをするんだ....)

康輔は走り出した。

それは、男に攻撃するためではない。準備をするため。

そのため、周りを走り出した。

「.....自暴自棄になったか?」


その間も、男は何度も康輔に攻撃してくる。

しかし、紙一重のところで避けることに成功していた。

これは、元々康輔の勘が鋭いということ、そしてその勘を魔法で倍増したことによるものだった。


(よし‼︎これで最後!)

その時に、心臓に再度影が突き刺さった。

準備が終わりそうになった時に、油断してしまったことが原因だった。

「ぁ....ぐ」

康輔は"ヒール"を唱えようとした時、喉に影が突き刺さった。

「...........」

「これで唱えることはできない。安心して死んでくれ」


康輔の頭目掛けて影が飛んできた....その時だった。


康輔がニヤリと笑う。


——すると、一筋の光.....いや、グラウンドいっぱいの光源が康輔らを包み込んだ。


「な、なんだ⁉︎」


その光源の中から康輔が立ち上がる。


「な、なぜ....なぜ傷が治っているんだ」

「俺は、唱えなきゃ魔法が使えないなんて言ってないぜ」

「ぐっ....」

「影が見えるように、ここら辺をぐるっと"ライト"で覆わせてもらった」

そう。康輔からしたら、魔法を使わなくても身体強化だけで男には勝てた。

しかし、男の能力で邪魔なことがあった。


それは、影がどこにでもあるということ。

目の前になくても、後ろから貫かれる可能性がある。

最悪、足元から貫かれる可能性もある。

だから、ここら一体の影を消す必要があった。

少なくとも、後ろからの影を消す必要があった。


そして今360°、康輔らは照らされている。

ここに影は存在しない。


「それじゃあ、胸貫かれた分、ぶん殴るからなぁ!」

康輔は走り出す。

しかし、男は服で作った足跡の影で攻撃してきた。


「見えるんなら避けるのは容易いんだよ」

康輔はひらりと躱す。


そして、康輔と男の距離は0メートル。


この戦いは康輔にがあった。

背後に影があるという障壁が。



——しかし、その障壁は今消えた。


それが意味すること......つまり、この戦いの勝負は.....。



「歯ぁ食いしばれよ‼︎」

けたたましい音と共に、男が宙に飛び、そのまま落下した。


——勝者は康輔だ。

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