第23話 ゲームでのヒロイン登場

 目を吊り上げ私を見る。凄く綺麗。なぜ私に向かって怒っているの?


『貴方には落花生がお似合いですわ! せいぜい地面に潜ってなさいな。私は咲き誇る薔薇の令嬢としてレオンハルト様と舞踏会へ行きますわ。貴方、参加するドレスがありまして? おーほっほっほ! そうでしょうね。貴方が地面にまで頭を下げるなら、私のお古を貸してあげてもいいですわよ?』


 なぜ怒っているのだろう? 私と知り合いなのかな? 普通にお話しをしたいな。こんな綺麗な女の子は周りにいないから。


『なぜそれほど怒っているの?』


『貴方が私の婚約者に色目を使っているからですわ! 説明をしないと理解も出来ませんの? これだから平民は嫌なのですわ』


 綺麗な女の子は私を知っているようだ。そして私が何かをしでかして怒っているのだろう。だけど私には心当たりが全くない。そもそも平民の私がなぜ目の前にいるお姫様のような貴族の女の子と知り合っていて、会話までしているのだろう?


 あれ? 上級貴族? なぜ私は彼女が上級貴族だと知っているの?


『ちょっとフィネさん、聞いてますの! 全く平民の娘は話を聞く気もないのかしら』

『どうせ皇太子殿下に優しくされて勘違いをしているのですわ』

『高貴なるユーファネート様が、あなたみたいな平民に時間を割いているのですよ! 身をわきまえなさい』

『謙虚に聞くのが当然ですわ!』

『少しばかり皇太子殿下と仲が良いからと調子にのってませんこと?』


 私が戸惑う間も、周囲にいた令嬢たちがわめいている。なんでこの人たちも私の事を責めるの? どこか醒めた頭と目で令嬢たちを見ていると、ユーファネート様と呼ばれた少女が近付いてきた。


『これだけは覚えておきなさい。これ以上、殿下に近付くのはお止めなさい。貴方だけでなく、周りの者達に良くない事が起こりますわ。では失礼』


 扇子を閉じ、冷たい目で私を見下したまま去って行く。そんな綺麗な女の子ユーファネートを私は眺めるしかできなった。なぜか拳は硬く握りしめられている。そして驚くほど歯を噛みしめていた。


「絶対に負けないから」


 自然と口から溢れ出した言葉にびっくりする。知っているのに知らない。分かっているのに分からない。自分なのに自分じゃない。そんな不思議な感覚が交互にやってくる。私は一体どうなっているの?


「なんで?」


 不思議と涙がこみ上げてくる。そんなたたずむ自分を空から見ていた私は近づき――


◇□◇□◇□

「あれ? ここどこ?」


 布団を跳ね除け立ち上がったフィネが周囲を見渡す。足元には自分が寝ていた安布団がくしゃくしゃになっていた。そして視線を回せば机に勉強道具が置かれたままになっている。小さい自分だけの居室。親に無理を言って作ってもらった勉強小屋だ。


「さっきのは夢? それにしても明確すぎたわ。学院に入るために勉強しすぎたのかな? 牧師さまが笑顔で脅かすからだよ」


 全身に冷や汗をびっしりとかいているフィネは、家庭教師をしてくれている牧師から聞いた話を思い出し身震いする。数年後に受験予定の学院は平民でも入る事ができるが貴族も多く、高位貴族に目をつけられると大変な事になる。なのであまり出来る事を見せつると嫉妬されてしまう。だから気を付けないといけない。そう牧師に言われていた。


「フィネ! そろそろ起きなさいー」


「はーい」


 母親の声が聞こえてくる。フィネは窓を開け光と新鮮な空気を取り込むと、大きく深呼吸をして気を取り直す。さっきのは夢だ。気にする必要はない。あまりにも鮮明な夢で身長が随分と大きかった。


 それに、自分が通うオンボロ学校とは違い、立派な建物で身なりの綺麗な人も多かった。正夢だったとしても未来の話なのだろうから気にしても仕方がない。


「あれが私が行こうと思っている学校なら怖いな」


 フィネは身震いする。自分を目の敵のように見ている令嬢達。どうやったらあのような目ができるのだろうか? そう思うほどには怖かった。


 だが、綺麗な女の子は怖かったが目を惹かれた。物語に登場するお姫様であったからだ。たたずまいは綺麗であり、怒ってはいたが高貴なオーラが出ているのは分かった。


「『ユーファネート様』って呼ばれてたよね? あんな綺麗な彼女とお友達になりたかったな。ふふっ、夢なのにね」


 そう呟いたフィネが苦笑する。万が一、夢じゃなかったとしたもユーファネートと呼ばれた少女には近付かない方がいい。皇太子の許嫁と周りの子が言っていた。そんな許嫁がいる男性に近づくなんて、どう考えても自分が悪い。


「うん。あまり夢の事を考えて仕方ないね! 今日も頑張って勉強しよう」


「フィネ! 学校に遅れるわよー」


「はーい。すぐ行くー」


 母親から再び呼ばれたフィネは朝食を摂るために台所へと向かった。


 彼女は知らない。ユーファネートと呼ばれる綺麗な女の子はライネワルト侯爵家の娘であり、5年後には同じ学校に入学する事を。立派な建物は学院の中でも最上位クラスの建物である事を。


 そして学院に特待生として入学する事も当然知らない。さらに夢で見たユーファネートと実際に出会うユーファネートは全くの別人である事も。


【君⭐︎公式情報】

フィネ

 君☆シリーズの主人公。つまり貴方です。精霊に愛され、特待生として学院に入学します。そこから素敵な物語が始まるでしょう。しかし、全てが順風満帆とは限りません。

 ライバルが登場し苦難が待ち受けます。貴方はそれらを乗り越え成長しなければなりません。つらくても諦めないで下さい。立ち塞がるライバルは多いですが、それ以上に素晴らしい仲間に出会えます。そして素敵な男性達も現れるでしょう。その後がどうなるかは貴方次第です。

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