第15話 初能力者戦
その場の生き物.....動物は自分の住処を離れた。
理由は簡単だ。
命の危機を感じたから。
沈みそうな船がある時、そこにいるネズミは一斉に船から降りようとする。
地震が起きそうな時、ナマズは異常な行動をとる。
ペットなどの犬や猫は、地震が起きそうな時、落ち着きがなくなる。
それは、彼らの危機回避能力が優れているからだ。
対しては人間は危機回避能力は動物と比べると低い。
自身は揺れが起きなきゃわからない。
陥没、故障などが認識できて、初めて沈没するというのがわかる。
しかし、その場には何もなかった。
男が2人、睨み合っているだけ。
しかし、何かが2人を渦巻いている。目には見えない何かが。
動物達が恐れたその何かは何なのだろうか。
緊迫した空気?風?熱さ?寒さ?
どれも違う。
彼らは感じ取ったのだ。
能力と.........魔法のぶつかり合いを。
「さてと.....」
康輔は相手を見る。
その時間が永遠に続くかのような——そんな感覚に陥っていた。
相手も感じているだろう。
隙のない相手との探り合い、そして自身も隙を作らないように徹する。
そんな.....両者とも隙がない探り合いというのは、永遠のように感じるほど、集中しなくてはならない。そうでないと相手にやられるからだ。
しかし、康輔は大雑把な人間だった。
探り合いは無意味、心身共に削って削って、潰れてしまうだけだと思い、一直線に男に走った。
男は笑っている——不気味なぐらいに。
康輔は嫌な予感がしたため、男との距離が3メートルになったところで制動した。
——しかし。
*
「康輔が心配なのよねぇ」
「こうにぃは強いし大丈夫ですよ」
「康輔は大雑把なの。知ってると思うけどね。その大雑把が危ないのよ」
「え?」
「未知の敵には平気で突っ込んでいくのが彼のスタイルだけど、それって危ないの。今まで康輔が平気だったのは弱かったりしたから」
「あ....」
「この世界じゃそうはいかない。康輔が言っていた通り、能力者が異世界の魔物や魔族、人間と比べ物にならないぐらい強いのならね」
「.......」
「それこそ、康輔が最も警戒しているランクAだったらやばいでしょ?世界を滅ぼせる相手にいくら康輔が強い、アルミストだからといって、一発もらう覚悟で攻撃を最初に仕掛けるのはリスクが大きいの」
「でも.....もうこうにぃを信じるしかないよ」
「そうなのよね」
2人は窓を見ながら不安そうな顔を浮かべた。
空は、厚い雲が覆い、雫を垂らす——準備をしていた。
*
「かはっ....」
嫌な予感がして制動したが——何かが康輔の右胸を貫いた。
「制動すんのが、少し遅かったか....」
だがしかし、康輔はわからない。
(何が一体、俺の体を貫いたんだ?)
「.......右胸を貫いたと思ったんだがね」
「ああ、してやられたぜ。貫かれたが、生憎こっちには回復手段があるんでな」
「.....回復関連の能力か?」
「だから能力じゃないっての」
(しっかし、まずいなぁ....あいつ、どうやって俺の体を貫いたんだ?)
「迷っててもしゃーない。分かるまで突っ込むしかないか」
そう言って康輔はまた一直線に走り出す。
——しかしまた。
「がっ....」
再度、右胸が貫かれた。
「"ヒール"」
右胸の傷が癒えていく。
「......もしかして君は唱えることでその力が使えるのか?」
「どうだかな」
康輔は曖昧な回答をすることで相手を欺こうとしている。
「なるほどな」
そう男は言うと、康輔の心臓が貫かれた。
「ぁ....."ヒィール"......」
そう康輔が唱えると、胸の傷が癒えた。
「はぁ...はぁ」
(冗談抜きで危ねぇ....)
「とりあえず、君は我々の計画に利用できる可能性が高い」
(今回襲ってきたのは、それを見定める目的もあったのか)
「だから何なんだ?」
康輔は挑発的に言うが、内心は焦っていた。
(どうしたもんか....)
「....もう終わらせてもらうという意味さ」
そう男が言った。
康輔は嫌な予感がした。
何か、見えない何かが康輔に迫っている。
あと1秒で貫く....そんな予感がした瞬間、月光が康輔らを照らした。
その瞬間、嫌な予感が消えた。
(.......?嫌な予感が消えた。それに俺は何ともない?)
「....... あ‼︎」
(そうか分かったぞ....)
「なるほどな。お前の能力が分かったぜ」
「何だと」
「さっき、終わらせると言ったお前は、完全に攻撃を仕掛けにきていたはずだ。それなのに、俺は何ともない」
「.....」
「お前は何かを操っていると考えた。そこでここにあるもので、目に見えないもの。そして、月光に照らされると操れなくなる——いや、操るものがなくなるもの。———それは......影だ」
「......大正解だ。しかし、それが分かったところで何だというのだ?」
(実際にそうなんだよな....."ライト"を使えば俺を照らせないことはないが.....光あるところには影は存在する———いや....あの方法なら?)
「考えている時間を与えるとでも?」
康輔は左に避けた。
「.....やっぱり、あんたは胸を狙う」
康輔は分かっていた。
男は影しか操れない。しかし、影だけでは胸を貫く以外に即死....に近いことをすることができないと。
(何とか、あれをするんだ....)
康輔は走り出した。
それは、男に攻撃するためではない。準備をするため。
そのため、周りを走り出した。
「.....自暴自棄になったか?」
その間も、男は何度も康輔に攻撃してくる。
しかし、紙一重のところで避けることに成功していた。
これは、元々康輔の勘が鋭いということ、そしてその勘を魔法で倍増したことによるものだった。
(よし‼︎これで最後!)
その時に、心臓に再度影が突き刺さった。
準備が終わりそうになった時に、油断してしまったことが原因だった。
「ぁ....ぐ」
康輔は"ヒール"を唱えようとした時、喉に影が突き刺さった。
「...........」
「これで唱えることはできない。安心して死んでくれ」
康輔の頭目掛けて影が飛んできた....その時だった。
康輔がニヤリと笑う。
——すると、一筋の光.....いや、グラウンドいっぱいの光源が康輔らを包み込んだ。
「な、なんだ⁉︎」
その光源の中から康輔が立ち上がる。
「な、なぜ....なぜ傷が治っているんだ」
「俺は、唱えなきゃ魔法が使えないなんて言ってないぜ」
「ぐっ....」
「影が見えるように、ここら辺をぐるっと"ライト"で覆わせてもらった」
そう。康輔からしたら、魔法を使わなくても身体強化だけで男には勝てた。
しかし、男の能力で邪魔なことがあった。
それは、影がどこにでもあるということ。
目の前になくても、後ろから貫かれる可能性がある。
最悪、足元から貫かれる可能性もある。
だから、ここら一体の影を消す必要があった。
少なくとも、後ろからの影を消す必要があった。
そして今360°、康輔らは照らされている。
ここに影は存在しない。
「それじゃあ、胸貫かれた分、ぶん殴るからなぁ!」
康輔は走り出す。
しかし、男は服で作った足跡の影で攻撃してきた。
「見えるんなら避けるのは容易いんだよ」
康輔はひらりと躱す。
そして、康輔と男の距離は0メートル。
この戦いは康輔に障壁があった。
背後に影があるという障壁が。
——しかし、その障壁は今消えた。
それが意味すること......つまり、この戦いの勝負は.....。
「歯ぁ食いしばれよ‼︎」
けたたましい音と共に、男が宙に飛び、そのまま落下した。
——勝者は康輔だ。
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